041.魔法の修行を開始?!
美月さんとアメリアさんの二人と買い物を終えた僕は、急いで冒険者ギルドの裏にやって来た。
帰る途中でオジサンたちに襲われたから、遅くなってしまった。
井戸の淵に腰を掛けたローブ姿の少女が、足をブラブラしている。
「お師匠様。遅れてすみません。お詫びと言っては何ですが、これを受け取ってください」
「えっ、そんな、まだ十分も過ぎてましぇんし、いいでしゅのに~~」
そう言いながら、メーテちゃんが嬉しそうに受け取り、包みの中を覗き込んだ。
「こ、これは…………。ルキお兄ちゃん。ましゃかお兄ちゃんが選んだのでしゅか……?」
「ううん、アメリアさんとセレネさんだよ」
耳まで真っ赤にしてメーテちゃんが聞いてきたけれど、僕は正直に答えた。
「そ、それは良かったでしゅ……。では魔法の練習を……」
まるでロボットみたいにぎこちない動きになったお師匠様が杖を構えた。
(大丈夫かな?)
冒険者ギルドの裏には、井戸だけじゃなくて、柵に囲まれた練習場がある。
しかも木刀で叩くための丸太や、弓や魔法の標的までが用意されているんだ。
「ルキお兄ちゃんはファフニールを倒さないといけましぇから、攻撃魔法を中心に教えましゅ。では最初に小神聖魔法から初めましゅ。これがマジック・アロー」
お師匠様が先端に付いている水晶を光らせて、青白い魔法陣を描いていく。
迷う事も間違えることなく正確に。
しかも小さな魔法陣が1秒ぐらいで完成した。
ジュパン!
目には見えない魔法の矢が飛んで行って、的に突き刺さったみたい。
木で出来た的の真ん中がへっこんで、鋭い音が上がった。
<
「あの~お師匠様。一つ聞いてもいいですか?」
「はい。いいでしゅよ」
「僕の覚えているスキルは大魔法なのですけど、
「うむ~~~、それは難しい質問でしゅね……。ふつうは小魔法を先に覚えるでしゅからね……」
どうやら大賢者の弟子である、メーテちゃんでも分からない事らしい。
魔法使いの恰好をした小さな女の子が、腕を組んで考えている。
僕はマジック・アローを覚えることが出来たから、出来るような気もするのだけれど、本当の所はどうなのだろう?
「そんなの、やってみればいいのよ」
「あっ、姫様……」
マリア王女様が柵の上で手に顎を乗せて、楽しそうに僕達を見ている。
「マリア様の言う通りでしゅね。ルキお兄ちゃん、やってみてくだしゃい!」
「う、うん!やってみる!」
(ラージ……)
「あっ、ダメだ」
前に突き出した僕の腕の周りに、赤い魔法陣が出てしまった。
直ぐに手を降ろして中断する。
どうしても魔法を使おうとすると、ラージって心の中で言ってしまう。
「なら、スモールって言ってみてはどうでしゅか?」
「あっ、なるほど。やってみます!」
さすがはお師匠様だった。
僕は深呼吸をすると、もう一度試してみた。
しかも今度は、恥ずかしがらずに、声を出して魔法を唱えてみる。
その方が確実なような気がするからね。
「スモール・マジック・アロー!」
(出来た!)
今度は腕の周りに、青白いリングが現れた。
そして突き出した手の前にも、小さな青い魔法陣が完成する。
シュン!
