054.新しい友達とお茶会?!
僕は今、美月さんと謎の小さな少女と一緒に、丸いテーブルを囲んで話をしている。
その間に、銀色の鎧を着たクロースさんが、とてもいい香りのする紅茶を入れてくれてくれた。
本当はジュースの方が好きなのだけれど、湯気の立つ透き通った茶色い液体で満たされたティーカップを鼻の高さまで持ち上げてみると、爽やかん香りがして、お化けに怯えていたのが嘘みたいに落ち着くことが出来た。
入れた手の紅茶は熱かったから、ふ~ふ~してちょっとだけ飲んでみたけれど。
葉っぱの不思議な味が口の中に広がった後に、渋みが残り。
そして少女の口から、二人がどうして魔物に成ってしまったかを聞いて、悲しみが苦みとなって僕の胸に広がった。
「人間を魔物にする魔法があるなんて……」
因みに赤い目をした少女の名前は、アレクシアさんで、この屋敷に住んでいた貴族の最後の生き残りらしい。
しかも大昔に、この地を治めていた王様が掛けた魔法で魔物にされてしまったんだって。
(可哀想に……)
そして今も、騎士で従者のクロースさんと、二人っきりで暮らしている。
「本当に
「ん~~、今の僕には無理かも……あっ、でも、メーテちゃんなら何か知っているかもしれない!」
「本当……ですか?」
僕の言葉に俯いていたアレクシアさんが、パッと顔を上げた。
赤い目が暖炉の光を受けて、キラキラと輝いている。
小さな身体で大人用の椅子にチョコンと座ているから、お人形さんみたいでとってお可愛いんだよ。
「はい。大賢者様のお弟子さんなので、何か知っているかもしれません。それに他にも仲間がいますから……」
女神様の顔が浮かんだのだけれど、聞いていいのか悩むところだよね。
人間界に干渉してはいけないらしいから。
『出来る限り、我々の存在を広めないで欲しい』
『あっ、そうですよね。でも信用できる人達ですから安心してください』
僕はクロースさんの
早速、取得したばかりのスキルを使ってね。
どうやら美月さんにも、僕の心の声が聞こえているようで、僕をみて小さく頷いている。
確かにクロースさんが言うように、二人の事は秘密にした方がいいと思う。
だって吸血鬼と狼男だからね。
街の人が知ったら、それこそ大騒ぎになると思う。
でも、チコちゃんを家に帰した時に、ここの事を聞かれると思うんだよね。
どうしよう……
僕が考え事をしていると、アレクシアさんが澄ました顔をして紅茶を飲んでいた。
背筋をピンと伸ばしていて、とても礼儀正しく。
しかも、砂糖を入れていないから、甘くないし……
「あれ?アレクシアさんは血を飲まないのですか?」
「えっ、私は……その…………大丈夫です」
無表情なクラースさんの眉毛がピクッと上がった。
たったそれだけで、僕の背中がゾクゾクしている。
『ルキフェル。その事には触れるな。後で説明する』
『ご、ごめんなさい』
まるで刃物のような念話が届いて、僕は慌てて謝った。
またやってしまったみたい……
「あっ、そうだ。ルキ君。パンと牛乳はまだ残っているかしら?」
「う、うん。少しならあるよ」
空気を読んだ美月さんが話を逸らしてくれた。
再び下を向いてしまったアレクシアさんが、もう一度僕を見てくれている。
しかも期待に瞳を輝かせて。
「もしよかったら、これを召し上がってください。新鮮な牛乳ですよ」
「パンは美月さん、じゃなくてセレネさんが焼いてくれたんだ。外はカリカリで中はフワッフワッだよ」
「ありがとう。牛乳なんて何十年ぶりかしら~」
考えてみれば、ここは森の奥だった。
人が暮らしている街から、かなり離れている。
このお屋敷では、家畜を飼っていないみたいだから、牛乳とかは手に入らないのかもしれない。
それにクラースさんには、アレクシアさんの護衛があるから、きっと買い物にも行けないよね。
あと、彼女の年齢を、僕は知っているけれど内緒ね。
見た目はメーテちゃんよりも小さくて、幼稚園生って感じ。
クラースさんが持って来たコップに牛乳を注いで、アレクシアさんに渡した。
コクコクコク
牛乳をひと息に飲んでから、千切ったパンを口の中に。
「うわぁ~~、美味しい~~、それにパンも~~」
赤い唇の周りに白いお髭が出来ている。
その時、またクラースさんの眉毛がピクンと動いた。
(こ、今度は何をしてしまったの……僕~~)
「もしかして~、クラースさんもパンを?」
「い、一応はな……」
美月さんの問いかけに、クラースさんが目を逸らして応えた。
もしかして恥ずかしいのかな?
