046.激闘の行方 怖いのはだ~れだ?!
「ルキ君。しっかりなさい。そんなことではお母様に会えないわよ!」
「イーリス様……」
<女神の
ルキフェルの体中に力が溢れ、手や足の先まで満たされていく。
(これなら、まだ戦える!)
ロングソードを握る手に力を入れた少年の背後から、弱々しい声が聞こえて来た。
「ルキフェル殿…………」
「師匠……良かった。生きていたんですね。ここから離れることは出来ますか?」
「気にせずに戦ってください……。姫の事を頼みます……」
サクラは首を横に振って、気丈に振舞っているが傷は深かった。
再び地面に崩れ落ちてしまう。
「師匠ーーーー!!!」
慌ててサクラの胸に手を当ててみると、まだ鼓動が残っていた。
それでも出血の多さから、時間があまり残されていないことが分かる。
しかし今の彼には、ヒールを使うMPすら残されていなかった。
「ヨクモヤッテクレタナ……小サキ人間……」
大きく傷ついた顔から煙を漂わせながら、マンティコアの巨体が起き上がった。
しかも、人間の言葉を話している。
「何で僕を狙うんだ!」
ルキフェルがこのマンティコアに襲われるのは、これで3度目だった。
偶然と考えるには多すぎる。
「フッン。キサマナゾニ用はナイ。用ガアルノハ、ピンク色ノ女ダ」
マンティコアの視線が上がった。
(えっ、王女様?でも最初はお母さま……)
ルキフェルに取っては、どちらも大切な女性だった。
だから戦うしかない。
ただ狙う理由が分からない。
時間を稼ぎ、サクラを救うためにも質問をする。
「へ~~、魔獣でも女の人を好きになるんだね~?姫様は綺麗だからかな~~」
「女ナド食エバ同ジヨ!アノオ方ノ命ガ無ケレバ……グゥワア!邪魔ダーー!!サッサト死ネーーーーーーー!」
マンティコアの前足が再び襲い掛かって来る。
空を切り裂く、研ぎ澄まされた光る爪。
ただ、ステータスが3倍となた今、ルキフェルに取っては、避けることは造作も無い事だった。
しかも冷静さを取り戻したことで、高速思考スキルまでが発動している。
まずは傷ついて、動けないサクラから離れることを優先する。
欲を言えば、兵士たちが居ないところが望ましい。
敵の横に回り込むようにして、攻撃を躱す。
これで後ろに逃げても、サクラに攻撃が当たらない。
そして攻撃を盾で弾きながら辺りを見渡す。
中庭の左の方が空いていた。
敵の攻撃を避けながら3回に1回の割合で、剣によるダメージを与える。
勿論、超回復を持つ相手には、この程度では勝てない。
それでも、時間稼ぎとしては十分だった。
敵の攻撃をかいくぐりながら、チラリと横目で見ると。
駆け付けた王女様とギルドマスターが、サクラを助け起こして緑色のポーションを飲ませてくれているのが見える。
これで心置きなく戦える。
と言っても、依然として決め手が無い事に代わりが無い。
(MPさえあれば……)
しかし無い物をねだっても仕方がなかった。
師匠に教わった通りに、避けながら攻撃を続ける。
「グゥオォーーーーチョコマカトーーー!!!」
痺れを切らしたマンティコアが、前足と同時にサソリの尻尾で攻撃してきた。
上から真っ直ぐに振り下ろされる尻尾と、横なぎに振るわれる右前脚。
後ろに飛んで避けるしかない。
それを見計らったように、攻撃を中断したマンティコアが口を大きく開き、前へと跳躍して来る。
(まずい!避けれない…………)
大型トラックよりも大きな巨獣の口は、洞窟のように大きかった。
少年の体どころか、大人おも丸飲みに出来るほどに。
その時、
バッン!
マンティコアの鼻に当たった、何かが炸裂した。
それは、舌打ちをしたギルドマスターが放った煙玉だった。
ブォファーーー!!!
爆発と共に湧き出した煙が、辺りを白く染め上げる。
危険を感じたマンティコアが、蝙蝠の翼を羽ばたかせて後方へと飛び退く。
(危なかった……)
額に滲み出た汗を拭う。
「これを飲めーーー!!!」
ルキフェルが声がする方を見てみると、青い液体の入った試験管がクルクルと回って宙を飛んで来るところだった。
慌ててそれをキャッチした少年が、何も考えずに中身を飲み干す。
魔操法を使える彼には、自分の体の奥底から光が溢れ出して来るのが分かった。
あっという間に胸の中心がオドで満たされる。
それだけでは光の波は止まらずに、そのまま全身が白い光に満たされいく。
(これなら行ける!!)
ルキフェルは剣を握り直すと、頭をフル回転させて、今の自分に出来る最大ダメージを叩き出すコンボを導き出した。
「コソクナ人間ガッガガガーーーー!!!食イ殺してシテクレル!!!」
怒り狂ったマンティコアが前脚を広げて、飛び掛かって来るのが見える。
まるで大型トラックが、上から落ちて来るようだ。
これでは軽自動車でも、ペッチャンコになることだろう。
それだというのに、少年には不思議と焦りが無かった。
敵の動きが、まるでスローモーションのように見えるからだ。
(終わるのはお前だ!)
