029.ルキVS狼!?

 黒くて長い毛をなびかせて、人間よりも大きな狼が、牙が生えている口を大きく開いて向かってくる。


 <神秘魔法ルーン・マジック、シールドを習得しました>


 (いや、今はそれどころじゃないから)


 僕はメーテちゃんが唱えたシールドの魔法を覚えたのだけれど、仲間の女性達に抱き付かれていて、身動きが取れなくなっている。 誰のか分からない胸とか、僕の手を挟み込んでいる太もも?とか……


 (あれ?何だろうこの柔らかい感触は???)


 「キャッ、アキラ君……」

 「ご、ご、ごごごごめんなさーーーい!!!」


 どうやら、美月さんのお尻だったみたい。

 手でモミモミしてしまったよ……どうしよう、絶対に嫌われてしまう……


 僕達を包み込んでいるシールドが見えないバリアーとなっていて。

 そこにぶつかった大きな狼たちが、次から次へとと弾き返されて行く。


 グサッ

 「キャイーーーン」


 落ちた先で、大きな狼に槍が突き刺さっている。

 じたばたともがいていているけれど、返しが付いているから、簡単には抜けないと思う。


 なんと王女様の作戦によって、あっという間に半数以上の狼が行動不能に陥った。

 運よく槍を逃れた狼がまだいるけれど、落下のダメージを受けたのか、のっそりと立ち上がっている。


 「ルキ君。戦えるかしら?」

 「はい。大丈夫です」


 古代のロングソードが直ぐそばに落ちているから、拾えれば戦える。


 ただMPが無いから魔法も、奥義も出すことが出来ない。

 師匠が使った”疾風乱れ切り”が使えればよかったのだけれど、今は贅沢を言えない。


 魔法のシールドを警戒しているのか、狼たちはこちらの様子を伺っていて、攻撃をしてこない。

 意外と頭が良いみたい。


 「いい、ルキ君が飛び出したら、メーテちゃんはスリープの魔法を使って。他は何でもいいから攻撃よ。みんな頑張ってね」


 <王女の命令プリセス・オーダーの効果が発動しました>

 <王女の応援プリンセス・エールの効果が発動しました>


 「はい。それではシールドを解除しましゅ」

 「行きます!」


 僕の言葉を聞いた仲間が一斉に離れた。


 僕はそのまま一直線にロングソードまで駆け寄って、急いで拾い上げ。


 「グアァーーーー!!!」


 僕の頭を軽々と飲み込めるほどの大きさに開いた口が迫って来た。

 しかも鋭く長い牙から涎が垂れている。


 (僕なんか食べても美味しくないよ!)


 僕は敵の攻撃をしゃがんで躱すと、そのまま前に出て白い毛に覆われたお腹を切り裂いた。

 皮と肉を切り裂く感触にゾッとするけれど、今は戦うしかない。


 そのまま王女様に飛び掛かろうとしている狼の前足を刎ね。

 血を流しながら前のめりになった、その狼を足場にして大きく飛び上がる。


 今度は魔法を唱えているメーテちゃんに食らい付こうとする狼の首を、落下の勢いを使ってね飛ばした。


 「スリープ!」


 パタ

 パタ、パタ、パタ


 <神秘魔法ルーン・マジック、スリープを習得しました>


 完成した魔法によって、次々と大きな狼が眠りに落ちて行く。


 辺りを見てみると、銀色のメスが突き刺さって死んでいる狼や、全身を切り刻まれた狼などが倒れている。

 メスはアメリアさんだとして、血まみれの狼は誰が殺したのだろう?


 あまりにも夢中だったから、僕は他の人が戦っているところを見る事が出来ていなかった。


 「ふ~~何とかなったわね。あっ、止めを早めにしてね」


 眠っている動物を殺すのは嫌だけれど、ここは男の僕がやるしかない!


 それにしても、この”古代の量産型ロングソード”の切れ味は抜群だった。

 彫刻刀よりも鋭い。

 きっと、切られた瞬間には痛みを感じないんじゃないかな~。


 そして本当は血糊が付くから、百人切りなんか出来ないって、聞いたことが有るけれど、この剣の切れ味は全く変わらなかった。


 フワッ


 (あっ、この狼も魔物なんだね)


 僕が首を刎ねた狼が光の粒になって消えたよ。


 そして飴玉よりは大きな魔石と、毛皮と、えっえええ!?お肉??

 が、地面に落ちている。


 しかも肉が土で汚れないようにと、大きな葉っぱが下に敷かれている。


 本当に、ここは不思議な世界だった。


 魔物と判ったことで気分が軽くなった僕は、次々と狼に止めを刺して行った。

 出来る限り一撃で死ぬようにと、心臓の辺りを突き刺して。


 パラララッタラ~~

 <レベルが19に上がりました>


 今回は美月さん以外、レベルを1ずつ上げる事が出来た。

 もう一つ上がったら、また必殺技を覚えらえられるのかな~?


 結局、僕達は23匹の大狼を倒すことが出来た。

 それにしても、本当に魔物は凶暴なんだね。

 全部が穴に飛び込んで来たみたいだ。


 千里眼を使って穴の外を見てみたけれど、もう敵は残っていなかった。


 「さてと、次はどうやって、ここから出るかだけど~、ちょっと難しいわね」


 マリア王女様が腕を組んで考えこんでいる。


 それにしても、王女様は本当に頭が良い人だと思う。

 さっきだって何もしないまま、沢山の狼に襲われていたら、間違いなく全滅していたよね?


 それをシールドと言う一つの魔法で、逆転したんだよ!?

 本当~に、本当~~に凄いと思うんだ!


 「メルさん。何かいい物を持ってないかしら?」


 アメリアさんがメルさんに話しかけた。


 「ん~~ロープは有るけど、木に引っ掛ける事が出来ないしね~。助けを待つしかないかな~」


 知識が豊富な冒険者ギルドの受付である彼女にも、今回の状況を突破するのは難しいみたい。


 「組体操は、どうでしょうか?」


 という事で、美月さんのアイディアと、マリア王女の頭脳が導き出した、人間梯子とでもいうものを作る事になりました。


 でも僕以外……、みんな女の人だよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る