第2部.不死王討伐編

1章.お化け屋敷

048.朝からラッキースケベ!?

 小学校に通いだした頃。


 僕には友達が居なくて、学校に行くのが嫌いきらいになっていた。

 周りの生徒には幼稚園とか保育園の友達がいるというのに、僕には誰も居なかったから。


 独りぼっちは嫌だった。


 そう、僕は幼稚園に行っていない。

 でも家に居れば、優しいお母さまと、いつもニコニコしている、おばあちゃんとおちじちゃんが……


 あれ?僕は何時からお母さまと二人で暮らしていたのかな……


 ツン、ツン


 「ん……ん~~お母さま~~。僕、学校に行くの嫌だよ………」


 ムギュ~~


 だからいつも、お母さまに抱き付いて、困らせてばかりいたのをよく覚えている。

 そうしていると、必ずお母さまが手を繋いで、一緒に学校へ行ってくれるんだよね~~♪


 ツン、ツン


 「ん~~も~~、分かっているよ。中学生なのだから一人で……って、あれ?ここは……???」


 目を覚ますと、僕はお花畑の中に居た。


 大きく吸い込んだ空気は、ピンク色に見えそうなほど濃厚な甘い香りをしていて。

 隣から温かくて、とーーーーっても柔らかい感触が…………って、


 僕は固まった。


 (あれ?いいのかな?)


 思わずホッペでスリスリしてみたけれど、とってもスベスベしていて、柔らかいのに張りのある肌の温もりと、レースの感触が伝わって……


 (これってブラジャー……だよね?)


 「!!!」


 僕は一気に目が覚めた。


 ここは別の世界にある、沢山のお花が飾られているギルドマスターのお部屋だった。


 そしてベッドの上で僕が抱き着いているのは、ピンク色の髪をした大人の女性……そう、マリア王女様だった。

 しかも姫様はブラジャーとショーツしか身に付けていないわけで……


 さらに寝ている間に温かくって、包み込まれる感触が気持ちが良かったから、僕は姫様の太ももに手を差し込んでしまっていて、色々とまずかった。

 もしもこんな状況を、剣の師匠に見つかってしまったら、僕の頭と胴体は離れ離れになってしまうかもしれない……


 (どうしよう)


 直ぐにでも手を抜きたいのだけれど、姫様を起こしてしまいそうで動けない。

 いや、わざとじゃないよ?


 だって姫様にも嫌われたくないから……


 それに今は魔法のブラジャーを付けているから、あまり胸が大きくないけれど、本当はお母さまよりも……

 って、今はまじまじと見惚みとれている場合じゃなかった。


 でも、白い肌と紫色のレースのコントラストがとても綺麗で、ついついその中身が気になって……


 ダメダメ、それ以上は変な気分になってしまうから考えたらダメ。


 (でも、どうしてこうなったの~?)


 僕は姫様を起こさないように、息を潜めて考えた。


 確か昨日の夜は、僕がマンティコアを倒したお祝いに、みんながパーティーを開いてくれて。

 憧れの同級生、美月さんが作ったクリームシチューとパンを沢山食べて、赤い色をしたジュースを飲んで……


 あっ、思い出した!


 お酒を飲みすぎた姫様を、僕が部屋に連れて行こうとした時に、ここに連れ込まれて。

 そのままベッドに押し倒されてしまって……


 しかも、姫様がドレスを脱ぎだしたから、僕は慌てて後ろを向いて……

 僕の記憶はそこで途切れていた。


 (あれ?でもなんで僕まで、一緒のベッドに寝ているのだろう?)