空気を切り裂く音が聞こえたのだけれど……
「あら、残念」
王女様が言うう通り、目に見えない矢が大きく反れて、どっかに飛んで行ってしまった。
どうやら外れてしまったみたい。
「マジック・アローのメリットは詠唱時間が短くて、MPの消費も少ないのでしゅが、命中させるのが難しいんでしゅ。あと避けることも出来ましゅ」
「そうなんだね。僕、魔法だから絶対に当たる物だと思っていた」
「そこで次はマジック・ミサイルでしゅ」
「あっ、それは聞いたことがあるよ」
ゲームなんかに出て来る定番の魔法だよね。
ミサイルって言うぐらいだから、ターゲットに追従するのだと思う。
そしてお師匠様が見本を見せてくれた。
「マジック・ミサイルでしゅ」
青い魔法陣だから、同じく
たださっきよりも少しだけ魔法陣が大きくて、模様が複雑になっている。
その分、完成にも時間がかかった。
ヒュ~ン……スパン!
<神秘魔法、マジック・ミサイルを取得しました>
また目に見えない矢が飛んで行って、的の真ん中に命中した。
それにしても目に見えない矢を避ける事なんて、本当に出来るのかな~?
そして僕も真似をして、マジック・ミサイルを使ってみる。
(スモール・マジック・ミサイル!)
しかも今度は、心の中で言ってみた。
お師匠さまよりも遅いけれど、掌の前に同じ魔法陣が描かれて魔法が発動した。
ヒュ~ン……スパン!
「当たった!」
「うん。よく出来ました」
お師匠様も満足そうに頷いている。
「魔法にも色々な特性があるのね。それにしてもルキ君は、手を動かさないし、魔法の詠唱もいらないのね」
「そうなんですよね。でも詠唱時間はかかるから、あまりメリットは無いですけどね」
しかも詠唱中は、移動が出来ないのが厳しいよね。
僕は魔法戦士なのに、魔法を使っている間は剣で戦えないんだよ?
「そうなんでしゅよ。しかも一度見ただけで魔法を覚えましゅし……」
「ごめんね。メーテちゃんが一生懸命覚えた魔法を、盗んでいるみたいで……」
小さなお師匠様が難しい顔で考え込んでいるのを見ていると、なんだか申し訳なくなってきてしまった。
漢字だって、何回も書かないと覚えられないのにね。
「いいんでしゅよ。私は嬉しいんでしゅ。ルキお兄ちゃんのお役に立てて。これからも、もっともっと沢山の魔法を覚えましゅから。期待してくだしゃい」
「はい。よろしくお願いします。お師匠さま!」
小さな魔法使いが、誇らしげに胸を張った。
その時、少女の横で考え込んでいたマリア王女様が、何かを思いついたみたい。
「ねぇ、ルキ君。同時に複数の魔法を使えないかしら?」
「えっ!?」
「それは無理でしゅ。お師匠様ですら同時に2個しか使えないんでしゅから」
王女様の無茶ぶりに、魔法に詳しいメーテちゃんがほっぺたを膨らませて怒っている。
そんな顔も可愛いんだね。
確かにお師匠様の言う通り、同時に使える魔法は2個が限界だと思う。
だって手は2本しかないんだよ?
だから、同時に描ける魔法陣は2個までとなる。
しかも同時に書くなんて、とても器用な人しか出来ないはず。
それに呪文を唱える為の口は一つしかない。
それなのにメーテちゃんのお師匠様の大賢者は、2個の魔法を同時使えるらしい。
もしかしたら、口が二つあるのかな?
でも、よく考えてみれば僕の場合は、手を動かして魔法陣を書く必要も無いし、呪文を唱えてもいない。
もしかしたら……
僕は集中すると、手を前に出した。
(マジック・アロー。マジック・アロー。マジック・アロー)
出来る限り素早く!心の中で3回も唱えてみた。
どうせなら、新記録を狙う!
掌の前に青い色をした魔法陣が3個、描かれていく。
ただ、書き出しのタイミングが少しだけズレているのが分かる。
ジュパン!
ジュパン!
ジュパン!
