032.冒険者ギルドへ帰還 試練って?!

 夕方の冒険者ギルドは、仕事帰りの冒険者で混雑していた。

 カウンターの前には、3つの長い列が出来ている。


 みんな手に革袋とか毛皮を持っている。

 どうやら倒した魔物の戦利品見たい。


 中にはとっても大きなヘラジカの角見たいな物を、3人がかりで持っている人も居る。

 どんなに大きな鹿だったのか、わくわくする。


 きっと僕達が落ちてしまった落とし穴は、ゾウさんみたいに大きな獲物を捕まえるための罠だと思う。

 だって直径が10メートル以上もあるんだよ?


 「おう、帰って来たか!」


 大きな声と共に、ムキムキマッチョのギルドマスターがドタドタとやって来た。

 また受付をしていたみたいだけれど、お構いなしだ。


 「あっ、ただいま~。お兄ちゃん!」


 メルさんが嬉しそうに、ギルドマスターの首に抱き付いている。

 彼女は背が低いのに、凄いジャンプ力だと思う。

 しかもクルクルと首の周りを回っているし。


 まるで親子みたい。


 「だから~、ここではギルマスと呼べと……おお、どうやら倒してきたみてーだな」

 「うん。ルキフェル君達凄いんだから~!!」


 「おいおい、ギルマスさんよ~。こっちが先に並んでるのに、何してるかな~」


 まるで男みたいな話し方をしているけれど、意外と綺麗な顔をしたお姉さんです。

 しかもあの強面のギルドマスターに、まったく怯んでいない。


 「あぁ~ん!?ガキはすっこんでろ」

 「なっ、あたしをガキだと……」


 彼女はソフトレザーアーマーを着てるのだけれど、肩と腕、あと足にしか付けていない。

 胸には帯状の黒い布だけを巻いている。


 名前:ベリンダ

 年齢:19

 職業:斥候スカウト

 LV:15

 胸囲:Cカップ


 上半身の露出だけなら、皮チョッキだけを着ているギルドマスターといい勝負だ。

 しかも胸が意外と大きい。


 「まぁ、まぁ、ベリンダさん。ルキフェル君達は、オークから村を救ったんですから。いいじゃないですか~」


 殴り合をしそうな二人の間に、普段は受付をしているメルさんが割って入った。


 「ふっん、大理石が笑わせんじゃないよ。一体、何体倒したって言うんだい?」


 ベリンダと呼ばれた女性は、首から黒曜石オブシディアンが付いたペンダントをしている。

 冒険者クラスが大理石マーブルの僕達よりも一つ上だ。


 「ふっふ~ん。はい、はい、ちょっとどいてね~~」


 メルさんが行列を掻き分けて進むと、カウンターの上に拳大こぶしだいの魔石を次々と置いていった。

 その数36個。


 どうやらシルバー・オークとゴール・オークの事は秘密にするみたい。


 それを見た冒険者達がザワザワし始めた。

 もしかしたら、凄い事なのかもしれない。


 「なっ、バカな……」

 「ヒュ~~、やるね~お嬢さんたち~。どう僕とお茶しない?」


 名前:カリスト

 年齢:20

 職業:戦士ファイター

 レベル:13


 やたらと露出が多い女の人に変わって、今度は耳に幾つものピアスを付けた男の人が出て来た。

 こちらも露出が多い金属鎧と、背中にやたらと長いロングソードを掛けている。


 しかも王女様の事を、蛇のようにジィーーーと見つめて。


 「貴様、この方に手を出すと、ただでは済まさないぞ」


 サクラ師匠の冷たい声と共に、いつの間にか男の首に剣が付き付けられていた。

 あまりの速さに、僕にもいつ剣を抜いたのかが分からなかった。


 「ヒィッ……イィ…………」


 蛇みたいな男は、恐怖の余りに震えるだけじゃなくて……ズボンの色が変わってしまっている。


 (可哀想に……同情します)


 「もういい。話はあとで聞く。それでお前たちを瑠璃ラピスラズリに上げろと言う話だったか?」


 ギルドマスターが何でもない事のように師匠の剣を手でどけると、ベリンダさんと話し出した。

 どうやら彼女が、このパーティのリーダ見たい。


 彼女の周りには、蛇男以外にも3人の男性が付いている。


 「そうさね。いい加減、上げてくれてもいいじゃないか」


 残念ながら、最初の勢いはなくなっていた。

 それでも超強面のギルドマスターを睨んでいるのだから、凄い根性だと思う。


 「ふん、まだお前らには早いと言ってるだろうが、それよりも、こいつらの方が先に試練を受ける事になりそうだがな」

 「えええっ、僕達がですか……?」


 (いや、そもそも試練とか聞いてないよ……僕たちは、まだ一番下の大理石だし……)


