056.成功と失敗?!
街の入り口にある門の前で、灰色のお馬さんと別れた僕たちは、チコちゃんの家にやって来た。
そこは街の中だというのに、木材をふんだんに使ったログハウスだった。
しかも玄関の前には広いテラスまで付いている。
まるで山小屋みたいだ。
そしてテラスにあるテーブルに、一人の少年が座っていた。
「あっ、トム~~」
「チコちゃん……」
再開を喜び抱き合っている二人は、まるで恋人みたい。
まだ、僕よりも小さいけれどね。
そんな二人を微笑んで見守る美月さんの横顔を、僕は美しいと思った。
あのオークに破壊された村で、僕達が再開した時の事を思い出す。
「まぁ~、チコ!どこ行ってたのよ~!」
「はぁ……、無事で良かった。これから探しに行くところだったんだぞ」
少し怒った女性と、安心したように溜息を吐いた男の人が、二人の子供を包み込んだ。
どうやら、チコちゃんのお父さんと、お母さんみたいだ。
(僕も早く会いたいな……)
と思ったけれど、僕は美月さんに向かってほほ笑んだ。
だって、彼女だって寂しいよね。きっと。
「良かったね。帰ろうか。セレネさん」
「はい。ルキ君」
僕たちは手を繋いで、立ち去ろうとしたのだけれど……
チコちゃんのご両親に、引き止められてジュースをご馳走になっている。
テラスにある大きなテーブルで。
「娘を探してくれて本当にありがとうよ。それにしても、まさかカルムの村を救った英雄が、こんなに小さな子供だったとは信じられねーぜ……」
チコちゃんのお父さんが、僕の名前を聞いて驚いている。
どうやら、僕達のパーティーがオークの群れを倒したことは有名になっているみたい。
嬉しいけれど、照れ臭いような、そんな感じ。
「いえ、あれはですね仲間が……」
「それよりも、本当なのか?坊主が魔将軍ガウヴァーを倒したってーのは?!」
筋肉が凄いオジサンが、前のめりになって聞いてきた。
髭も生やしていて、少し汗臭い。
(あっ、その事は……)
僕が魔将軍ガウヴァーであるマンティコアを倒したという事は、マリア王女さまの指示で秘密になっている。
珍しく美月さんが、あっ、やっちゃった~という顔を横でしている。
そう、チコちゃんを助けに行く前に、彼女がトム君に話してしまったんだよね。
僕が一人でマンティコアを倒したって。
どうも、マンティコアという魔物は、そんなに多くは存在しないみたいで。
しかも魔王の配下である魔将軍の事は、とても有名らしい。
今も街では、その魔将軍の一人?が倒されたって大騒ぎなんだって。
(どうやって、誤魔化そうかな……)
「えっ~~と、それはですね……」
「まぁまぁ、あなた。娘の恩人が困ってるじゃない。私が作ったパウンドケーキよ。さぁ~召し上がれ~」
「うわぁ~美味しそ~~」
「うん。とっても良い匂いがする」
焼きたてのケーキの甘い香りが、幸せを運んで来た。
(卵の香りと、あとは何だろう?甘酸っぱい香りがする)
オバサンが包丁で、湯気を立てている四角いケーキを切ると、色とりどりのフルーツが顔を出した。
(そうか、ドライフルーツの香りだったんだ!)
僕の横で、美月さんの目がキラキラとしている。
きっと作り方を教わりたいのだと思う。
そして、とっ~~ても美味しいケーキをご馳走になりながら、僕はオジサンにチコちゃんを助け出した経緯を説明した。
街を出たところでトム君に頼まれて、古い屋敷の中で気絶しているチコちゃんを見つけたと。
「え~~、でも、僕はお化けを見たよ!」
「英雄様が嘘つくわけが無いだろ。この悪ガキが!だいたいお前がうちの子を連れて行くから、こうなったんだろ」
ガツ
「うぇ~~ん、こめんなさ~~い」
よその子なのに、オジサンが思いっきりトムの頭を叩いているよ。
可哀想に……
「きっと、コウモリを見間違えたんですね。トム君が居なかったら、私たちは助けに向かえませんでしたし。その辺で」
「セレーネーさんがそう仰るのでしたら……」
この世界では、
僕と一緒で美月さんも子供なのに、大人が言う事を聞いてくれている。
という事で、美味しいケーキをご馳走になったところで、僕達はログハウスを後にすることにした。
実はチコちゃんのお父さんは、腕の良い大工さんで、自分であの大きな家を作ったらしい。
だから、腕がとても太いんだね。
そして帰り際に、オバサンがお礼として野菜をくれた。
「まぁまぁ、貰い物だから遠慮しないで」
って。
初めはジャガイモと、ニンジン、玉ねぎを持てるだけくれたのだけれど……
僕が魔法のカバンを持っていると知ると、それぞれを木箱ごとくれたんだよ。
しかもオマケにと、オジサンとオバサンが二人がかりで大きなカボチャを運んで来たんだ。
中をくり抜けば、僕が入れそうなぐらい大きいやつ。
僕のロングソードだったら、切れるかな?