「あっ、当たっちゃった……」
お師匠様みたいに真ん中とはいかなかったけれど、的に全弾が命中しちゃった。
<魔操法が3段になしました>
しかも魔法の矢をコントロールしたからか、それとも、ほぼ同時に3個も発動したからか、魔操法が上がった。
「凄いでしゅ……」
「ふふふ、これでまた強くなったわね。ルキ君」
マリア王女が言った通り、確かに戦力がUPしたと思う。
ただMPが……
そう、僕のMP量は、まだまだ少なかった。
目の前が、ゆっくりと暗くなっていく……
目を覚ますと、薄暗い部屋の中にいた。
どうやら、僕はベットの上で眠っていたみたい。
それも夜まで。
僕のお腹の上には、ライル君が丸まって居て、隣にも当たり前のようにメーテちゃんが横になっている。
気持ち良さそうに、僕に抱き付いて寝ているけれど、アメリアさんあたりが止めなかったのかな?
どうやら僕は沢山寝たみたいで、頭がすっきりしているし、MPも満タンに成っている。
時間とMPが勿体ないから、創造魔法の研究を始める。
本当はお腹が空いているのだけれど、メーテちゃんを起こしたら悪いからね。
という事で、前回の反省を生かして、色々な素材でビー玉を作る事にする。
ただ素材と言っても、僕が知っているのは、ガラスとか金銀銅ぐらいなものだ。
あっ、大理石とかラピスラズリも有るね。
冒険者証に付いているから。
あと、ダイヤモンドとかルビーは見たことが無い……
そう、この世界の冒険者のランクは、鉱物で表される。
ただ、明日の分のMPを取っておかないといけないから、2種類だけ作る事にした。
今日は銅と金の玉を作る事にする。
いや、変な意味じゃないよ。
僕は銅貨と金貨を持っているから、イメージしやすいし、比較も簡単に出来るからというのが理由ね。
同じ金属だけれど、元素記号が違うんだよね?
お母さまと行った、こども科学館で見たから知っている。
あと神秘魔法を複数詠唱出来るようになったのだから、
左手に銅の玉、右手に金の玉をイメージする。
(創造魔法、銅と金の玉を1個ずつ!)
ボプ、ボプ
(うわぁ~出来たよって……、あああああーーー!!!)
僕は自分のバカさ加減を、初めて呪った。
同時に作ったから、MPの消費量を比較できないじゃん!!!
という事で、今日も実験は失敗に終わったみたい。
(はぁ~あ……)
でも、めげてても仕方がないから、そのまま魔操法の修行に移ることにする。
確か掌と掌を合わせて、な~む~じゃなくって、魔力を移動出来るようになったはず。
その時には魔操法が2段に上がったのだけれど、今日の昼間には3段に上がっている。
だからきっと、もう少し手と手の間隔を空けても平気なはず。
いや、根拠は無いんだけれどね。
感覚的に出来るような気がしている。
そして手の輪っかの中を、グルグルと魔力を回しながら、掌を少しだけ離してみた。
(行けた!)
1cmだけれど、まだ魔力の玉がグルグルと円を描いて回っている。
部屋が薄暗いおかげで、薄っすらと白い光が掌から出ているのも見える。
(うわぁ~凄い……)
横になったままだから、これ以上は手を離せないけど。
右腕を勢いよく駆け上がった魔力の玉が掌を飛び出して、30cm以上も離れている左手に吸い込まれていく。
まるで昔話に出て来る
でもこのままじゃ攻撃に使えるかは微妙だった。
スピードも遅いし、実態も無さそうだからね。
ただ面白いから、布団の中で足の間を飛ばしたりして遊んだ。
僕は目には見えなくても、何となく魔力を感じることが出来るようになったみたい。
そして指先から細くした魔力を出すのは……
うん。まだ無理だった。
あとちょっとで出来そうなのだけれど、何かコツでもあるのかな?
だめだよ?あそこから出すのをイメージしたら……
という事で、僕は余っているMPを右手に移動してから、もうひと眠りすることにした。
明日は何が待ってるのかな~
(おやすみなさい。お母さま)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます