055.ひと時のお別れ?!
「あっ、そうだ。クラースさん。今度、僕に剣を教えてください」
屋敷から出た僕は、見送りに出て来てくれた銀色の鎧を
サクラ師匠にも教わっているけれど、彼は全く違う戦い方をするからね。
もっと攻撃的というか、男らしいというか……
「ふん。いいだろう。それにしても、今の魔法戦士は移動しながら魔法を使えるのだな」
「えっ、昔は使えなかったのですか?」
もしかしたら、僕はまたやってしまったのかもしれない。
レベルが30になれば、移動しながらもでも魔法が使える物だと、思っていたのだけれど……
「ああ、俺が戦ったことが有る魔法戦士だけでなく、魔法使いもそうだった。だから脅威では無かったのだがな。技術が進歩したのではないかのか?」
表情を変えないまま、クラースさんが聞き返して来た。
多分だけれど、今も魔法の詠唱中は、移動ができないのが普通のような気がしてきた……
(僕って、どれだけズルなのだろう……)
「え~~と、ごめんなさい。よくわかりません……」
「まぁいい。ところで歩いて帰るのか?」
空を見上げると、登った太陽が10時ぐらいを指している。
歩いて帰っても、午後の3時には着けると思う。
それに、僕にはフライの魔法が……うん、MPが足りないかも。
ここまで来るのにフライを使い。
そしてクラースさんとの戦闘で、必殺技だけでなくロングソードにも魔力を流し込んでしまった。
あと、マジック・アローと、マジック・ミサイルも……
それでもまだ、1/3ぐらいはMPが残っている。
レベルが上がって、僕もだいぶ強くなってきた。
ただ、美月さんとチコちゃんを連れて、空を飛ぶとなると厳しいかもしれない。
一人の時と違って、MPの消費が激しいからね。
それに空を飛んでいる途中で、MPが切れでもしたら、それこそ大変な事になる。
「はい。歩いて帰る事にします」
「ふむ。この辺には魔物が居ないが、子供だけでは危険だろう。馬を貸してやる」
ピィ~~イッ
クラースさんが指笛を鳴らすと、森の中から一頭の灰色の馬がやって来た。
しかも、
「あの~~、とてもありがたいですけれど……僕、馬車しか動かしたことがありません」
そう、この世界に来てから日が浅い僕は、まだ馬に乗れないんだよね。
ちらっと横を見てみたけれど、美月さんも顔を振っている。
「男なら何とかして見せろ。それに、こいつはよく訓練されている」
ヒィヒーーン♪
馬が一鳴きして、僕の顔に鼻先を擦り付けて来た。
どうやら、人懐こいみたい。
「よしよし。うん。やって見ます!」
なんだか楽しく成って来た。
クラースさんに手を貸してもらい、僕は馬に跨った。
そして僕の前にチコちゃん、後ろに美月さんが乗った。
みんな体が小さから、大丈夫みたい。
「あの~、馬を返すのは明日でもいいですか?」
「ん?そいつは自分で帰るから、放っておけばいい」
てっきり、借りたお馬さんを、返しに来ないといけないと思ったのに。
馬の逞しい首を撫でて褒めてあげる。
「とっても賢いんですね」
ヒィヒーーン♪
という事で、馬車と同じ要領で、手綱を軽く叩いてみたら、馬さんが歩き出してくれた。
「クラースさん。また来ますね~」
「ありがとうございました~」
「またね~~」
僕と美月さん、チコちゃんは、振り返って手を振った。
大きな玄関に入って行く、クラースさんが背を向けたまま軽く手を挙げてくれた。
そして、ちょっぴり寂しそうにしているチコちゃんの頭を撫でて
「大丈夫。また遊びに来ようね」
「うん!」
残念だけれど、日光に当たる事が出来ないアレクシアさんは、見送りには来れていない
分かっていたつもりだけれど、やっぱり彼女は吸血鬼なのだと思い知らされる。
『ルキ、上手~~』
「あっ。ライル君」
どこかに隠れていたライル君が、姿を現した。
「なに~、このキツネ~可愛い~~♪」
「キュル~~~」
それを見つけたチコっちゃんが、パッと明るくなって手を伸ばしたのだけれど。
するりと
まるで、僕達を先導しているみたいに。
そういえば、戦闘中には気が付かなかったけれど、カーバンクルのライル君は、危険を察知して姿を隠すことが出来るみたい。
そのおかげで僕は、ライル君を守る必要が無いから、戦闘に集中する事が出来たのかもしれない。
あと来るときには、空高く飛んでいたから分からなかったかもしsれないけど、この森には大勢の動物が住んでいる。
森に入ってすぐだと言うのに、木々の間から鹿とか、
それに木の実も沢山なっている。
「あっ、見てウサギよ。ルキ君」
木漏れ日の中、ピョンピョンと跳ねる茶色いウサギを美月さんが指差して喜んでいる。
「そ、そうだね……」
今まで、馬とか周りに気を取られていて気が付かなかったのだけれど。
僕の背中には美月さんの、小さいけれど柔らかい物が当たっていて。
今も、馬から落ちないようにと、後ろから回された細い手が、僕の服をしっかりと掴んでいる。
きっと、彼女の綺麗な顔が、僕の直ぐ近くにあるのだと思う。
それに僕と同じ鞍には、チコちゃんが乗っているんだよね。
手綱を掴む両手の間にすっぽりと。
もしも、今の状態をアメリアさんに見つかってしまったら……
(うん。嬉しいけれど、まずいかも知れない……)
そんな事を考えていたら、チコちゃんから声が掛かった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なあに?チコちゃん」
そう、僕はお兄ちゃんなのだ。
年上だからしっかりしないと、と考えていたのだけれど。
「次はいつシアちゃんと遊べるかな~?」
いきなり、難しい質問が来てしまった。
「ん~~、出来るだけ早く行きたいと、僕も思っているけれど……」
夜に小さな子供を、屋敷まで連れ出すわけにはいかないし。
僕も夜は眠いんだよね。
それに魔法の修行もあるから、精神力を回復しないと行けないし……
「大丈夫よ、チコちゃん。遊びに行くときには必ずお迎えに行くからね」
「うん!」
「でも、小さい子だけでは絶対に行かないこと。お約束出来るかな~?」
「チコ、お約束する~~♪」
流石は美月さんだった。
とても頼りになる。
チコちゃんを安心させるだけでなく、また子供だけで行かないように約束までしてくれた。
僕はそこまで頭が回らなかったけれど。
たしかにトム君達とチコちゃん達だけで、もう一度あのお屋敷に遊びに行ってしまう可能性が有った。
そうなってしまったら、今度こそ大人たちが探しに行ってしまうだろう。
そしていずれは、アリシアさん達が見つかってしまう……
その後、僕達3人は動物探しをしながら森を抜け。
草原を走る街道に出たところで、灰色の馬さんに少しだけ速足で走ってもらった。
「キャハハハ、早い早い~♪」
吹き付ける風に乗って、チコちゃんの笑い声が後ろに流れて行く。
そんな感じで、お昼には街の門が見えて来るのだった。
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