林間学校編
第36話 林間学校前日
テストも終わり、瞬く間に一週間が過ぎようとしていた。
「九条さん。そんなにまったりしてるけど、明日の準備は終わってるのか?」
「もちろん。昨日のうちに終わらせてるから大丈夫だよ!」
夕飯を食べ終わった響はソファーで寝転がっていた。
「てかさ、すっかりと俺の家に馴染んでんな」
「ダメ?」
「いや、いいけどな……あまりにも馴染みすぎてるから不思議な感じがしただけ」
「彼女みたいでいいじゃない!」
「うん。違うけどな」
「もうそろそろ認めてくれてもよくない?」
「認めるも認めないも、九条さんからの告白は断っただろ」
「でもさ、この状況って傍から見たら恋人同士に見えるよね?」
「そんなこと言うなら、ご飯作るのやめてもいいんだぞ?」
「それは絶対に嫌!もう言わないからこれからもご飯作って!柏君のご飯がないともう私生きていけない!」
なんて言いながら俺に泣きついてくる響。
響が風邪で倒れて以来、ほぼ毎日のようにご飯を一緒に食べて早一週間。
ご飯を食べ終わって数時間、俺の家でダラダラするというのが日課になっていた。
(確かにこの状況を誰かが見たら俺たちが付き合っているように見えるんだろうな)
実際はそんなことなく、響きだけのことを一方的に好きなだけ。
俺が響のことをどう思っているかと問われると、答えに詰まるが、少なくとも自分の家に上げるくらいには信頼も信用もしていると思てくれていい。
もちろん、そのことは響は内緒にしている。
「大袈裟だな」
「全然大袈裟じゃないから!そのくらい柏君のご飯に心酔してるから!」
「九条さんの胃袋掴んじゃった?」
「ガッツリ掴まれました!」
「仕方ないな。じゃあ、九条さんが飽きるまで作ってあげるよ」
「てことは一生だけどOK?」
そう言って響は俺に満面の笑みを向けてきた。
「それは、さすがに考えさせてくれ……」
「え~。私は一生柏君の手料理が食べたいのに!」
「九条さんは自分でご飯作ろうと思わないのか?」
「私は作るより食べる方が好きかな~」
「あ、そう」
「だから、柏君が私専属の料理人になってくれたら嬉しいな~」
「ならんからな?」
「それは分かんないじゃん!」
何を思ってそう言ったのか分からないが、響のその言葉には自信のようなものがあるように感じた。
「さて、そろそろ送っていこうか?」
「もうこんな時間か~。柏君と一緒にいると時間が経つのが早いな~」
響を家まで送るために一緒に家を出た。
すっかりと暗くなった空には綺麗な満月が浮かんでいた。
そんな満月を見上げて俺は何気なく呟いた。
「月が綺麗だな」
「そうだね。今日は綺麗な満月だね」
「明日も天気になるといいけどな」
「林間学校楽しみなの?」
「まぁな」
「そうなんだ」
「九条さんは楽しみじゃないのか?」
「う~ん。温泉は楽しみだけど、旅館があるのが山の中じゃない。私、虫は苦手なんよね~」
「確かに虫はたくさんいるかもな」
「でしょ~。でも、温泉は楽しみなんだけどね。温泉は」
「よっぽど、温泉に入りたいんだな」
「温泉には入りたいよ。だって、あんまり入る機会なくない?」
「確かに、初めて入るかも」
「そうなんだ!私は家族と一緒にお正月とかによく行くけどめっちゃ気持ちいいよ!」
「へぇ~。それは楽しみだな」
明日から始まる林間学校のことを話していると響の家に到着した。
「送ってくれてありがと」
「じゃあ、また明日な」
「うん。また明日」
響に手を振って帰ろうとしたら「ねぇ」と呼び止められた。
「何?」
「私はこんな綺麗な満月をこれからも柏君と見たいよ!」
そう言うと響は「おやすみ」と家の中に入っていった。
「一体何だったんだ?」
その言葉の意味が気になったが、俺は立ち止まることなく自分の家へと足を進めた。
夜空にはまだ綺麗な満月が浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます