037.剣の修行が始まる?!

 ライル君のおかげで難を逃れた僕は、冒険者ギルドの裏口を出たところにある井戸にやって来た。


 「お~、ルキフェル殿では無いか。早起きとは感心。では早速、剣の修行を始めるとしよう」


 剣の素振りをしていた師匠が話しかけてきた。


 「ええ~……今からですか……」


 太陽は登っているけれど、外の空気はまだヒンヤリとしている。

 しかも寝起きだから頭がボ~~っとしているし。


 あれ?ライル君が居ないや。

 さっきまで肩の乗って居たのに、どこかに遊びに行ったみたい。


 「さぁ~どこからでも切りかかって来るといい」

 「えっ、ちょっと……僕、真剣しか持ってませんけど……」


 師匠が木刀を手にして立っている。

 手をぶらんと下げて足を肩幅に開いているけれど、これが自然体と言うのかな?


 僕は魔法のベルトを腰に巻いているから、”古代の量産型ロングソード”を持っているけれど。

 それで切りかかるのはさすがに危険だと思う。


 僕のロングソードは切れ味が抜群だから、木刀ぐらい簡単に切る事が出来る。


 「もちろん、真剣でかかって来るといい。手加減は無用だ。さぁー」

 「はぁ~では、あっ、鎧も着た方がいいですか?」


 「おお、そうであったな。ルキフェル殿は体力が足りないから、その方が鍛錬になるだろう。それなら私も攻撃できるしな」


 (しまった……まさか師匠が攻撃してくるとは思わなかったよ……)


 「で、では……変身……」


 ピカーーン


 寝ぼけている体に、ずっしりとした金属鎧のヒンヤリとした感触が伝わってくる。

 左に手にはミスリルで出来たカイトシールド、左の腰にはロングソード。

 そして右の腰には、豪華なダガーまでが下がっている。


 今、僕に出来るフル装備だ。


 「見かけは立派だが、それで戦えるのかな?」


 珍しく師匠が挑発して来た。


 「行きます!」


 僕はその挑発に乗ってロングソードを抜き放つと、そのまま一気に師匠に切りかかった。

 上段に構えたロングソードの鋭い刃が、朝日を受けて煌めきながら振り下ろされる。


 「はぁっ……」


 朝の静謐な空気を切り裂く斬撃。

 ルキフェルの放った一振りは、サクラの想像を絶するものであった。


 魔法戦士Xである彼は、最初から上級全武器アドバンスド・ウエポン・マスタリーを習得している。

 本来であればレベル40~50で覚える達人の為のスキル。

 しかもレベルが19に上がったことで、敏捷力にも補正が掛かっている。


 引きつった顔を残した彼女の残像が、研ぎ澄まされたロングソードに真っ二つにされ。

 油断していたサクラは回避に失敗していたのだが、ユニークスキルのスルーに救われたのだった。


 何しろ相手は、村人の子供ですら倒すことが出来るスライムを倒せなかった少年である。

 それだというのに……


 「な、なかなかですな、しかしまだ甘い!」


 会心の攻撃モーションを終えたルキフェルは、サクラが消えた事に驚いて固まってしまっている。

 そしてその胴に衝撃が走り。


 カッーーン!


 甲高い音を立てて、自慢の防御力が鋭い木刀の一撃を弾く。


 「うわぁ~」


 それでも勢いに押されて、ルキフェルは姿勢を崩して尻もちをついてしまった。


 「いいですか。一瞬の気の緩みが命取りになります。攻撃が終わった後に隙だらけになってますよ」


 サクラは自分に言い聞かせるように、いつにもまして厳しくしている。

 これまでに、彼女自身が剣の師に言われ続けて来た言葉だ。


 「は、はい!」


 今の一撃で、ルキフェルの目が完全に覚めた。

 そして分ったことが一つだけある。


 (師匠は強い)


 「行きます!」


 今度は袈裟切りに仕掛けてみた。

 さっきよりも簡単に避けられてしまう。


 僕は隙を小さくしようと、剣を振り切らずに直ぐに止めたのだけれど遅かった。


 カッン!


 「痛っ……」


 木刀に籠手を強打されて、ロングソードを落としてしまった。

 しかも切られていいないというのに、HPが少しだけ減っている。


 「武器を手放すのは論外です。そのまま切り殺されてしまいますよ」

 「は、はい……」


 そこからは何度切りかかっても、僕の攻撃は師匠に当たる事が無かった。

 それどころか、師匠が持つ木刀にすら、僕の剣は触れていない。


 まるで風に揺れる柳のように、ふわりと躱されてしまう。


 「はぁ、はぁ、どう……どうして師匠に当たらないのですか……」


 自分で言うのも変だけれど、僕の攻撃は以前と比べて凄く早くなっている。

 空気を切り裂く音だって聞こえる。


 それは狼と戦った時に、証明されたはず。


 なのに何度、剣を振っても師匠には当たらなかった。

 しかも僕はもう動けないほど疲れているというのに、師匠は汗の一つも掻いていないない。


 「ルキフェル殿の攻撃は素直すぎるのです。振りかぶった瞬間に何処を狙っているのか。そしてどのような軌道で攻撃が飛んで来るのかが分かってしまいます」

 「そ、そんなものですか……」


 達人と同等のスキルを得たとしても、彼自身は初心者だった。

 言うなれば素振りだけは達人レベルでも、実戦経験はゼロの素人なのだ。


 一方のサクラは中級剣ミドル・ソードまでしか習得していないが、達人の下で幼い頃から実戦さながらの教育を受けてきている。

 達人ではなくとも、間違いなく上級者だ。


 「顔を洗ったら朝食にしましょう。その後で私の流派の型を教えます」

 「よ、よろしくお願いします……師匠……、あの~~はかまの紐がほどけていますよ……」


 言っている傍から、袴がストンと下に落ちる。


 「キャーーーーーー!!」


 こうして、ルキフェルの剣の修行が始まった。

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