051.お化け屋敷に突入!?

 今、僕と美月さんは、絵本に出て来る主人公みたいに空を飛んでいる。

 繋いでいる手を広げて、鳥さんみたいに風に乗って。


 もちろん、風の精霊の力を借りてだけれどね♪


 しかも目的地は、お化け屋敷。

 トム君に頼まれて、チコちゃんという女の子を助け出すために向かっているんだ。


 「アキラ君って、本当に優しいのね」


 風になびく長い黒髪を押さえた美月さんが、親し気に話しかけてくれた。

 どうやら、彼女も現実世界の名前の方が、呼びやすいみたい。


 僕も二人っきりの時は、彼女の事を本当の名前で呼ぼうと思う。


 「美月さんほどじゃないよ。今だってちょっぴり怖いし」


 僕は細い手をギュッと握った。

 本当は男らしく格好つけたかったけれど、僕には無理みたい。


 だって、僕達が向かっているのは、お化け屋敷だよ?

 お化けには体が無いから、剣で切っても倒せないかもしれないし……


 この世界には本物の魔物が居るくらいだから、きっとお化けだって本当に居ると思うんだ。


 今は朝だけれど、もしかしたら昼間でも行動が出来るかもしれないし……

 ほら、ゲームとかだと、昼間でも建物の中だけでなくて、外にもゾンビとかが平気で歩いているよね?

 アンデットなのに……


 しかも、バスの窓ガラスを破って、乗客に襲い掛かったり……


 (ひぃ~~、ト、トイレに行きたくなってきた……)


 「ふふっ、アンデットなら、私の魔法で少しは防げるから安心して?」

 「う、うん。ありがとう……」


 ギュッと握り返してくれた、柔らかい手の感触が僕に勇気をくれる。

 確かに、アンデットと言えば神聖魔法セイクリッド・マジックだよね!


 もしも美月さんに会えていなかったら、僕はどうしていたのかな……

 怖くなって、途中で逃げ帰っていたのかも……


 二人が会話をしているうちに、眼下を流れる風景が草原から森に変わった。

 段々と木の背が高くなり、深緑色の木が増えていく。

 眼下を飛び交う小鳥や、木々の間を横切る小動物の姿が垣間見え、二人をなごませた。


 僕は美月さんと会話をしている間も、目的地を探している。

 こうして綺麗な大自然を見渡していると、まるで女の子と手を繋いで、空のデートを楽しんでいるみたい。


 だけれど、今は救出作戦の最中だ。

 油断しないで、目的の場所を探す。


 「あっ、あった。きっとアソコだよ」


 僕は千里眼で見た、大きなモミの木を指差した。


 「凄い、本当にアキラ君には見えていたんですね……」

 「うん。僕、千里眼クレヤボヤンスが使えるんだ」


 少しずるい気がするけれど、僕は正直に能力の事を伝えた。


 「アキラ君って、本当に勇者様なのかもしれないね」

 「ううん、僕はただの魔法戦士だよ」


 なんだか美月さんが嬉しそうに、僕のことを見ているけれど、そこだけは譲れない。

 でも、”X”だけは付けられなかった……


 そう、僕の職業クラスは、”魔法戦士X”。

 女神様と天の声さんと話し合って作った、新しい職業。


 だから普通とは違って、金属鎧を着る事も出来るし、神秘魔法ルーン・マジック以外の魔法を使うことだって出来る。

 しかも、魔法を見るだけで、覚えてしまうんだよね。


 他にも千里眼とか、高速思考ファースト・シンキングなどの、便利なスキルも覚えているし……


 僕達は目的地の上空に到着した。

 大きなモミの木の周りには木が無くて、大きな広場になっている。

 と言っても草がボウボウで、とても歩きにくそうだけれどね。


 「美月さん。着陸するね」

 「う、うん。ちょっと待ってね」


 彼女がスカートを押さえるのを待ってから、ゆっくりと舞い降りた。

 風の精霊さんにお願いするだけだから、意外と簡単に出来る。


 落下の勢いを押し戻す風に、青色の布が大きく膨らみパタパタとはためく。


 僕と手を繋いでいる関係で、片手でスカートの前側しか抑えていないから、後ろの方がね……


 雑草が生い茂る中庭に降り立った僕達の目の前には、蔦で覆われた2階建てのお屋敷がある。


 結構、大きい。


 ヒビが入っている窓ガラスには、カーテンが引かれているのか、中を見る事が出来ない。

 いかにもって感じ……


 「アキラ君。勝手に入っても大丈夫かしら……」


 僕の袖を掴んだ美月さんが、後ろに隠れている。

 どうやら、彼女も怖いらしい。


 白い足が震えているのを気が付かない振りをして、僕は前を向いた。


 「大丈夫。きっと誰も住んで居ないよ。それにチコちゃんを助けないと」


 僕は勇気を出すために、魔法のベルトから剣と短剣を取り出した。

 左の腰に古代のロングソード、右に豪華な短剣をしっかりと固定する。


 こういう時は、師匠の言葉が励みになる。


 『いいですか、ルキフェル殿。剣は敵を倒す物ではなく、仲間を守るためにあるのです』


 そう、僕の剣は美月さんと、チコちゃんを守るためにある。

 左手でロングソードの柄に触り、深呼吸をしてから、目の前に有る両開きのドアを開いた。


 ギィ……キィーーーー


 おっと、屋敷に入る前に装備を確認しておかないとね。


 まず僕の装備は、ちょとお洒落な白い服に古代の量産型ロングソードと、ドルトン先生から貰った豪華な短剣。

 防具だけれど、フルプレート・アーマーはマンティコアとの戦いで半壊状態。

 というか、溶解ブレスのせいで半分以上が溶けてしまい、使い物にならないから着ていない。


 あとは腰に巻いている魔法のベルトの中に、ミスリル製のカイトシールドが入っている。

 でも、家の中は狭いだろうから、シールドは装備していない。


 そして司祭プリーストの美月さんは、僕がプレゼントした綺麗な青いワンピースを着ている。


 以上。


 はっきり言って準備不足だけれど、時間が無かったから仕方がないよね?

