4章.貴族と冒険者

031.男爵って何様!?

 村の広場に戻ると、村長さんが復興に向けて指示を出していた。

 どうやら瓦礫の撤去が終わり、仮設の家を建て始めるみたい。


 次から次へと来る村人に、テキパキと次にやる事を伝えている。


 「今よ、ルキ君」


 村長さんの手が空いたところで、王女様が僕の背中を押してくれた。


 「あ、あの~村長さん。ちょっといいですか?」


 僕は勇気をだして話しかけてみた。


 「お~これは、これは勇者様、如何しましたか?」

 「いや、勇者はちょっと……あっ、良かったら、これを村の人たちで分けてください」


 メルさんが大きな敷物の上に、狩りの成果を並べてくれている。

 キノコや狼だけでなく、鹿とか猪のお肉と毛皮と角なんかもあった。


 (うぁ、大きな猪。誰が倒したのだろう……)


 「ううう、村を救っていただいたばかりでなく、食料までいただけるとは……なんと有難い事か……」

 「いえ、これは宴会のお礼という事で……」


 そう、気持ちは分かるのだけれど、宴会をしなければ2、3日は持ったと思うんだよね……

 メルさんの話では、街に戻れば冒険者ギルドからも、救援物資が出せるらしい。


 (あの怖いギルドマスターは、民衆に優しいギルドを目指してるのかな~?)


 あと村長さんが涙を堪えながらお礼を言っているのだけれど、僕の手で涙と鼻水を拭うのは止めて欲しい……


 そんなこんなで、村人達に囲まれて感謝されているところに、一台の馬車がやって来た。


 黒塗りで、それなりに立派な見た目をしている。

 その周りを守る様にして、馬に乗っている騎士が4人も付いている。


 どうやら偉い人が乗っているみたい。


 馬車から降りて来たのは、一人の小柄なオジサンだった。

 だいたい50歳ぐらいに見える

 洋服は立派だけれど、顔はネズミみたいで、チョビ髭を生やしている。

 ハッキリ言って、似合っていないけれどね。


 「こ、これはベンハミン男爵様……」


 村長さんが慌てて、男の前に跪いた。


 (へぇ~これが貴族か……ドルトン先生のほうが格好いいや)


 「ふん、村長か。魔物の群れに襲われたと聞いて来てみれば、大したことは無さそうだの~~」

 「はい。冒険者様のおかげで、村人は全員が助かりました」


 「そんなことよりも、今月の税金は納められるのだろうな?」


 男爵の細い目が大きく開いた。

 これが威圧と言うのかな?


 村長さんの体が震えて小さくなっている。


 「そ、それは……」

 (可哀想に……)


 僕はこれ以上見ていられなかった。


 「家畜が襲われて、家も壊れてしまったのに、そんなの払えるわけが無いじゃないですか!」


 僕は理不尽な事が大っ嫌いだ。

 だから大きな声で、貴族に言い返してやった。


 (てか、村の様子を見ればそんなの分るよね?)


 「む、ガキが、誰に向って口をきいてるんだ?」


 男爵がすごんで来たけれど、マンティコアに比べたら全然怖くない。

 でも鎧を着た騎士が剣を抜いて、前に出て来ちゃった。


 (まずいかも……)


