040.下着屋さん 空を飛ぶ 衝撃の事実?!

 そして僕たちは下着屋さんにやって来た。

 窓ガラスに、三毛猫が描かれたパンツが飾られている。

 どうやら、この世界ではアニマルプリントが流行っているみたい。


 「ル、ルキ様はここで待っていてくださいね」

 「えっ……」


 (僕のも買いたいのだけれど……)


 実は僕はパンツを2枚しか持って居ない。

 毎日洗うのは、ちょっと大変なんだよね。

 しかも井戸水は冷たいし。


 お店の窓ガラスには、女の子用のパンツの横に、男の子用のパンツも飾ってある。


 「そ、そうですよ。アキラ君の分は、あの~……私が買いますから……」


 美月さんまでが、真っ赤な顔をしてモジモジしながら言って来た。

 さすがに僕のパンツを選んでもらうのは、恥ずかしいののに……


 (仕方が無いのかな?)


 「えっ……、あっ、そうだ。それでしたら、このお金で二人のも買ってください。あっ、あと折角だからメーテちゃんのも……」


 (あれ?僕、また変な事を言っちゃたのかな?)


 僕は金貨を1枚、美月さんに手渡したのだけれど……


 「まさかアキラ君。メーティスちゃんのパンツの事も……」


 思いっきり、僕の事を上目遣いで睨んでる……まずいかも……


 ルキフェルは知らないのだが、実はメーティスもパンツを2枚しか持っていない。

 それを同室に暮らしているセレネーこと美月は知っていて、ルキフェルが少女のパンツ事情まで知っているのかと、盛大に勘違いしたのだった。


 女心とは、げに難しいものである。


 「はぁ~まさか、あんなに小さな子にまで、手を出してしまうなんて……。でも私の愛は変わりませんわよ!あっ、キャーーー言ってしまいました……」

 「えっ、いや、ちょっとまってくださいよ~~。二人供、何か勘違いをしていませんか……」


 カランカラ~ン

 バタン


 (…………)


 僕の話を聞かずに、二人はお店に入ってしまった。

 取り残され、唖然とする僕。


 「はぁ~僕はどうすれば……」

 『ルキ、元気を出すキュル~~』


 (あっ、ライル君……やっぱり君は男の子なのですね)

 『キュル?男の子??』


 僕はライル君を抱っこすると、近くの露店を覗くことにした。


 (あっ、いけない……)


 それなのに千里眼スキルが発動して、下着屋さんの中が見えてしまった。

 しかもカーテンの向う側で、二人が揃ってブラジャーを付けているところが。


 (あっ、何か鼻から暖かい物が……)


 露天巡りを中断した僕は、鼻の付け根を抑えながら、空を見上げて時間をつぶすことにした。

 空高くに浮かぶ白い雲の間を、ブルードラゴンが気持ち良さそうに飛んでいるのが見える。


 (いいな~、僕も空を飛んでみたいな~~)

