第31話 響と宗一の出会い
あれは私が中学二年の時だった。
あの頃の私は簡単に言えばいじめられていた。
初めはそこまでひどいものではなかった。物を隠されたり悪口を言われたりその程度のものだった。
しかし、ある日、私をいじめていた生徒に校舎裏に呼び出され、いわゆるカツアゲというものにあっていた。
その時に私を助けてくれたのが宗一君だった。
「おい、そんなとこで何してんだよ?」
突然声をかけられ、私の前に立っていた三人と私はその声のした方を向いた。
私たちの視線の先には二人の男子生徒が立っていた。
「誰あんた?」
「誰でもいいだろ。そんなとこで何してんだって聞いてんだよ」
「見て分かんないの?ただお話してるだけ」
「そっか……じゃあ、ってなるわけねぇだろ。どう見てもお前らが囲んでる彼女、怯えてるだろ」
「そんなことないわよね。ねぇ!」
私を脅していたリーダー的存在の女子が私に肩を組んできた。
「ほら、私たち友達なのよ。だからあんたには関係ないから、ほっといてくれない?」
「ほっとけるわけねぇだろ。目の前で女の子が困ってるのに見捨てられるわけねぇよ」
そう言って、一人の男子生徒が私の方に向かってきた。
そして、私の前に立って壁になってくれた。
「あー。もうなんかしらけたわ。行くよ」
私を囲んでいた三人はスタスタと歩いて行った。
その場に残された私は地面に座り込んだ。
「大丈夫か?」
「あ、はい……」
「立てるか?」
男子生徒が私に手を差し伸べてくれた。
私はその手を掴んで立ちあがた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして。あいつらは本当に友達だったのか?」
「まさか……そんなわけないですよ」
「だよな」
「ところであなたたちは……?」
いつの間にか、私を救ってくれた男の子の隣にもう一人男の子が立っていた。
「あれ、君は九条響ちゃん?」
「渉知ってんのか?」
「うん。知ってるよ~。彼女、学校ではかなりの有名人だよ。宗一知らないの?」
「悪い。知らない」
「だと思った」
私を助けてくれた彼の隣に立っていた茶髪の男の子が楽しそうに笑った。
「って、宗一!人助けしてる場合じゃないって!急がないと!」
「ああ、そうだな」
二人はどこかに向かっている途中だったらしく、歩いて行ってしまった。
回想終了。
これが私と宗一君が初めて出会ったときのこと。そして、私が宗一君に一目惚れした日でもあった。
その日から私は宗一君のことを知りたいと思うようになった。もっと話をしてみたいと思うようになった。
けれど、人生はそう甘くはなく中学生の間はそんな機会に恵まれなかった。
しかし、現在。
私は宗一君と同じ高校に通っていて同じクラスになっている。
これはチャンスだと思った。
宗一君のことを知って、宗一君に私のことを好きになってもらうチャンスだと。
まさか、宗一君に元カノが二人もいたことを知ったときはビックリした。けど、今は誰とも付き合ってないらしい。
だったら、まだ私にもチャンスがあるってことだよね。
元カノの二人もまだ宗一君のことを好きみたいだけど、絶対に負けない。
「ん~。あれ、俺、寝てた?」
宗一君が目を覚まして私のことを見ていた。
「ご、ごめん!九条さんの看病に来たのに、俺が寝てしまって!」
「大、丈、夫だよ……」
「あ、声少しは出るようになったんだ」
「う、ん。少ししか出ないけどね」
「無理しなくていいよ。あ、おかゆ食べる?食べるなら覚めてるだろうから温め直してくるけど」
「うん、食べる……」
「了解。温め直してくるね」
「ありがと」
床に置いてあったおかゆを持って部屋を出ていく宗一君のことを私は微笑みながら見つめていた。
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