 騎士のレベルは13で、一人だけ20の人がいる。

 1対1だったら勝てるかもしれないけれど、同時に4人は厳しい……


 それでも僕は、剣に手を掛けた。

 ここで戦ったらいけないのは分かっている。けれど……

 偉そうにしているこの人が許せない。


 「ベンハミン。領主の務めは領民を守る事だと言うのに、随分と遅い到着ですね。しかも兵を4人しか連れてない。それで38匹ものオークを倒せるのでしょうか?」


 今にも騎士が僕に切りかかってきそうなところで、王女様の凛とした声が相手を圧倒してくれた。

 さすがは王女様だった。


 男爵だけでなく騎士までが、明らかに怯んでいるのが分かる。


 もしかしたら、王女様の何かしらのスキルが発動したのかもしれない。


 「くっ、小娘が利いた風な口を……おや、そこに良い毛皮があるでは無いか。今日の所はそれで許してやろう。オイ」


 顎で騎士に指示をだした男爵が、急いで馬車に戻って行く。

 代わりに剣を手に下騎士が、狼の毛皮に向って、つかつかと歩いている。


 「ちょっと……」

 「お止めください。ルキフェル様……」


 剣を抜こうとした僕の手を、村長さんが掴んで来た。

 その手が震えていることから、村長さんの怒りが伝わって来る。


 「えっ、でも…………」


 狼の毛皮を見て、みんながあんなに喜んでくれて居たと言うのに……


 この魔物の黒い毛皮は、防寒着としても使えるし、とても高い値段で売れるらしい。

 そしてみんなが見守る中、騎士が嬉しそうに毛皮の束を持って行ってしまった。


 「おかしいじゃないですか!なんで何も言い返さないんですか……」


 男爵の馬車が走り去った後、僕は気持ちが抑えられなくて、つい村長に大きな声を出してしまった。

 自分でもいけない事だと分かっている。


 (でも……)


 「仕方が無いのですじゃ……」

 「ルキ君。止めなさい」


 珍しく王女様が厳しい声で話しかけて来た。

 まるでお母さまに怒られているみたい。


 胸がギュっとなる。


 「でも……おかしいよ……」

 「ルキ君はやっぱり、まだ子供なのね。でもそれでいいのよ」


 怒りの収まらない僕を、王女様が優しく包み込んでくれた。

 甘い香りに包まれて、僕は悔しくて泣いてしまった……男の子なのに……


 王女様が言う通り、あの男爵は村を守る義務を放棄しているんだ。

 それなのに税金だけは奪っていくなんて。


 (そんなのおかしいじゃないか……ずるいよ……)


 …………


 帰り道


 「いや~~、皆さんのおかげで助かりました~」


 僕の横で御者台に乗っているメルさんが、明るい声を出してる。


 とてもそんな気分にはなれずに、僕は手綱を手に馬を見つめる。

 折角、オークの群れを倒して、村を助けたと言うのに気分は最悪だった。


 (もっと僕が強ければ……)


 行きに馬車の操縦方法を教わったから、僕は気分を紛らわすために実習中だ。


 と言っても、動き出すときに軽く手綱で叩くのと、止まるときに引くだけなのだけれどね。

 あと、分かれ道で道を選ぶこともする。


 だから、こっそりと魔操法を使って、体の中で魔力を移動してたりする。

 初めは胸の真ん中から、手とか足に移動することしか出来なかったのだけど、どうやら手から足に直接移動することも出来るみたい。


 話しが逸れちゃったけれど。

 ベルトン先生には悪いけど、今回の事で僕は貴族の事が嫌いになった。


 だからお母さまを早く、お城から連れ出さないと行けないと思っている。


 でも、今の僕ではファフニールどころか、一人の貴族にも何も出来ないでいる。


 だから僕は強く成ろうと思う。

 それこそドラゴンを倒せるぐらいに成れば、貴族だって話を聞いてくれるよね?


 因みに男爵って、どれぐらい偉いのだろう?

 校長先生ぐらいかな?


 「ところで、今回の報酬は何処から出るのかしら?」


 アメリアさんから、メルさんに鋭い質問が飛んだ。

 どうやら彼女も少し機嫌が悪いみたい。


 声が氷のように冷たい。


 そう、今回は冒険者ギルドに助けを求めた村人から話を聞いて、依頼を受けたのだけれど、報酬の事は何も聞いていない。

 そもそも正式な依頼なのかも怪しい。


 「ん~~、魔物の襲撃を受けた村は、とても報酬を払える状況ではありませんからね~。ギルドから少しぐらいは出せるかもしれませんが……」

 「確かにそうね。それなら領主に出してもらえばいいのよ」


 マリア王女様が何でもない事のように言い切った。

 僕はその言葉に驚き、そして嬉しくなった。


 でも、その通りかもしれないとも思う。

 税金は、みんなのために使わないとね。


 「ハハハハ、また何か起こりそうですね~」


 そして冒険者ギルドの受付をやっているメルさんが、渇いた声で笑うのだった。

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