038.デートからの三角関係?!

 「よし。今日の所はここまでにしましょう」

 「ありがとうございました。師匠……」


 ようやく、午前中の剣の修行が終わった。


 もう僕の足はガクガクと震えていて、立っているのがやっとという状態。

 本当にこの後、美月さんとデートに出かけられるのか心配になる。


 「基本の型は覚えたようですから、明日からは実戦形式で行きます。覚悟しておいてください」

 「は、はい……」


 しかも型を覚えるだけで、こんなに疲れてるのに……

 僕は必死の思いで部屋まで戻ると、そのままベットに倒れ込んだ。


 師匠が修めている剣は青龍派と言う。

 それは川を流れる水のように滑らかに相手の攻撃を躱しかわし、その間も絶え間なく岩を削るがごとく攻撃をするというものだ。


 だから一つ一つの型を覚えるのではなくて、一連の流れるような動作を覚えることが必要となる。

 まるで太極拳のようにゆっくりと、30分ぐらいかけて型をなぞるんだ。


 その間中、ずっと刃の角度とか足の運び方に気を付けて、集中していないといけない。

 だからついつい呼吸を止めて集中しちゃうんだけれど、それもダメらしい。


 ゆっくりと鼻から息を吸ってお腹に溜めてから、滑らかに口から吐き出していく。

 それが意外とキツイ。


 しかも金属鎧の下には、分厚い生地に綿が詰められた鎧下ギャンベゾンを着ている。

 金属鎧が肌に擦れて痛くならないようにする為らしいのだけれど、熱が籠って蒸し風呂みたいだ。


 因みに鎧下ギャンベゾンだけでも、防御力があるらしい。

 ただ、ちょっと見た目がね……


 だから普段は薄手の洋服を着ようかな~~と考えている。


 「はぁ~死ぬ~~」


 はっきり言って、狼との戦いの方が楽だった。

 もう、鎧を脱ぐ気力も残っていない。


 そうは言っても、上級全武器アドバンスド・ウエポン・マスタリーのおかげで、型を覚えるのは意外と簡単だったのだけれどね。


 コンコン


 「ルキ様~。いるかしら~?」


 ドアの向うからアメリアさんの声が聞こえる。


 「は~い。開いてますよ~~」


 僕はベットに倒れたまま返事をした。

 顔を上げることも出来ない。


 「まぁ~~、大丈夫かしら?本当にあの剣術バカは容赦がないわね……。これでも飲んで元気になるといいわ」

 「ありがとう……あ、ライル君。そこに居たんだ」


 アメリアさんの肩に乗っかっていた、カーバンクルのライル君が、僕に飛び移って来た。

 どうやら、みんなに懐いてくれたみたい。


 アメリアさんから手渡された試験管の中には、オレンジ色の液体が入っている。

 僕は彼女の手を借りて起き上がると、謎の液体を目をつぶって飲んだ。


 ゴクゴクゴク


 「ぷっ、ふぁ~~美味しい……」


 ドロリとしているけれど、オレンジとレモンと、あとは……蜂蜜かな?

 よくわからないけれど、甘くて爽やかな味をしていて、とっても飲みやすい。

 体の中に染み込むようにして、隅々までが温まっていく。


 「どうかしら?アメリア特製のスペシャルドリンクの効き目は?」

 「うん、疲れが取れて元気になったよ。ありがとう!アメリアさん!!」


 なんだかんだ言って、彼女はとても気が利く優しい子だった。

 もしかしたら、僕が修行しているところを見て、わざわざ用意してくれた物なのかもしれない。

 そう思うと嬉しくなって。


 ギューーー


 「キャッ!よ、鎧が当たって痛いから……」

 「あっ、ごめんなさい」


 僕は思うわず感激して、アメリアさんに抱き付いてしまったのだけれど、フルプレート・アーマーを着たままだった。


 「でも嬉しいかも……」


 僕が鎧を脱いでいる傍で、赤い顔をしたアメリアさんポツリと何かを呟いた。


 「あっ、アキラ君……」


 タイミング悪く、今度は美月さんがやって来た。

 ドアが開いているから、顔を真っ赤にしているアメリアさんの側で、僕が鎧を脱いでいるのが丸見えだ。


 (まずいかもしれない……)


 「美、じゃなかった。セレネさん。もう少しで鎧が脱ぎ終わりますから、あっ……痛っ~」


 よそ見をしながら籠手を外していたら、思いっきり打ち身にぶつけてしまった。


 「うわぁ~痛そう~。色が変わってるじゃない。今、湿布を張ってあげるわ」

 「それでしたら、魔法で治しましょうか?」


 「なによ。私の湿布の効果が無いとでも言うの?」

 「いえ、ただ神聖魔法の方が即効性がありますので……」


 アメリアさんとセレーネーこと美月さんが、言い合いを始めてしまった。


 (ま、まずい……こういう時はどうしたらいのだろう……)


 「キュルル~?」


 ライル君が顔をかしげるのを見て、僕はピンと来た。


 「あっ、ヒールを試してみたいので、自分で治してみます」


 そう言えば、僕もヒールを覚えていたのだった。


 (え~と、ラージ・ヒール!)


 「うっうわぁ~あ、お、大きすぎるわよ。ルキ様……」


 部屋の中で使った大魔法の魔法陣は、とっーーーても大きかった。

 八畳ぐらいの部屋いっぱいに、赤い魔法陣が広がっている。


 「ルキ君……ヒールはスモールの魔法ですよ……」

 「えっ、そうなの?!」


 「はい。私は小神聖魔法スモール・セイクリッド・マジックを覚えた時に、ヒールも取得していましたから……」

 「じゃ~サンクチュアリは?」


 「サンクチュアリは中神聖魔法ミドル・セイクリッド・マジックを覚えた時に。あと重傷者を治療するときには、ミドル・ヒールを使います」

 「そ、そうなんだね……僕は大魔法ラージ・マジックしか覚えてないから……」

 「流石、ルキ様ですわ~」


 アメリアさんは流石と言ってくれるけれど、僕はチートだと思うんだよね。

 美月さんも何と言っていいか困ってるみたいだし……


 ん~僕も小魔法スモール・マジックが使えるのかな?

 そうだ後でお師匠様に聞いてみよう!


 そしてようやくラージ・ヒールが発動した。

 ラージ・サンクチュアリの時と同じように、金色の羽根が降ってきて、打ち身が綺麗さっぱり消えてなくなた。

 MPがごっそりと減ってしまったけれどね。


 そして僕たち3人は、買い物に出かけた。

 えっ、何でデートじゃないんだって?

 それは僕の方が聞きたいよ……だって二人ともバスケットを持っていたんだよ……


 ヘアピンだって、美月さんに渡してないし……


 そう、朝はカーバンクル君の事があってそれどころじゃなかったのだけれど、実は朝になってもヘアピンが残っていたんだ。

 どうやら創造魔法クリエーション・マジックで、消える事が無い品物を作る事が出来るみたい。

 これは大きな前進だと思うんだ。

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