057.カレーライスは危険な味?!

 という事で、僕はアメリアさんとサクラ師匠を連れて、ギルドマスターのお家に帰って来た。


 どうやら、僕が朝から居なくなったと、大騒ぎになっていたみたい。

 ライル君とセレーネーさんとかくれんぼをして迷子にーーーとか、悪い人に誘拐されたのかも~~とか、しまいには悪い女に騙されてーーー!!!とか……


 だから、


 「みなさん。ごめんさい。おわびに今日は僕がカレーを作ります!」


 と、言う事になった。

 だって、チコちゃんのお母さんに、ジャガイモとニンジンと玉ねぎを貰ったからね♪


 「ごめんさい。私も、ルキ君のお手伝いをします」


 しかも、セレーネーさんこと、美月さんは、僕に付き合ってくれただけなのに。

 一緒に謝ってくれたんだ。


 「え~~、なら私もルキ様のお手伝いを~」

 「アメリアさんは、僕を探してくれたのですから、今日はゆっくり座って待っていてくさい」


 僕は丁重ていちょうにお断りしたのだけれど……


 「せめてお肉だけでも、切らせてよ~~」

 「なら、私が包丁を研いで進ぜよう」


 何故か僕を探してくれた、アメリアさんと師匠までが……


 厨房の中。


 ギルドマスターの家にある厨房キッチンは狭いのだけれど、とてもよく整理されていて。

 しかも色々な道具が用意されている。


 もしかしたら、あの強面でムキムキマッチョのギルドマスターも料理をするのかな?


 僕が野菜の皮をく横で、アメリアさんがメスを使ってお肉を解体してくれています。

 肩が触れそうで触れない距離なのだけれど、別の意味で緊張します。


 今日のお肉は大きなニワトリ?みたいな鳥で、綺麗に内臓が取り出され、丁寧に筋までが取り除かれている。

 まるで手術を見ているみたい。


 実は、僕はこれが一番苦手なんだよね。

 だって、頭とか足がまだ付いてるんだよ?

 最初に毛を抜かないといけないし……ムリムリムリ


 「ありがとうございます。アメリアさん。とても助かりました」

 「ふっ、ふ~ん、これだけは得意なのよね♪また呼んでね」


 お肉をさばき終えると、満足したようにアメリアさんが厨房から出て行った。

 どうやら、アメリアさんは、自分でも料理が苦手な事を認めたみたい。


 カレーだったら、水の量さえ間違わなければ、後はジャガイモに火が通るまで煮込むだけなのだけれどね。

 焦げないように見張る必要があるけれど。。


 代わりに入って来たサクラ師匠が、僕の事をチラチラと見ている。


 そうそう、師匠といえば、包丁を研ぐのがとても上手なのです。

 おかげで、野菜の皮剥きもスイスイ出来ちゃった。

 ちょっと皮が厚いけれど、気にしない!


 後は炒めて、水を入れて煮るだけなのだけれど、これがまた大変なんだよね。

 だって7人分だから、大きなお鍋で造るんだよ?

 まるで給食のおばさんみたい。


 特に具材が多いから、混ぜるのにも一苦労。

 もしかしたら、ギルドマスターみたいにムキムキになれるのかな?


 「ル、ルキ殿。わ、私が炒めようではないか……」

 「あ、ありがとうございます。師匠~」


 顔を真っ赤にしたサクラ師匠が、僕が持つ木べらを掴んだ。


 手と手が触れ合う瞬間……


 「ふにゃ~~」


 師匠の顔が、もっと真っ赤くなった。


 「だ、大丈夫ですか?師匠」

 「う……うむ、はぁはぁ、これしきのこと……」


 ちょっと火加減が強かったのかも。

 でも、僕はかまどの使い方を知らない。


 こういう時には、聞くのが一番!


 「セレネさん。火を弱くするには、どうしたらいいのですか?」

 「ルキ君……、それは違うと思うの」


 なぜかセレーネーさんこと、美月さんが困った顔をしている。

 あれ?僕は変な事を言ったのかな?


 でも、師匠が一緒に木べらを回してくれているから楽ちん。


 あと、二人で混ぜている横で、美月さんが大麦を使ったご飯を炊いてくれているんだ。

 僕がお願いしたのだけれど、どうしてもカレーライスが食べたかったんだよね。


 それに今日は、麦ごはんの作り方も教わった。

 水に浸ける時間と、加える水の量が重要なんだって。


 それに彼女は、パンが好きな王女様達のために、パンまで焼いてくれている。


 みんなで料理していると、なんだか調理実習みたいだ。


 そして師匠が水を入れてくれている間に、僕はカレーのルーを作った。

 と言っても、創造魔法クリエーション・マジックを使うだけなのだけれどね。


 でも、前回の反省を活かして、今日は2箱作った。

 勿論、甘口だよ!


 大きいサイズにしてしまうと、なかなかルーが溶けないからね。


 そして遂に、念願のカレーライスが完成した!