 きっとマンティコアとギリギリの戦いをした後だったから、疲れていたのだと思う。


 ぼんやりと、そんなことを考えていたら、姫様が僕とは反対側に寝返りを打った。

 その拍子に、柔らかなお肉に挟まれていた手が解放された。


 (はぁ~~良かった。でも、ちょっぴり残念かも……)


 『女の子みたいなのにエッチだ~~』

 『クス、クス、本当だ~~、あっ、顔が赤くなった~~』


 目の前をフワフワと漂っている光から、僕をからかう声が聞こえてくる。

 どうやら、僕の顔を突っついて起こしたのは、お花の妖精さんだったみたい。


 『も~~、違うってば……て、えーーーー』


 僕は恥ずかしさの余り、反対側に寝返りを打ったのだけれど、今度はそこに僕より小さなメーテちゃんが居た。

 しかも、スリップ?って言うのかな?肩紐が付いた下着だけを着て眠っている。

 胸の前に握った手があって、なんとも可愛らしい。


 いつもは、ネグリジェを着ているのに……


 僕は布団にもぐると、そっと足元の方へ移動して、二人の間から抜け出した。


 ホカホカの布団から出た僕の体を、朝の澄んだ空気が包み込む。

 いつもより、一段と冷たく感じられる。


 (ううぅ~寒い……、って、ええええ、僕もパンツ1枚だけーーー!!!)


 いや、何もされてないよね?僕?!

 思わずパンツの中を確認しちゃった。


 という事で、急いで洋服を着ていると、床の上に小さなマンティコアがいた。

 姫様のぬいぐるみと一緒に、丸くなって寝ている。


 見た目はライオンのぬいぐるみみたいだけれど、元々はお母さまとマリア王女様を狙っていた、狂暴なマンティコアだった。

 大きさだって大きなトラックより大きかったんだよ?


 何故か僕に倒された後に大きな魔石が残って、そこから生まれた?みたい。

 もしかしたら、生まれ変わったのかな?


 何となくステータスを見てみると、LV1のベビー・マンティコアと表示された。

 あと名前は、ライオットと言うらしい。


 ギルドマスターは魔将軍ガウヴァーって言っていたけれど、人違い?魔物違い?なのかな。


 とても姫様に懐いていて、片時も離れなくなっているんだよね。

 姫様もぬいぐるみが大好きだからか、魔物という事を気にしていないみたい。


 (あっ、そうだ。お花にお水を上げないと)


 僕は慌てて部屋を出た。


 街中に有る花壇の水やりを、ギルドマスターがしていたらしいから。

 今日から僕が代わりにすることにしたんだ。


 因みに、ギルドマスターは領主代行になったから、しばらくの間は戻って来れないらしい。

 出世したのだから、きっと良い事だよね?


 あれ?もしかしたら、ギルドマスターは貴族に成るのかな~?


 そんな事を考えながら急いで一階に降りると、リビングにある大きなテーブルの上で師匠が眠っていた。

 風を引かないように、魔法のベルトから取り出した毛布を掛けてあげる。


 この様子だと、今日の剣の修行はお休みかな?