 『キュルキュル?ルキ、空飛ぶ?』


 「うわぁ~何これ……」


 急に僕の周りに有る空気がふわりと動いて、僕の体が持ち上ってしまった。


 『キュルルル~、ルキ、飛ぶ~』


 羽根が無いのに、カーバンクルのライル君が僕の前を、水中で泳ぐみたいにして、スイスイと飛んでいる。


 「ライル君。これってもしかして精霊魔法スピリット・マジック?」

 『うん。ルキも使える』


 「えっ、僕も??どうやって?」

 『キュル?風と話す』


 ライル君に言われて気が付いたけれど、街を吹き抜けていく風の中から妖精?の声が聞こえて来る。

 どうやら、驚いている僕を見て笑っているみたい。


 フワフワと浮き上がった僕は手足をバタバタして、もう屋根よりも高い所にいる。


 「あの~~風の妖精さん。僕に空を飛ぶ力を貸してもらえるかな?」

 『あっ、男の子だ~~。いいよ~、それーーー』


 <精霊魔法、フライを習得しました>


 「うわぁ~まるで風になったみたい……」


 僕は今、自転車よりも速い速度で飛んでいる。

 飛行機と違って音がしないから、誰も僕に気が付いていない。


 それに屋根より上には、何もないからぶつかる心配もいらない。


 「あっ、姫様と師匠だ!」


 街の上を飛んでいたら、マリア王女様とサクラ師匠がお店に入って行くところが見えた。

 しかも3階建ての、かなり高そうなお店に。


 それにしても空を飛べるなんて、本当に夢みたいだ。

 まるで風になったみたいに、自由自在に飛ぶことが出来ている。


 ほら、宙返りだって……


 (あっ、MPが……)


 ただ魔法である以上は、代償が必要だった。

 時間と共にMPゲージがジワジワと減っている。


 「残念。そろそろ下りないと」

 『え~~もっと遊ぼうよ~~』


 僕の前に身体の透き通った男の子が、姿を現した。

 背中から昆虫のような羽根を生やしているところを見ると、本当に妖精さんみたい。


 身長は30cmぐらいかな?

 なんか昔のローマの人みたいに、身体に布を巻いている。


 口を尖らせる仕草が、なんとも可愛らしいのだけれど、午後は魔法の特訓が待っている。


 「ごめんね。また遊ぼうね」

 『うん!それじゃ~降りるよ~~!それーーー!!』


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ……」


 どうやら風の妖精は悪戯好きみたい。


 僕は頭から真っ逆さまに落ちて行くと、まるでつばめみたいに、地面すれすれを滑空した。

 しかも僕の体を運んでいる風の余波で、道行く人のスカートが捲れ上がって行く。


 「きゃあぁ~~」

 「キャーーーーー」


 「ごめんなさ~いぃぃ」


 そして元居た下着屋さんの前で、僕の体が急停止した。


 「うわぁ~」


 ふわっ、ぼふっ


 でも着地はとっても優しい、って……


 「あっ……」


 僕の体を下から支えた空気のクッションが、風船が割れた時みたいに、一斉に舞い上がったのだけれどね……


 「キャーーーーールキ様のエッチーーー」

 「アキラ君…………」


 (え~っと、アメリアさんが羊さんで、美月さんがウサギさんです)


 「ごめんなさ~~い!」


 そして僕たちは、街の中心にある噴水の前でお昼ご飯を食べることになった。

 ベンチに並んで座る。


 「はい。これがルキ君の分ね」

 「ありがと~~」


 僕は、美月さんから木で出来たお弁当箱を受け取った。


 「私も作ったんだからね?!」


 どうやら、アメリアさんもお手伝いしたみたい。

 そして蓋を開けてみると……


 「うわぁ~~唐揚げだーーー!!」


 そう、僕の大好物の唐揚げが入っていた。

 もしかしたら、美月さんは僕の好物を知っているのかもしれない!


 なぁ~んてね。

 だったらいいな~って思っただけだよ。


 そして定番の厚焼き玉子が……あれ?真っ黒だ。


 「し、仕方がないでしょ。初めて焼いたんだから……」


 僕は何も言ってないのだけれど、アメリアさんが赤い顔をして言い訳を始めた。


 二人のお弁当箱にも唐揚げと、もっと真っ黒な厚焼き玉子が入っている。

 どうやら、僕の厚焼き玉子は、その中でも成功した物みたい。


 「砂糖を入れると焦げやすいですからね。それに薪だから火加減の調整が難しいですし、仕方がないですよ」

 「そ、そうよね……」


 この世界にはガスコンロが無いから仕方がないけれど、二人のお弁当箱に入っているのは、殆ど炭になっている。

 とてもじゃないけれど、食べることは出来ないと思う。


 「あっ、そうだ。もしかしたら……」


 僕は、美月さんの膝の上にあるお弁当箱に手をかざした。

 そして!


 (創造魔法クリエーション・マジック、真っ黒焦げさん、さようなら!)


 ポッン!


 焦げた厚焼き玉子を包み込んだピンク色の煙が消えると、まぁ、なんてことでしょう!

 そこにはキラキラと輝く厚焼き玉子が!!


