049.朝から二人で緊急出動!?
街中にある花壇への水やりは、とてもスムーズに進んでいる。
だってウィンディーネさんが手伝ってくれているから、ジョーロに水を汲む必要がないんだ。
これだったらホースで水を上げるより簡単かも。
『ルキ~、お花喜んでる~~』
「うん。そうだね~」
今はチューリップみたいな花にお水を上げていて。
ライル君が言う通り、乾いた土に水を掛けてあげると、見る見るうちに花が元気になって、中から光が飛び出して来るんだ。
まるでホタルの光みたいに。
『うわぁ~、綺麗な水だね~~♪天気も良いし~~♪』
『うん。あっ、女の子とウインディーだ~~♡』
(えっ、僕の事かな?女の子って……)
今日は白い服を着ているけれど、ズボンを穿いてるのに、何で間違えるのかな~?
よく同級生の女の子にお人形さんみたい~♪、とは言われていたけれどね……
お髭でも生やしたら、間違えられないかな?
「おやおや、朝早くからご苦労じゃの~」
振り向いてみると、杖を突いたお婆さんが立っていた。
にこやかに笑いかけてくれて、とても優しそうな人。
話し方もゆっくりとしていて、なんだかお上品。
いきなりだったから、ちょっとビックリしたけどね。
「お、おはようございます!お婆さん。お散歩ですか?」
なんか、目が細すぎて何処を見ているのか分からない。
「年寄りは早起きじゃからの~。ところでおぬし、キー坊の代わりかえ?」
「キー坊???」
誰の事だろう?聞いたことが無い。
僕は首を傾げた。
「ふむ。まぁよい。これをあげるから明日も頑張るのじゃぞ」
「わぁ~、飴玉だ~。ありがとうごいます。やった~♪」
この世界に来てから、初めてお菓子を貰った。
向うの世界で暮らしていたアパートの廊下とか階段を掃除している時に、一階に暮らしているお婆さんがよくお饅頭とかカリントウをくれたんだ。
そう言えば四角い缶に入っていた飴もおいしかったな~、白いのは口の中がスースーして大変だったけど……
『ルキ~~。あっちに泣いてる子』
「えっ、こんな朝早くに?」
「おや、どうかしたのかい?」
僕が肩に乗って居るカーバンクルに話しかけたから、お婆さんが驚いている。
細かった目を少しだけ開いて。
ライル君の声は、僕にしか聞こえないんだよね。
「あっ、この子、ライル君ていいます。あっちで子供が泣いているそうなので、ちょっと見てきますね」
「年寄りになると、耳が遠くていかんの~。気を付けて行っておいで」
僕にも泣き声は聞こえていないのだけれど、今は急いでいるから説明をしないでいいよね?
「はい!」
僕は飴玉を魔法のベルトに入れると、街の入り口に向かって走った。
ライル君が金色の毛に朝日を浴びて、キラキラと輝きながら僕の前を飛んでいる。
僕には町の端にある大きな門しか見えていないのだけれど、千里眼が発動してズームが始まった。
僕の視界だけが、門を潜り抜け、平野の中を走る街道を物凄い勢いで飛んでいく。
ライル君が言う通り、4人の子供が街道をトボトボと、こっち向かって歩いているのが見えてきた。
黙って俯いている男の子が二人と、泣いている女の子が二人。
みんな僕よりも小さい。
でも、思っていたよりも遠いかもしれない。
よくライル君は気が付いたと思う。
だいたい1キロぐらいかな?