 結局、煮込んでいる間も、師匠が交代で混ぜてくれました。

 でも、師匠の顔が赤すぎて、お熱が無いかとても心配です。


 それでは元気よく、みんなが待っている食堂に、お皿を持ってレッツゴー!!


 食卓にずらりと並ぶ料理。

 といっても、カレーが盛られた器と、美月さが作ってくれたサラダとパンだけなのだけれど。


 「うわ~~良い匂い。これが本当のカレーなのね~」

 「はい。姫様のお口に合うといいのですけれど」


 前回のスープカレーと違って、今日のカレーはドロドロとしている。

 それに、美月さんのお勧めで、トマトが入っているから少しだけ赤い。


 そして、みんながそろったところで、


 「「「「「いっただきま~~~す!!!」」」」」


 因みにカレーライスにしているのは、現実世界から来た僕と美月さんだけ。


 一口食べてみると、トロリとしたカレーとモチモチの麦ごはんが混ざり合て、濃厚なハーモニーを奏でる?!


 「うん。やっぱりカレーライスが一番だね」

 「まぁ、意外と美味しい。麦ごはんでもあいますね」


 どうやら、美月さんも納得してくれたみたい。

 お米と触感は違うけれど、これはこれで美味しいと思う。


 「ちょっと味見させてね。ルキ君」


 前に座っている、占い師の恰好をしている女神様が、興味津々で身を乗り出してきた。

 僕もだけれど、女神様も食べることが大好きだよね。


 「いいですよ。でも、僕が取りますね」


 僕はカレーとライスの分量が大切だと思うんだ。

 特に1対1が贅沢で最高だよね。


 だから、自分のスプーンでカレーライスをすくい。


 「はい。あ~~ん」


 女神様に食べさせてあげた。

 因みに占い師のイレーナ、こと女神のイーリス様は、僕がマンティコアを倒してから、ここで一緒に暮らしている。

 たまに居なくなるのだけれど、誰も気にしていないみたい。


 「あ~~ん。うほぉ~~、こ、これは美味スィ~~。し、しかも、か、か、間接キッ!……ス……」


 一口食べただけなのだけれど、急に真っ赤になったほっぺたに両手を当てて、女神様がクネクネと踊り出した。

 なんだか、外国の画家さんが描いた、何とかの叫びみたいになっている。


 (よかった。喜んでくれているみたい)


 ちょっぴり喜びすぎるような気もするけれど、初めてのカレーライスは衝撃的な美味しさがあるよね。

 もう一口、僕も食べてみたのだけれど、やっぱり美味しい。


 お母さまと同じ味がする。

 あっ、でもトマトを入れたから、少しだけ酸味が増して、辛さが和らいだかも。


 「どれどれ、イレーナがそこまで言うのなら……」

 「し、仕方がないですわね。私も一口いただきますわ……」


 という事で、僕の両隣に座ているマリア王女様と、アメリアさんにも同じように食べさせてあげたのだけれど……


 「あ~~~ん。……あっん。こ、これが……ルキ君の味…………」

 「アーーーン。はっくぅ~~~天に昇ってしまいますわ~~」

 「えっ、みなさん大丈夫ですか?もしかして辛すぎましたか?」


 二人供、顔を真っ赤にして、何故かテーブルに突っ伏してしまった。

 慌てて水を飲ませてあげる。


 「アキラ君。ちょっと違うと思うの……」


 僕の事を茫然と見つめる美月さんの横で、サクラ師匠が彼女のカレーライスを一口食べた。


 「うむ、これはご飯にも合いそうですな!」

 「えっ、師匠。もしかして、この世界にも、お米があるのですか!!!」


 僕は席を立つと、師匠に詰め寄った。


 そう、ご飯って曖昧な表現だけれど、きっとあれだよね?あれに違いないよね!

 とても白くて、一粒一粒がキラキラと輝いていて、お茶碗にこんもりと盛るやつ!!


 「あ、ああ?私の故郷では米が主食だぞって?おい、ちょっと、ち、近すぎるのではないか……」

 「やった。ご飯が食べられるんだ!!」


 僕は嬉しさのあまり、師匠の両手を握って喜んだ。

 ブンブン上下に振ってね。


 「はぁう…………」


 そして、何故か師匠までが眠ってしまったけれど。


 「そ、そうですね……」

 「そうだよ、美月さん!おにぎりだって食べられるんだよ!?嬉しいな~僕……夢みたいだ~~」


 お母さまが作ってくれた、鮭のおにぎりをもう一度食べてみたい。


 ギュ~~って。


 「ア、アキラ君……はぁ~~あぁ~~~」

 「あれ?美月さん?」


 お母さまがおにぎりを握っているところを想像していたら、僕は気が付かないうちに美月さんに抱き着いていた。

 慌てて彼女から離れたのだけれど、力が抜けて長椅子に崩れ落ちてしまっている。


 (あれれ?)


 どうやら、みなさん、とてもお疲れのようです。


 それにしても、カレーライスを作った人って、凄い天才だよね?

 ノーベル賞をもらったのかな~?

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