039.お洋服屋さんと悪戯ドラゴン!?
と言う事で、僕達はアメリアさんの案内で、お洒落な洋服屋さんにやって来た。
「ここなら品質もいいし、銀貨で買えるから丁度いいんじゃないかしら?」
どうやら美月さんが気を回して、この街に詳しいアメリアさんを誘ってくれたみたい。
確かに僕はこの街の事をあまり知らない、洋服屋さんに来るのだって、これが初めてだし。
アメリアさんの話だと、たいていの庶民は銅貨を使って生活をしているらしい。
食事だけでなく、宿代も選り好みをしなければ銅貨で事足りる。
そして金貨を使うのは、もっぱら貴族ぐらいのものなんだって。
だから庶民が行くお店では、金貨が使えないところも有ったりする。
「本当に素敵な洋服が沢山あります……。あっ、でも私はもっと質素な物で……」
このお店にはオシャレな普段着から、パーティーで身に着るようなドレスまでが揃っている。
美月さんの顔が女の子らしく輝いていたのだけれど、値段を見たとたんに曇ってしまった。
まるで満月を雲が隠して邪魔するみたいに。
彼女の所持金は金貨2枚しかない。
きっとこれからの生活の事を考えて、節約しようと考えているのだと思う。
「あの~僕がプレゼントするから、セレネさん、好きな物を選んでいいよ……」
(うわぁ~言っちゃった~~。恥ずかしすぎる……)
「えっ、でもそれは悪いから……」
「そうよ。なんでセレネばっかりに優しいのよ。私だって……頑張ってるのに……」
(うわぁっ、しまった……)
何で僕ってデリカシーが無いのだろう。
「ううん、アメリアさんにも看病してもらったし。あっ、これなんかどうかな?」
僕はちょうど目についた、赤いワンピースドレスを手に取った。
落ち着いた色をしてるから、きっとアメリアさんの赤い髪が映えると思う。
「まぁ~意外といいじゃない……、ちょっと着てみるから待っててね」
はにかんだ笑顔のアメリアさんが、ワンピースを抱えて足取りも軽く奥に向う。
(ふぅ~、危なかった……あっ、そうだ)
「セレネさん。よかったらこれも……」
僕は寝る前に作った、青い花飾りが付いたヘアピンを差し出した。
「えっ、もしかしてこれって……」
「うん、少し違うかも知れないけれど、魔法で作ってみたんだ」
「ありがとう……。前に使っていた物は売ってしまったから……」
美月さんが涙を浮かべながら、ヘアピンを受け取ってくれた。
「そうなんだ……」
やっぱり彼女は、一人だけでこの世界に来て苦労していたみたい。
それに比べて僕は……
「あっ、もしかして、アキラ君……」
何かに気が付いた美月さんが、真っ赤な顔して俯いてしまった。
(どうしたのだろ?)
元の世界だったら、数百円で買える物なのだけれど~
「美月さんには……あっ、これなんかどうかな?うん、そのヘアピンとも合うし」
少しスカートが短いけれど、色鮮やかな水色のワンピースドレスを見つけた。
「ありがとう……アキラ君。大切にするね……」
そして美月さんも、恥ずかしそうにして奥に消えていく。
「そうだ、僕も……あっ、でも直ぐにボロボロに成っちゃうよね……」
フルプレート・アーマーを着て剣の修行をするから、お洒落な服だと擦れて直ぐにダメになってしまう
いちいち着替えるのも面倒だしね。
このお店で売っている洋服は、だいたいが銀貨20~30枚ぐらいだ。
金貨1枚が銀貨100枚だから、もう少し買っても平気かな。
後は下着だけれど、ここでは売っていないみたい。
女性の店員さんが、チラチラと僕の事を見ているけれど、恥ずかしくて話しかけづらい。
そして、二人が試着室から仲良く出て来た。
「うわぁ~、凄く綺麗だよ~~」
お世辞じゃなくて、本当によく似合っている。
洋服屋さんの中が、パッと明るくなった。
二人供美人だから、素晴らしいデザインのドレスを着こなしているのだと思う。
「でも、ちょと恥ずかしいかも……」
アメリアさんの赤いドレスは身体にフィットしていて、スタイルの良さを際立たせている。
特に胸の膨らみと、滑らかな腰のラインが……
しかも丈の長いスカートには、縦に大きくスリットが入っていて、真っ直ぐな足を覗かせている。
そして美月さんの青いドレスは、少しゆったりとしていて、丸味を帯びた身体と波打った布が、見ている僕の気持ちも和ませてくれる。
僕が上げたヘアピンも、付けてくれているし。
ただ爽やかなデザインなのに胸元が大きく開いていて、ちょっぴり大人っぽい。
「ええ、私も少しこれは……」
「えっ、そうかな~。綺麗だよねライル君」
「キュピ~~♪」
どうやら、僕の肩に乗って居たカーバンクルのライル君も気に入ったみたい。
「あっ、だめだよ乗っかったら。汚れちゃうから~」
僕の手をすり抜けたライル君が、美月さんの肩に飛び移り、あっ、そこはダメ……
「キャッ……、もうライル君たら~」
(えっ、許しちゃうんだ……)
青いドレスに潜り込んだライル君が、彼女オン胸元から顔を出している。
赤い顔をした美月さんが、やんちゃなライル君を優しく両手で包み込んだ。
(ちょっとだけ、羨ましいかも……)
「それで……ルキ様は買わないのかしら?何でしたら私がプレゼントしますわよ」
「えっ、うん。僕は鎧を着たりするから、安いのでいいかな~って」
「ルキ君らしいわね。それならもう少し安いお店に行きませんか?私も冒険用の洋服が欲しいですし」
という事で、今度は市場のようなと所にやって来た。
お店を構えているわけではなくて、食べ物を売っている屋台と並んで、道端でゴザを敷いて商品を売っている露天商だ。
洋服の形はおしゃれではないけれど、色が鮮やかな物もちらほらとある。
僕がワゴンセール状態の服の山を掻き分けていると、後ろから同時に声がかかった。
「これなんかどうかしら?ルキ様の髪の色に合うと思うのよね」
「ルキ君。これはどうでしょうか」
アメリアさんが手にしているのは白の上下で、美月さんが選んでくれたのは黒の上下だった。
どちらも中古品だけれど汚れていないし、作りもしっかりとしている。
しかもスラっとしたデザインが恰好よくて、プラチナブロンドの髪の毛との相性も抜群だと思う。
「うん、恰好いいね」
ちょっと目立ちそうだけれど……なんかキリッとしていて強そうに見える。
もしかしたらだけど、どこかの貴族の、それも同じ人が着ていた服なのかもしれない。
だってサイズが同じなんだもん。
そんな感じで3人で仲良く洋服を選んでいたら、結構な量になってしまった。
「ルキ君。冒険者ということは、お家は無いんですよね?」
「うん、そうなるよね。あっ……」
とっても安かったから、ついつい洋服を買ってしまったのだけれど~~、大荷物は邪魔になるだけだった。
「それなら、ルキ様のベルトに入れればいいのよ」
「確かに……でもそんなに入るのかな?」
「どうなんでしょう。ベルトに入れるとしても、カバンを買ってはどうでしょうか?」
こういうところは、女性の方がよく気が利くと思う。
取り敢えず僕たちは頑丈な布で出来た、大きなリュックを3個買った。
宿屋では別々の部屋になるから、自分の服は自分で持つ。
それに冒険者なのだから、両手は空いていた方が良いよねって事で。
それぞれのリュクに洋服を詰め込んでから、僕の魔法のベルトに入れてみる。
「うわぁ、凄い……」
「魔法って本当に不思議ですね」
「そうかしら?」
別の世界から来た僕と美月さんにとっては驚きでも、元からこの世界に住んでいるアメリアさんにとっては、普通の事だったみたい。
という事で、手ぶらになったところで、僕は恥ずかしいけど、次の提案をすることにした。
「あの~僕、下着を買いたいのだけど……いいかな?」
「も、もちろんですわ。こ、こちらにありますわよ……」
うわぁ、アメリアさんが真っ赤な顔をしている。
僕まで顔が熱くなる。
「あの……私も……」
そう、僕は美月さんの事を考えて、自分のせいにして下着屋さんに誘ったのだけれど。
真面目な美月さんは正直に自分も買いたいと、言ったのだった。
今、彼女は下着を着ているのかは、僕は知らないけれど、自前の下着を持っていないのだけは間違いなかった。
何しろ湯浴み着一つで、召喚されてしまったのだから。
その時、またアイツがやって来た。
道幅を超える大きな影と共に、砂埃を巻き上げて突風が吹き抜ける。
「いけない!」
いち早く危険を察知した僕は、何も考えずに舞い上がった美月さんの丈の短いスカートを掴んで降ろした。
「「キャーーーー」」
長いスリットが入った赤いドレスを抑えているアメリアさんとは別の悲鳴が、美月さんの口から上がっている。
「ふ~~」
突風が収まったところで、僕はスカートから手を離した。
「ア、アキラ君……」
(あっ、まずい……)
顔を見なくても分かるほど、震えた声が上から聞こえて来た。
「もう本当に悪戯好きなドラゴンなんだから~、あら?どうしたのかしら二人とも?」
どうやらアメリアさんは、気が付いてないみたい。
気まずい空気が流れる中、僕は美月さんの顔を見る事が出来なかった。
青いスカートの丈が短かったことも有って、少しだけれど見えてしまったんだよね……
アメリアさんに、貸して貰えばいいのに……
さすがに僕のは、貸してあげられないよね?
それよりもアメリアさんが、少し気になる事を言っていた。
「???悪戯好きって、あのブルードラゴンの事を、アメリアさんは何か知ってるのですか?」
「あっ、そうね。ルキ様は知らないわよね。あれはこの街をお治めになっている、伯爵様が抱えている魔獣使いのドラゴンなのよ」
「魔獣使いですか……。という事は、あれは街を襲っているわけではないのですね?」
「それはそうよ。じゃなかったら、安心して暮らせないわよ。まぁ~言うなれば街の守護獣ってところね」
「そうなんですね」
「私も知りませんでした……」
この世界の先輩である美月さんにも、知らない事は有ったみたい。
そして僕たちは、下着屋さんに向かうのだった。
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