『ルキ~、どうする?』
「困っているみたいだから、話を聞きに行こう」
『うん!』
ライル君が、空中で一回転した。
どうやら、喜んでいるみたい。
街の外は、色々と危ないからね。
それに僕は、レベルが上がったからか体力も付いている。
全速力で走っても、胸が苦しくならない。
「あっ、アキラ君……」
「えっ……」
ズザーーーー
突然、路地から声を掛けられて、僕は慌てて急ブレーキをかけた。
LVが上がったからか、今の僕は結構早く走る事も出来ている。
だから、靴底と地面が擦れて、煙が出るぐらい熱い。
「み、
この世界で、僕の事を本名呼ぶのは、お母さまと彼女ぐらいしかいない。
それに声が小川のせせらぎみたいに綺麗だから直ぐに判る。
思った通り、家の影から出て来たのは、セレーネーこと美月さんだった。
今日の彼女は、青いワンピースを着ている。
(うん。とっても似合っている)
「どうしたの?急いで」
「ええ~と、お花に水を上げていたら、街の外で泣いている子供が居て……」
綺麗な顔に見つめられているせいか、上手く説明が出来ない。
「そうなんだ……。私も行ってもいいかな?」
それでも美月さんは、何となく理解してくれたみたい。
しかも一緒に行ってくれるらしい。
僕は恥ずかしさを誤魔化すために、にっこりと笑い。
「うん。一緒に行こう」
彼女に手を差し出した。
掴み返してくれる柔らかくて温かい掌が、寂しさを忘れさせてくれる。
実は、早朝の街中は静まり返っていて、僕は少し心細かったんだ。
今の所、飴玉をくれたお婆さんにしか会っていないんだよ?
それにお母さまと一緒に暮らしていた頃は、こんなに早い時間に外へ出た事が無かったし。
独りぼっちになったことも、無かったから……
それでも勇気を出せたのは、ライル君と妖精さんのおかげだと思う。
それに今は、美月さんが居る!
朝から憧れの少女と、二人っきりになれるなんて夢みたいだった。
朝日を浴びた空気が、とても心地よく感じられる。
僕は美月さんに合わせて、ゆっくりと走った。
それにしても、街の外にいる子供もそうだけれど、美月さんもこんなに朝早くからどうしたのかな~?
散歩でもしていたのかな?
そんな事を考えているうちに子供達が見えてきた。
彼らも街に向かって歩いていたので、思っていたよりも早く会う事が出来たみたい。
「大丈夫?キミたち。子供だけで外に出ると危ないよ?」
「あっ、おにいちゃん。おねがい。チコちゃんを助けて……」
僕が話しかけてみると、一番大きな男の子がパット顔を上げ。
物凄い勢いで僕の服を掴んで話し始めた。
本当に困っていたみたいで、今にも泣き出しそうな目をしている。
背が僕よりも低いというのに力があって、また洋服が破れてしまいそうだ。
「わ、分かったから。何があったのか話してもらえるかな?」
「えーと。えーと……転んじゃって、あと黒いお化けが一杯出て……えーと、えーと、。それで帰れなくなって、だから助けて!」
「シク、シク、チコちゃんが、チコちゃんがね、えーーんて泣いて!バーーンってなってね。大きなお化けが出て、それで、それで……」
「うぇ~~~ん。チコおねえちゃーーーん!!」
「びぃええーーーーん、びぃええーーーーん、ママ~~~~怖いよ~~~」
(あわわぁ~。困った。一斉に話されても分からないよ……)
焦っているせいか、一番大きな男の子の話は早口でよく分からないし、次に大きな女の子も興奮して大きな声で話すし、残りの小さな子までが大声で泣き出しちゃうし……
なんだか僕まで泣きたくなってきたよ。
どうしよう……
「ぼく、大丈夫よ。このお兄さんは強いから」
「ほんと~???」
美月さんが膝に手を当て、目線を小さな子の合わせて話している。
「本当よ。マンティコアを一人で倒しちゃったんだから。あっ、ルキ君。何か食べ物とか飲み物は持っていませんか?」
「ちょっとまっててね。確かパンと牛乳が……」
僕は魔法のベルトから、冒険用に入れておいた食料を取り出した。
実は次の冒険に向けて、少しずつ準備を進めているんだ。
メルさんの話では、魔法のカバンの中に食べ物を入れておくと腐らないらしい。
だから昨夜のパーティーで残った、パンと牛乳を入れておいたんだ。
因みに美月さんが作ってくれたクリームシチューは、大人気で残らなかった。
牛乳と小麦粉から作ったとは思えないほど、まろやかで美味しかったんだよ。