 ちょっとお酒臭い。


 音を立てないようにして家の外に出ると、薄っすらと漂う霧とひんやりとした空気に包み込まれた。

 朝日が出て来たばかりで、細長いオレンジ色の光に照らされた街は、まだ静まり返っている。


 「はぁ~~~、ふぅ~~~」


 深呼吸をして見ると、とっても気持ちがいい朝だった。


 確か井戸が、家の裏手にあったはず。

 思いっきり伸びをしてから、家と家の間にある隙間に入る。


 ギルドマスターの家の両隣にも、二階建ての家が建っていて、井戸の周りは暗かった。


 まるで、そこだけが夜みたいに……


 昨夜、酔っぱらったサクラ師匠が話していた、怖い昔話を思い出してしまう。


 師匠が生まれ育ったのは、極東にあるジンガという島国で。

 そこは日本に似ているらしく、貴族の屋敷で働いている女性の事を女中と呼んでいるらしい。


 ある日、一人の女中が高価なお皿を割ってしまった。

 しかもそのお皿には干支が描かれていて、12枚が1セットとなっていた。

 そして激怒した屋敷の主に激しく叱られ、責任を感じた女中が井戸に身を投げてしまった。


 その日から、夜な夜な井戸の中から、女性の声が……


 『いちまーーい。にまーーい……』

 「ひぃ~~お、お、お化けーーーーー!!!」


 僕は井戸の中から聞こえてきた女性の声に驚いて、腰を抜かしてしまった。

 本当に腰から力が抜けて、立つことが出来ない。


 お尻をズリズリとしながら、なんとか後ろに下がる。


 『おはよう、ルキ~~。大丈夫?』

 「うわぁ!!!ラ、ライル君??か~……脅さないでよね……」


 今度は、後ろから話しかけられて、少しだけパンツが濡れちゃったよ……

 だって、僕は本当にお化けが嫌いなんだよ。


 でも、ちょっとだけ安心した。

 ライル君はカーバンクルで、僕の友達。


 『じゅにまーーーーい。い、い、一枚たりなーーーーい!!!』


 それなのにお皿を数える声が井戸の中から、まだ続いていた。

 そしていきなり、井戸の中から青白い影が飛び出して来たんだ。


 濡れた髪は青色で、透き通る青白い肌をした女性が。


 「ひぃええええーーーーーーーーー」


 腰が抜けた僕には、悲鳴を上げる事しか出来ない。


 『どうしましょ?これでは占いが出来ませんわ……』


 (って、トランプかーーーい!)


 僕は尻餅をつきながら、心の中で突っ込みを入れた。


 だって、井戸の中から出てきた女性の手に、トランプのようなカードが握られているんだもん。

 しかも余った手を顎に当てて、首をかしげているし……


 (プンプン!)


 それにその女性は空中に浮かんでいるけれど、足がハッキリと有る。

 どうやら、お化けではないみたい。


 ただ一つだけ問題が有って、その~……その人は……裸なのです。

 はっきりと胸が膨らんでいるのに……


 また、婚約することになってしまうのかな~?


 『ルキ~、水の妖精怖い?』

 「えっ、水の妖精???」


 僕は頭を捻った。

 どうやらライル君は、その女の人?の事を知っているみたい。


 『あら、私の姿が見えるのかしら?』

 「は、はい。え~~と、僕はルキフェルといいます」


 カッコ悪すぎるので、僕は澄ました顔をして立ち上がると、ほこりを払ってから挨拶した。

 ちょっとズボンの色が変わっているかもしれないけれど……


 『ふふふ、可愛い子。私は水の精霊ウインディーネよ。脅かしてしまったみたいでごめんなさいね。それにしてもこんなに朝早くからどうしたのかしら?』


 その水の精霊さんは、おっとりとした話し方をしていて、とても優しそうだ。

 まるで、僕のお母さまみたいに。


 (へ~~、井戸の水にも妖精さんが住んでいるんだね~~)


 「あっ、そうでした。お花に水をあげようと思いまして」


 井戸には水を汲むための桶以外にも、バケツと一緒に大きなジョーロが置いてある。

 どうやら、ギルドマスターはこれを使て、水やりをしていたみたい。


 『あら、もしかして、あの目つきが悪い男のお知り合いかしら?』


 (あ~~、確かに目が怖いよね……)


 僕は時間が惜しいので、井戸の水を汲みながらウインディーネさんとお話しをしている。

 水が入った桶をロープで持ち上げるのだけれど、意外と力を使うんだよね。

 大分、慣れて来たけれど。


 (よいしょ)


 ザバ~~~


 まずはバケツの中に水を入れた。

 今日はこの動作を、何十回も繰り返すことになる。

 もしかしたら、これでギルドマスターはマッチョに成ったのかもしれない。


 「はい。あのオジサン、見た目は怖いけれど、実は街中の花壇にお水を上げていたのです」

 『あら~、人間は見た目によらないのね~~、ふふふ。そういうことなら、た・す・け・て・あ・げ・る』


 綺麗なウインディーネさんにウインクをされて、ドキッとしてしまう。


 僕がその美し姿に見惚れている間に、ウインディーネさんがジョーロの中に入った。

 僕よりも大きかったのに小さくなって、いつの間にか水で満たされたジョーロの中から、チョコンと顔を出している。

 なんだか、お風呂に入っているみたい。


 もしかしたら、ウインディーネさんが水を出してくれるのかな?

 そうしたらバケツもいらないし、水を汲む必要もないよね♪


 (ラッキ~~!!)

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