 「ふざけるんじゃないよ。冒険者に成りたてのガキどもが、クリア出来るわけが無いだろ!!」

 「あぁ~~めんどくせーー。じゃー、受けさせてやんよ。死んでも知らね~からな」


 急にギルドマスターの目つきが悪くなった。

 僕が睨まれたわけでもないのに、背中が下の方から寒くなってくる。


 「けっ、アタイらは何年、冒険者をしてると思ってるのさ……。まぁ見ているがいい。チッ、行くよ!」

 「へ~い、姉さん。じゃ~またな~お嬢さんたち~。瑠璃ラピスラズリになったら酒をおごって上げるからさ~」


 (いや、ズボンが濡れている人に言われても……)


 「こっちから、お断りよ。ベーーーーー」


 (あっ、アメリアさん、そういう人は相手をしない方が……)


 どうやら、こちらの世界にも、変わった人たちは居るみたいです。

 あんまり関わりたくないけれど、なんだか嫌な予感がする。


 「おら、坊主ども。泊まるところが無いんだろ?上に泊まってけ。今日はタダにしてやる」

 「やった~。ありがとうございます」


 どうやら、今日はベットで寝る事が出来そうです。

 僕は喜んでギルドマスターに頭を下げた。


 なんだかんだ言って、この人もいい人なのかもしれない。

 顔が怖いけれどね……


 「さぁ、皆さん。ご案内しますよ~」


 いつも元気なメルさんが、2階へと案内してくれる。

 機嫌よく揺れる短いスカートが、チラチラと白い物を覗かせ。


 階段を登ってすぐの部屋が、王女様とサクラ師匠。


 「ルキフェル君は、隣の部屋ね」

 「えっ、僕だけ一人ですか?」


 「当り前じゃないですか~。結婚前の男性と女性が一緒の部屋で寝るのはダメですよ~。ルキフェル君って意外とエッチなのかな~?」


 確かにそうなのだけれど、急に寂しくなってきた……

 昨日は野宿だったけれど、みんなと一緒に眠る事が出来た。

 もしかしたら、そのせいかもしれない。


 「ふふふ、別に私は一緒に寝てあげてもいいわよ?大人だし~。ベットも一つで済むから~」

 「姫様!はしたないですよ。ささ、こちらへ。ルキフェル殿は、ゆっくりと休むように。明日からまた特訓です!」

 「はい……師匠……」


 ちょっと疲れたから、明日はお休みにしたいのだけれど……

 王女様達が部屋に入って行く。


 「残りの方は、こちらで~す」

 「ルキ様。どーーしても、寂しかったら私を呼んでくださいね。場合によっては添い寝して差し上げてもいいですわよ……」

 「はぁ~。皆さん。結婚するまでは清い身体でいましょうね……。ルキ君。おやすみなさい」

 「ルキお兄ちゃん。また明日でしゅ。おやすみなちゃい」


 そして僕の奥の部屋が、美月さん達の部屋だった。

 なんで、僕の部屋が間に挟まれているのだろう?


 「う、うん。みんな、おやすみなさい」


 僕は何と答えていいか分からず、メーテちゃんに挨拶をして部屋に入った。


 そこは4人部屋だった。

 8畳ぐらいのスペースに、シングルベットが4つも並んでいる。


 「はぁ~疲れた……」


 僕は洋服を着たまま、一番奥のベットに倒れた。

 少し硬いけれど、真っ白なシーツがとても気持ちいい。


 『ルキがんばった』


 リュックの中からカーバンクル君の声が聞こえて来た。

 どうやら僕の名前を憶えてくれたみたい。


 (うん。僕、頑張ったよ。みんなも無事で良かった)


 いきなりの冒険で色々あったけれど、終わってみれば楽しいものだった。

 しかもひ弱な僕が、剣を使って戦う事が出来たんだ。


 それにずっと、ずっーーーと、探していた美月さんにも会えたし……


 グ~~~


 (あっ、そう言えばお腹が空いたかも~)


 お風呂にも入りたいし。


 (あっ、MPが満タンだから、今ならシャワーが出せるよ!)


 狼を倒してからは、何もしてないから回復したみたい。

 それに余った魔力が、右手にも溜まっているし。


 あっ、それとも、レベルアップをしたから、MPが満タンになったのかな?

 ちゃんとステータスを見ておけばよかった……失敗。


 このまま寝てしまいそうだったけれど、僕は忍耐の力も借りて、ベットから抜け出した。


 荷物を置いて行こうか悩んだけれど、僕にはよく切れるロングソードと高価な短剣、それにカーバンクル君が入っているリュックしかなかった。

 どれも大切だから、持って行くことにする。


 因みにこの宿のドアには、スライド式の棒が付いているだけだった。

 だからオートロックで締め出される心配もないけれど、ちょっと心配。


 この世界には鍵とか無いのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る