第32話 手を握っていて
おかゆを温め終えて部屋に戻ると響は体を起こしてベッドの上に座っていた。
「起きて大丈夫なのか?」
「うん。なんとかね」
「そっか」
俺はベッドのそばに座った。
「おかゆ食べるか?」
「うん」
「食べさせた方がいい?」
「うんって言ったら食べさせてくれるの?」
「そりゃあ……するけど……」
「じゃあ、食べさせてほしい」
そう言って響は口を開けてこっちを見た。
俺はおかゆをスプーンで掬ってふぅふぅすると響の口へと運んだ。
「美味しい……優しい味だ」
「それならよかった」
「柏君の優しさの味がする」
「それは何味なんだよ?」
そう言われて、俺も自分の分のおかゆを食べてみたが普通のたまごがゆの味しかしなかった。
「私にしか分からない味なの」
「そうかよ」
「もう一口ちょうだい」
食欲はあるらしく響はおかゆを完食してしまった。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「他に何かやってほしいことはあるか?」
「わがまま言ってもいいの?」
どんなわがままを言うつもりなのか、ベッドに横になった響は俺のことを見つめつめていた。
「俺にできることならな」
「じゃあ、私が眠るまで私の手を握ってて」
「そんなことでいいのか?」
「ほら」と俺は響の手を握った。
すると、響は「ありがとう」と嬉しそうに微笑んで、目を閉じた。
人がいることに安心したのか、響はすぐに眠りについた。
その顔はさっきよりも穏やかになったように見えた。
眠りについたのを見届けると俺はそっと手を離した。
「さてと、どうするかな……」
ずっと響の家にいるわけにもいかないし、かといって、この状態の響を残して家に帰るのは心配だし。
「とりあえず、もう一回起きてくるまでいるか……」
それで、大丈夫だそうだったら帰ろう。
そう思って、俺は明日のテスト勉強をすることにした。
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