そしてようやく、僕達はギルドマスターの家に着いた。
「アキラ君。今日は良い事をしましたね」
「うん。ちょっと危なかったけれど、チコちゃんが無事で良かったよ」
僕が意気揚々と玄関のドアを開けると、マリア王女様が仁王立ちしていた。
「ルキ君!どこ行ってたの!!!心配したんだからね」
そして、腰に手を当て、頬を膨らませていた王女様が、いきなり僕に抱き付いて来た。
凄く心配していたのか、涙まで浮かべている。
「ご、ごめんさい……」
僕には謝る事しか出来なかった。
美月さんが行方不明になったと、お母さまから聞いた日。
僕は家を飛び出して、彼女を探し回ったんだ。
何処で居なくなったのかも聞いていないのに、学校とか公園とか、思いつくところを全部。
そして、こんどは自分が迷子になっちゃって……
その時のお母さまと、王女様は同じ顔をしていた。
「セレネちゃんも、一緒だったのね」
「はい……すみません。黙って行ってしまって……」
王女様が二人をギューーーって、抱きしめてくれた。
僕たちは、チコちゃんの事ばかり考えていたけれど、大切な仲間の事を忘れていたみたい。
この世界には、悪い人だけじゃなくて、魔物も居るんだよね。
僕は無鉄砲だから、心配をかけてしまったみたい。
「あっ、もしかして……」
遅れてメーテちゃんが奥から現れたのだけれど、家の中にアメリアさんとサクラ師匠が居なかった。
「そうよ。二人供探しに行っているわ」
「僕、連れてきます」
もう少し、こうして居たかったけれど、僕は家を飛び出した。
いつまでも、甘えん坊ではいられないから。
「あっ、アキラ君。私も」
「ううん。一人の方が早いから」
MPが回復しているから、僕一人なら空を飛べる。
それに、
(あっ、居た)
僕には
アメリアさんの顔を思い浮かべただけで、彼女の姿が見えた。
(えっ、何でそんなところを探しているのさ~~)
何と彼女は、洋服屋さんの中に居た。
試着室の中を、次から次へと探している。
確かに僕は洋服が好きだけれど、流石に女性物は着ないと思うんだ。
それに着替え中の、大人の女性が見えているし……あっ、ブラジャーが……それに凄く大きい……
僕は風の精霊に頼んで空を飛んだ。
そして急いでお店の前に着地する。
その時、ちょうどアメリアさんがお店から出て来た。
「キャ~~……」
昔の映画スターみたいに、舞い上がろうとするスカートを必死に押さえている。
「ご、ごめんなさい。アメリアさん!」
僕には、彼女のほっそりとした足を見ながら、謝る事しか出来なかった。
風の精霊さんの
因みに彼女の肌は、外国の人みたいに白くて綺麗なんだよ。
「もう~~いっつもいっつも……、あっ、ルキ様ったら。心配したんですからね~~」
僕の魔法のせいでスカートが
危うく唇と唇が重なりそうになって、僕は慌てて回避した。
そう言えば、僕とアメリアさんは婚約しているんだよね。
まったく実感が無いけれど……
「ご、ごめんなさい……、でも、おわびに」
「キャ~~~~、エッチーーー」
そして僕は、彼女が喜ぶかな~と思って、手を取って一緒に空を飛んであげたのだけれど……
彼女は悲鳴を上げながら、必死にスカートを押さえている。
そしてサクラ師匠なのだけれど……
食べ物屋さんの裏に置いてある木箱とか、樽の中を必死に探していた。
上に乗っていた猫が、毛を逆立てながら、次々と逃げて行く。
(かくれんぼじゃないですから……師匠~~~)
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