 「流石、ルキ様ですわ~~」

 「凄い……」


 どうやら、創造魔法は物を作りだすだけでなく、物質を変化出来るみたい。


 こうして僕たちは、楽しいランチを過ごすことが出来ましたとさ。


 そう言えば、この世界は西洋風なのにお米のような物がある。

 お粥だってあるぐらいだからね。


 でも、何となく見た目が違うような気もする。

 粒が大きくて、茶色い線が2本走っている。


 「セレネさん。このお米って?」

 「あ~、ルキ君は知らないのですね。これは大麦を使った麦ごはんです」


 (えっ、麦ってお米になるの???)


 衝撃の事実に驚いた僕は、帰り道を歩いている。


 「ルキ様、走って」


 突然、アメリアさんが僕の手を握って、路地裏に向って走り出した。

 慌ててセレネさんも後をついてくる。


 まだメーテスちゃんとの魔法の修行には、間に合うと思うのだけれど……


 そして細くて薄暗い路地裏を進んだところに、道を塞ぐようにして3人の男が立っていた。

 全員が皮鎧を着ていて、腰から剣を下げている。


 (あれ?どこかで見たような?)


 その3人は、メーテちゃんから魔法の杖を奪おうとした男の仲間だった。

 そして後ろからも、2人の男がやって来る。


 「しまった……」


 どうやらアメリアさんは、この二人が僕たちの後を付けているのに気が付いて、逃げようとしたみたい。

 でも敵の方が上手だった。


 (困った……)


 僕は二人を壁際に背負うようにして立つと、腰から下げているロングソードを抜き放った。

 どっちから攻撃されても良いように、交互に視線を送る。


 道幅が狭くて壁に挟まれているから、他に逃げ場はない。

 しかも魔法を使うにしては距離が近いし、片方を攻撃している間に、後ろから攻撃をされてしまう。


 まさに挟み撃ち。


 ゆっくりと獲物を追い込むようにして、後ろから来た二人組が近づいてくる。


 「よ~~魔法のカバンを持ってるから後を付けてみれば、いつぞやのガキじゃねーか。あの時はよくもやってくれたな~」


 指をボキボキと鳴らしながら、LV8のオジサンが近づいてくる。

 でもあの時の僕とは違う!


 「オジサンたちが弱いだけじゃない?」

 「ダメよ。ルキ様……」


 珍しくアメリアさんが怯えているけれど、僕の方がLVが高い。

 それに……


 「クソガキがーーーー!!死ねーーー!」


 僕の挑発に乗った男達が、剣を抜いて一斉に襲いかかって来た。

 ただの子供相手と思って油断しているのか、動きがバラバラだし、ゆっくりとした攻撃だ。


 狼達の方が全然強い!


 十分に敵を引き付けてから、魔法のベルトのボタンを押す。


 ピカッーーー!!!


 一瞬にしてフルプレート・アーマーを身に纏い、左手にミドルシールドを持った僕は攻撃に出た。

 フラッシュの強烈な光に目が眩んだオジサン達には、僕の攻撃はかわせない。


 でも、人殺しはしたく無いから、皮鎧の無いお腹に剣の柄を叩き込んだり、顔をシールドで思いっきり叩いた。

 あとは鉄製のブーツで足を踏んづけたり、膝でアソコを蹴っ飛ばしてやった。


 あっという間に戦闘は終わり、オジサン達は全員が泡を吹いて倒れている。

 自分で言うのも何だけれど、5人の大人を相手に完勝した僕は恰好いいと思う。


 でも二人の少女の反応は違った。


 「ルキ君…………」

 「あ~あ、やってしまいましたわね……」


 美月さんが青い顔をして震えているし、アメリアさんは額に手を当てて天を仰いでいる。


 (あれ?もしかして僕、またやってしまったのかな?)


 全員が着ている皮鎧の胸の所には、立派な紋章が付いていた。


 「逃げますわよ。ルキ様」

 「う、うん……」


 こうして僕たちのデート?は終わりを告げたのだった。

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