僕はお料理が出来る男性を、格好いいと思うけどね。
それにクラースさんは男子の僕が見ても、とても整った顔をしているのだけれど、声までがイケメンだった。
(いいな~~)
僕も、将来はこんな大人になれるといいな~
「でしたら、作り方をお教えしましょうか。ちょっとしたコツがあるんです」
「た、頼むとするか……」
そう、セレーネーこと美月さんの趣味は、お料理なんだ。
このパンの作り方は、前に居た教会で教わったらしい。
フランスパンに近いかも知れない。
ただ中側が、食パンみたいにフワフワでとても柔らかいの。
よく噛むと甘みが滲み出て来るし、あ~なんだか僕も食べたくなってきた。
「う、う~ん……シ、シアちゃん。お友達?」
「あっ、チコちゃん……」
ソファーに寝ていた女の子が、ようやく目を覚ました。
僕達の事は不思議そうに見ているけれど、アレクシアさん達の事を怖がっていないみたい。
普通に話しをしている。
でも、またアレクシアさんの顔が曇ってしまった。
どうやら、二人は仲良さんのようです。
でも僕は、チコちゃんを街に連れて帰ると、トム君と約束をしてしまった……
(どうしよう……)
「あの~チコちゃん。私達と一緒にお家に帰りませんか?」
「え、帰ってもいいの?」
美月さんの言葉にチコちゃんが少しだけ喜んでから、アレクシアさんの方を見た。
俯いた少女の赤い瞳から、涙が……
「大人には内緒で、僕と遊びに来ればいいよ」
そう、僕なら空を飛んで、このお屋敷まで直ぐに来る事が出来る。
きっと子供同士なら、仲良く出来るよね!
「うん。チコ、シアちゃんとまた遊びたい~。あっ、トム達も連れてきてもい~い?」
「うん!いいよ~」
いくら礼儀正しくても、やはりアレクシアさんも、まだ子供だった。
満面の笑顔で、チコちゃんと笑い合っている。
こうして僕と美月さんは、トム君達との約束を果たすことが出来た。
因みに、ここをお化け屋敷だと思って侵入したトム君達は、物陰や蝙蝠に驚いて逃げ出したらしい。
ただチコちゃんだけは、転んだ拍子に家具に頭をぶつけて気絶してしまい、アレクシアさん達に助けられたのだった。
(あっ、でも僕達もお化けを見たかも……)
そしてチコちゃんは、夜遅くまでアレクシアさんと遊んでいたから、さっきまで眠っていたみたい。
あと、クラースさんから念話で聞いたのだけれど、
でも、人間の首から直接飲んだことは無くて、クラースさんが自分の血をコップに入れて与えていた。
それも初めの頃の話で、徐々に血の量を減らしていって、今では森で取れる果実から作った赤いジュースを飲んでいる。
それに普通の食事も出来るんだって。
それとアレクシアさんは陽光を浴びることが出来ないから、基本的には夜しか遊べない。
それは新しい問題だけれど、きっと何とかなるよね?
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