ルキフェルは、魔法のベルトのボタンを押すの同時に、多数の青白い魔法陣を展開した。
「マジック・アロー15発、同時発射!」
ベルトから発せられた閃光で目が眩まされたマンティコア目掛けて、15発の魔法の矢が殺到する。
もちろん、これで終わりではない。
魔法の発動と同時に、”古代の量産型ロングソード”に描かれている6個の魔法回路へと魔力を流す。
魔導回路が金色に輝き、銀色の刀身が炎に包み込まれた。
その長さ4m!
「秘儀!疾風乱れ切り!!」
ルキフェルは風となり、マンティコアの巨体の周りを飛び回り、所かまわず切り刻んで行く。
2度目ということも有るが、それ以上にステータスが跳ね上がっていることが大きかった。
急加速と急旋回によるGに振り回される事無く、魔法の武器と化したロングソードで敵を切り刻んで行く。
しかもパワー・ブーストとスピー・ブーストが、それぞれ2重に掛けられている。
一撃ごとのダメージが増すだけでなく、攻撃回数までが増えていた。
13回のコンボ技が、倍の26回も決まった。
しかも傷口が炎で焼かれた事で、回復速度が遅くなっている。
「グゥガアアアアーーー…………」
見るも無残な姿になったマンティコアが、なすすべもなく崩れ落ちた。
HPゲージは辛うじて残っているが、既に虫の息だ。
既に両手両足どころか、翼と尻尾も失っている。
首を切り落とさなかったのは、せめてもの情けだった。
そして……
精霊魔法のフライを発動して空中に浮いているルキフェルが、最後の巨大魔法を唱える。
「ラージ・サンダー3発!!!」
突き出された右手に3重の赤い
以前よりも早いスピードで、3つの巨大な魔法陣が描かれていく。
空を覆い尽くした漆黒の雲により陽光が遮られ、静寂と共に辺りに夜が訪れる。
「絶対に、お前にはお母さまを渡さない……」
ピィシャーーーーーーーー
ゴロゴロゴロ~~~
大気を切り裂き焦がす紫色のプラズマが3条、マンティコアの巨体に落ちた。
ドガガガガァーーーーーー!!!!!
遅れてやって来た地響きと供に舞い上がった土煙が、衝撃波によって吹き飛ばされていく。
パラララッタラ~~
<レベルが20に上がりました>
<魔法の詠唱速度が20%早くなります>
<必殺技を1つ習得できます>
パラララッタラ~~
<レベルが21に上がりました>
…………
…………
…………
パラララッタラ~~
<レベルが30に上がりました>
<魔法の詠唱速度が30%早くなります>
<魔法詠唱時の移動禁止が解除されました>
<必殺技を1つ習得できます>
パラララッタラ~~
<レベルが31に上がりました>
「ルキ君。やったわね~~」
「は、はい。何とか……」
地上に降り立つと、マリア王女が抱き着いて来た。
ルキフェルは、本当に彼女が無事でよかったと思う。
今日、マンティコアに狙われていたのは、彼女なのだから。
それに、お母さまより大きなオッ、じゃなくて胸が顔に当たっていて、前どころか横も見えない……
胸元が大きく開いたドレスだから、ちょっとまずい事になっている気がする。
それでも、今日はもう少しこのままで居たかった。
母の事に思いを馳せ、自分から彼女の腰に手を回して、しっかりと抱き付く。
息が苦しくなったところで、ようやくオッパ、じゃなくて王女様から解放されると、今度は師匠がやって来た。
どうやら元気になったみたい。
「見事でした……もう私が教えることは何もありません……」
「そんな~。大袈裟ですよ。師匠~!アハハハハ」
感激のあまり、師匠が泣いている。
今度は僕が肩を、バンバン叩いてあげた。
「本当に出鱈目なガキだなー、おめーは~」
「ギルドマスターのポーションのおかげですよ」
いつもは強面の顔が、なんだか笑っているように見える。
「金貨10枚な」
「えええええ!お金を取るのですか~~?!」
やっぱり、ギルドマスターは恐い人だった。
目が笑っていないよ……
「ったりめーだろ!」
「払わなくていいわよ。ルキ君。むしろ討伐料は、あ・な・た・が払うのよ?領主代行」
「ぶっ……ふ、ふざけるな!!誰が領主の代行なんだよ!?あ゛あ~???」
「あら、私に意見するつもり?ギルドマスター♪」
ギルドマスターがまるでヤクザのように睨んでいるが、相手が悪かった。
何しろ相手は国家権力なのだ。
(やっぱり大人の世界は、よくわからないや♪)
「チッ、しかもマスターと兼務かよ……。こっちも出鱈目だな~オイ…………マジカンベン」
こうして王女の独断で、一時的に領主の首がすげ替えられたのだった。
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