 チコちゃんを急いで助け出さないといけないし。


 「入るね。美月さん」

 「はい。アキラ君も気を付けてね……」


 改めて大きな玄関ドアを潜ると、中は真っ暗だった。


 朝日が森の上から顔を出ているというのに、まるで夜みたい。

 今頃気が付いたけれど、窓ガラスのカーテンが引かれているから暗いんだ。


 だから、両開きのドアから差し込む光で、玄関ホールだけが見えているけれど、そこから先は見えない。

 闇の世界……


 「ホーリー・ライト」


 突然後ろから響いた高い声にドキッとしたけれど、美月さんの澄んだ声と共に、浮かび上がった白い光が辺りを照らしてくれた。

 それでも静まり返った、古めかしい洋館ならではの薄気味悪さは消えていない。


 <神聖魔法セイクリッド・マジック聖光ホーリー・ライトを習得しました>


 「ありがとう、美月さん。僕から離れないでね」

 「はい」


 僕は勇気を出すために、ロングソードを抜いた。


 本当は人が住んでいたら強盗と間違えられるといけないから、剣を抜かないで行こうと思ったのだけれど……

 気のせいか、床の上を冷たい空気が漂ってくるし、本当に怖かったんだよ。


 そう、あまりにも静かすぎる。


 まずは左手に伸びている廊下を進む。


 ギィ~~……


 「…………」


 板張りの廊下が沈んで、嫌な音を立てた。

 小さな音なのに、とても気になる。


 思わず立ち止まった僕の頭の中で、赤い光が点滅した。

 どうやら、危険感知が発動したみたい。


 「危ない!うわぁ…………」


 バキッ!!


 「キャッ~」


 僕は前方からだけでなく上からも危険を感じて、慌てて振り返って美月さんに覆いかぶさったのだけれど……

 その拍子に床が抜けて、右足が落ちてしまったんだ。


 彼女の事を庇っているのか、彼女にしがみ付いているのか分からない状態。

 顔に膨らみを感じるけれど、今はそれどころではない。


 キィイ、キィイ、キィイ……

 バタバタバタバタバタ


 僕たちの上を、物凄い数の鳴き声と羽音が通り過ぎて行く。

 怖すぎて目をギュッと閉じて、やり過ごした。


 静かになったところで顔を上げると、朝日が差し込む玄関ホールへ、黒い鳥?が飛んで行くのがちらっと見えた。

 どうやら、コウモリの大群だったみたい。


 「ふぅ~よかった、助かったみたい。あれ?」


 抱き着いてしまった美月さんから離れた時、僕の右足に熱い物を感じて固まった。


 「アキラ君。動かないで!怪我しているから……」


 僕の異変に気が付いた美月さんがしゃがみ込んで、床にはまっている右足の様子を見てくれている。


 「うっ、痛い……」


 遅れて、燃えるような痛みがやって来た。

 ズボンのふくらはぎの辺りが赤く染まり、割れた床板がズボンを突き破って刺さっている。


 「刺さっている木を抜くから、ちょっと我慢してね」

 「う、うん」


 僕は目を閉じて、歯を食いしばった。

 敵に叩かれる事は覚悟していたけれど、こういう事故は想定外だった。

 ゲームとは違うと、改めて思い知らされる。


 美月さんが、慎重に木の破片を抜いてくれた。

 とっても痛かったけれど、歯を食いしばって我慢した。


 <技能スキル痛覚耐性ペイン・トレランスを取得しました>


 なんだか、また新しいスキルを覚えたけれど、これって役に立つのかな?

 痛みを感じなくなるのなら、いいのにね~。


 だって耐性・・って事は、きっと我慢出来るってことだよね?


 いつ見ても綺麗な美月さんが、足の傷口に両手をかざす。


 「ヒール」


 クルクルと回る小さな魔法陣が現れて、温かい光に包まれた足から痛みが引いて行く。


 「ふ~、助かった……」

 「はい、これで大丈夫です」


 ズボンの裾を捲って、傷口まで確かめてくれている。

 きっと彼女なら、素敵な看護婦さんに成れると思う。


 「美月さんは、怪我していない?」


 僕は剣を持ったまま、彼女に飛びついてしまったから、少し心配だったんだ。


 「アキラ君のおかげで平気よ」


 綺麗なワンピースが少し汚れてしまったけれど、確かに大丈夫みたい。

 それにしても、こんなに床が脆いもろいと戦うのが難しそうだ。


 あと、狭い所でロングソードを振り回すのも危険そうだから、短剣に持ち替えることにした。

 間違えて、美月さんを切ってしまったら大変だからね。


 僕には魔法もあるし。


 という事で、僕達は足元を確認しながら、ゆっくりと廊下を進んだ。

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