第一回テスト勝負

第23話 第一回テスト勝負!?

「柏君買ってくれてありがとう!」

「最後の一冊買えてよかったな。人気なんだな。そのラブコメ」

「柏君は読んだことないの?」

「ないな」

「貸してあげようか?めっちゃ面白いよ!」

「せっかくだし、貸してもらおうかな」

「うん!明日、学校に持っていくね!」


 恵を助けてくれたお礼に新刊ラブコメを買いに書店に行った帰り道だった。

 響が欲しいと言っていた新刊ラブコメは最近話題の人気シリーズらしく、俺たちが行った時には一冊しか残っていなかった。

 運良く最後の一冊を買えた響は上機嫌だ。


「そういえばさ、来週例のアレがあるね!」

「例のアレって?」

「ほら、ラブコメの定番展開のやつだよ!」


 そう言われて、来週何かあったっけと俺は考えた。

 来週は確か・・・・・・。


「ああ、テストのこと?」

「そうそう!テスト!そして、テストでありがちなラブコメの展開といえば・・・・・・」

「テスト勝負か」

「正解!」

「まさか、やろうって言うんじゃないだろうな?」

「それも正解!私たちもやろうよ!」

「やらない」

「えー。何でー?」


 ラブコメで定番のテスト勝負っていうとあれだろ、勝った方が負けた方になんでも一つお願いできるとかってやつだろ。

 響なら絶対にその提案をしてくる。

 そして、俺が負けた時にとんでもないお願いをしてきそうな予感がする。

 それに、響は頭が良い。中学の時にいつも学年一位を取るくらいの頭脳の持ち主だ。

 いわば、これは戦う前から決まってる負け戦。

 学年十位にも入らない俺なんかでは相手にならないのは目に見えている。

 だから、この提案は却下させてもらう。

 

「もしかして、負けるのが怖いの?」


 響がニヤーっと口角を上げて俺のことを見た。

 

「私に勝ったら、何でも言うこと聞いちゃうのにな〜」

「だから、やらないんだよ。俺が負けたら九条さんの言うことを聞かなきゃいけないんだろ?」

「もちろん!」

「俺じゃあ九条さんの相手にならないからな。パスさせてもらうよ」

「えー。つまんないー!柏君が勝ったら、どんな提案でも受けるからやろうよ〜!」

「やらない」

「何でもだから、えっちな提案でもいいんだよ?」


 その言葉に俺は思わず響の顔を見てしまった。

 響は「ふ〜ん」と言って、ニヤニヤと笑い始めた。


「柏君もそういうことに興味があるのか〜」

「お、おい!誤解だからな!九条さんが変なこと言うから、思わず見てしまっただけで・・・・・・」


 俺は弁明するも響はまったく聞き入れていない様子。

 男だったら誰でもその言葉には反応するだろ。反応しない方が無理だ。


「柏君、私のことそんな目で見てたのか〜。へ〜。そうなんだ〜」

「だから、違っ・・・・・・あーもう!分かったよ!テスト勝負受ければいいんだろ!」

「え!受けてくれるの!?」


 響はわざとらしく驚いた声を上げた。

 俺にテスト勝負を挑ませるためにからかってたくせに。こうなったら、響に勝って、それ以外のお願いをしてやる。


「楽しみだな〜。柏君にどんなことしてもらおうかな〜」


 すでに勝った気でいる響。

 それだけ余裕ってことだよな。

 ちょっと気は引けが、あいつに頼むか。

 

「まぁ、テスト勝負なんかしなくても、柏君からのお願いだったらなんでも聞いちゃうんだけどね〜。もちろん、えっちなことも、だよ?」

「そういうセリフを軽々しくいうなよな。相手を勘違いさせるぞ」

「別に勘違いされてもいいもん。私は柏君のこと好きだから」


 そうだった。

 響は俺のことが好きなんだった。

 てことは、俺がお願いしたら、あんなことやあんなことをしてくれるっていうのか。

 

「柏君?どうかした?」

「九条さん。一回回ってワンって言って」


 何を思ったのだろうか俺の口からそんな言葉が溢れ出ていた。

 そう言ってからしまったと思ったが遅かった。

 響は少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になってくるっと一回回る。

 スカートがひらひらと宙を舞う。

 そして、少し前屈みになって「ワン!」と言った。


「これでよかった?」

「ごめん。変なことさせた」


 俺は土下座をして謝った。


「もぅ〜。大袈裟だって。言ったでしょ?柏君のお願いだったらなんでも聞くって」

「俺のお願いでも何でもは聞かないでくれ」

「それは、お願い?」

「ああ、お願いだ」

「だったら仕方ないねー。そのお願い聞き入れてあげましょう」


 そう言って響は俺に手を差し出した。

 俺はその手を掴んで立ち上がる。


「テスト勝負楽しみにしてるね!」

「お手柔らかにお願いします」


 魔が刺して変なことを響にさせてしまった俺はより一層テストに力を入れなくてはいけなくなった。

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