第33話 いつもの響復活
それから、数時間後。
窓の外がオレンジ色になる頃、響は目を覚ました。
「目が覚めたか」
「うん」
ゆっくりと体を起こして、響は俺の手元を見た。
「何してるの?」
「見たら分かるだろ。勉強だよ。明日もテストはあるからな」
「そっか。ずっとそばにしてくれたんだね」
「まぁな、病人一人残して帰るわけにもいかないだろ」
「ふふ、ありがと。柏君は優しいね」
声はすっかりと元通りに戻っているようだった。
「声はもとに戻ったみたいだな」
「そうだね。柏君のおかゆのおかげかな?」
「おかゆにそんな効果があるわけにだろ」
「いやいや、愛のこもったおかゆにはそんな効果があるかもしてないよ?」
「愛なんてこめてないんだが?」
「またまた~。私は柏君の愛をしっかりと感じたよ?」
「それだけ冗談を言える元気があるならだもう大丈夫そうだな。じゃあ、俺は帰るよ」
そう言って立ち上がると、響に呼び止められた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!もう少しだけ一緒にいて!一人は寂しいの!」
そんなことを言われてしまっては帰るに帰れないだろ。
俺はその場に座り直した。
「やっぱり柏君は優しいね。これでもさ、本当に感謝してるんだよ。私一人じゃ、こんなに早く治らなかったと思うし。だからさ、ありがとうね。お見舞いに来てくれて」
「どういたしまして」
「このお礼はいつか必ず返すからね」
「いいよ。そんなの俺が勝手にしたことだし」
「じゃあ、私も勝手にお礼するから。楽しみにしててね」
「常識の範囲内で頼むな?」
「分かってるよ~。私の常識内でお礼するから」
そう言ってニヤッと笑った響の顔を見て思った。
(ああ、完全にいつものラブコメ脳の響に戻ってるわ……)
そのことに嬉しくなっている俺がいるから不思議だった。
「そういえば、今日のテストはどうだったの?」
「まぁ、かなり自信ありってとこかな」
「あ~あ。柏君と勝負したかったな~」
「ちなみに俺に勝ったら何をさせるつもりだったんだ?」
「聞きたい?」
「一応、聞いとこうかと……」
「私が勝ったらね~。唇にキッスをしてもらおうかと思ってたよ」
響は舌なめずりをして妖艶に笑った。
その仕草で艶々になった唇に俺は思わず釘付けになった。
「そんなに見られると恥ずかしいんだけど……」
「あ、ごめん……」
「もしかして、キス、したの?」
「そ、そんなこと……」
否定しようとしたその瞬間、響の顔が近づいていて俺の頬に柔らかな感触が伝った。
「えっ……」
「今日は風邪ひいてるからこれで許してね」
顔を真っ赤した響はベッドに戻ると毛布を目深に被った。
いきなり、頬にキスをされた俺は放心状態になり手に持っていた教材を床に落とした。
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