子供達はお腹が空いていたのか、美月さんが渡したパンを口の中に詰め込んでから、物凄い勢いで牛乳で流し込んでいる。
「ふふふ、そんなに急がなくっても、まだありますからね」
「う、うん。ありがとう。おねーちゃん」
子供達の様子を嬉しそうに見守る美月さんの姿は、とても素敵だ。
きっと、この世界で
何となくだけれど……
「随分とお腹が空いてたのね。もしかして昨日の夜から出かけていたのかな?」
「うん。僕たち……お化け屋敷に行ったの……」
そして子供達が落ち着いたところで、美月さんが順を追って事情を聴き出してくれた。
一番大きな男の子の名前はトムと言い、お兄さんが一人いる。
彼の家は猟師をしていて、狩りに行った森の中で古いお屋敷を偶然見つけた。
その時に兄にからかわれたことが悔しかったトムは仲間を集め。
兄を見返すために、その屋敷に向かって冒険に出かけたのが事の発端だった。
そして屋敷に踏み込んだ子供達は、お化けに襲われ逃げ帰って来たのだけれど。
チコちゃんという女の子だけが、はぐれてしまったらしい。
勿論、子供達は助けに戻ろうとしたのだけれど、お化けが怖くて結局、屋敷の中に入れず。
助けを求めに街に戻って来た。
ただその時も、夜の森で迷子になってしまい、今に至るのだった。
「トム君。チコちゃんがどこにいるか教えてくれもらえるかな?」
「うん!あっちだよ。大きなモミの木があるお化け屋敷」
トムが、街道の先にある森を指差す。
と、その時、再び僕の千里眼が発動した。
何キロ先かは分からないけれど、立派なクリスマスツリーみたいな大木がそびえ立っているのが見えて来た。
その周りは空き地になっていて、男の子が言う通り、モミの木の下に
お化け屋敷と言われるだけあって、かなり古そうな見た目だ。
「どれぐらい歩いたところにあるか分かるかな?」
「んーーー、今からだとお昼ぐらいに着くよ。森を抜けた先にあるから」
美月さんが何とか場所を特定しようとしているけれど、もうその必要はない。
そういえば、彼女には千里眼の事を話していなかったかも。
「大丈夫だよ、セレネさん。場所が分かったから」
「えっ、本当???」
僕は驚いている美月さんに頷いて見せた。
「うん。僕に任せて」
「分りました。それでは私たちがチコちゃんを助けに行くから、トム君達はお家で待っていてくれるかな?」
「嫌だよ~。僕達もチコちゃんを助けに行く!」
「そうだよ~。お化けなんか怖くないんだから~!!」
(う~ん、困った……あっ、そうだ!)
「実はお兄ちゃん。花壇にお水をあげている途中なのだけれど、代わりにあげてもらえないかな?」
「え~~、でも……」
トム君が口を尖らせている。
どうやら、子ども扱いされる事が嫌いらしい。
お花にお水を上げるのは、とっても大切な仕事だと思うのだけれど……
「ほら、このジョーロは凄いんだよ~。いくらでも水が出るんだから」
ジャーーーーーーーーーーーー
「うわぁ、本当だ!魔法のジョーロだ~~!」
本当はウインディーネさんの力なのだけれどね。
今は魔法という事にしておこう。
(ウインディーネさん。お願いします。もう少しだけ力をかしてください)
『うふふ。もちろん、いいわよ~。キラキラしている子供達も好きだから~』
(はぁ~、よかった)
あとはチコちゃんを助けに行くだけだ。
「セレネさん。行こう」
「はい。ルキ君」
僕はセレーネーさんこと、美月さんの手を掴むと、
急いでチコちゃんを助けに行かないといけないからね。
二人の身体を柔らかな風が包み込み、ふわりと持ち上げてくれる。
「きゃ~~~」
美月さんが慌ててスカートを押さえているけれど、風がグングンと僕達を空に向かって持ち上げて行く。
「うわ~~すげーーーーー!!」
トム君の驚きの声が下から聞こえた来たところで、僕は自分の失敗に気が付いた。
(女の子だと、下着が見えちゃうのか……また失敗しちゃった……)
「あっ、ごめんなさい。先に言わないとダメでしたね」
「ううん。大丈夫……。ルキ君は空も飛べるなんて知りませんでした」
地上に居る子供達が上を向いて、ポカーーーンと口を開けている。
「お兄ちゃーーーん!チコちゃんを助けてねーーーーー」
「うん。任せておいてーーー」
トム君の大きな声に、僕も大声で応えた。
なんだか本当のお兄ちゃんにまったみたい。
僕は一人っ子だから、ちょっぴり嬉しい♪
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