028.空から降って来るもの!?

 薄暗い大きな穴の中、僕は美月さんと二人っきりでいる。

 と言っても、僕の太ももには地面から生えている槍が刺さったままだから、動くことが出来ない。

 ちょっとでも動くと、激痛が走る。


 「アキラ君。ごめんなさい。私を庇ったせいで……こんなに成ってしまって……」

 「ううん。僕の方が体力があるから。それに忍耐スキルだってあるからね」


 ステータスを見ればわかるのだけれど、戦闘職の魔法戦士マジック・ファイターである僕の方が、支援職の司祭プリーストの彼女よりもHPが高い。


 僕が痛いのを我慢して、笑顔を作ると。

 美月さんの蒼白だった顔にも、少しだけれど笑顔が戻った。

 意外と役に立つスキルみたい。


 「私、みんなを呼んできますね」

 「待ってよ。一人で行ったら危ないから。それに……」


 美月さん一人では、外には出られない。

 僕だって、怪我をしていなくても無理だと思う。


 僕達が落ちて来た穴以外に、出口が無いのだから。

 高さだって……


 「ルキ君~~、どこにいるの~~」


 その時、マリア王女様の声が穴の向うから聞こえて来た。


 「ここでーーす。マリア王女様ーーー!!」


 珍しく美月さんが大きな声で叫んでいる。

 僕が叫べばいいのだけれど、傷口が痛すぎてお腹に力が入らない。


 ガラガラ


 「「えっ」」

 「「キャーーーーーー」」


 黄色い悲鳴が、土と一緒に天上から降って来た。

 しかも二つ共、僕の真上に。


 ドス


 「ぐえっ…………」


 お腹の上に大きくて柔らかい何かが落ちて来た。

 あまりの衝撃で、息が全部出てしまう。


 そして……


 ドスン

 ムニュ~~


 「…………」


 今度は目の前が真っ暗になった。

 なんだか、とても温かくて、柔らかくて、スベスベとした感触が、僕の顔を挟み込んでいる。

 しかも鼻と口の上に布の感触が……


 「キャーーーーーー、ルキ様のエッチーーーーー」


 どうやら僕の顔に跨いでいるのは、アメリアさんだったみたい。

 そして僕のお腹から腰に移動した柔らかい身体の持ち主は、王女様のようで……。


 (ああぁ……もう駄目かも……)


 あまりの息苦しさに、僕の意識が遠のいていく。


 「しっかりしてください。アキラ君!!」


 それでも、美月さんの必死の呼びかけに意識が引き戻される。


 アメリアさんが僕の顔からどいてくれたから、ようやく美月さんの綺麗な顔を見る事が出来た。

 それにしても、僕のラッキースケベも大概にしてほしい。


 「あわわわぁ、ル、ルキ様……た、大変!今、槍を抜きますから、我慢してください!」

 「えっ、ちょっと……」


 顔を真っ赤にしたアメリアさんが、メスを持って立っている。

 動揺しすぎて、手が震えているよ……


 「アメリアちゃん。痛み止めは持ってないの?」

 「はっ……あります」


 マリア王女様の機転で、どうやら僕は激痛から逃れる事が出来そうです。


 「ルキ君。ちょっと目を閉じてね」

 「えっ、ちょっとま……」


 ムチュ


 何故か薬を口に含んだ王女様が、僕の唇を塞いできた。


 「あああぁぁ!!!ズルーーーーイ!!」


 アメリアさんが叫んでいるけれど、もう遅かった。


 どうやら王女様が口の中に含んだ水と一緒に、痛み止めを飲ませてくれているみたい。

 多分、普通に口の中に入れてくれれば、飲めると思うのだけれどね……


 これってもしかして、王女様とする初めてのキスなのかもしれない……

 しかも美月さんの前なのに~~ひぃえ~~僕、どうしよう……


 「早く槍を抜いてください」


 あっ、やっぱり美月さんが怒っているよ……


 そしてどうやったのかは分からないけれど、痛みを感じなくなった僕の太ももから槍が取り除かれた。

 メスを使って、何を切ったのかな???


 「主よ、憐れみたまえ…………ヒール」


 <神聖魔法セイクリッド・マジック回復ヒールを取得しました>


 僕の身体が温かい光に包まれる中、見る見る内にHPゲージが増えて行く。


 自分で治療を受けてみて分かったのだけれど、本当に奇跡の技だった。

 大量の血は出たままだけれど、破れたズボンから見える太ももが、ツルツルに治っている。


 「凄い……本当に治るんだね……」

 「よかった……アメリアさんが居てくれて……」

 「私、こういうのは得意なのよ……」


 美月さんの言葉に、照れ臭そうにアメリアさんが胸を張っている。

 ちょっぴり膨らんだ胸がプルンって。


 「お~~い。大丈夫ですか~~?」

 「ルキお兄ちゃ~~ん。生きてましゅか~~?」


 ガラ……


 「うん。今、治った……て、えっーー、またーーー!?」


 <スキル、危険感知デンジャー・ディテクションを取得しました>


 ガラガラガラ


 「えい」

 「キャーーーー」


 天井が大崩壊を起こして、また二人の少女が降って来た。

 なぜか、メルさんは自分から飛び降りた様にも見えたけれど、流石にそんなことは無いよね?


 そして横になっている僕の上に、当たり前のように二人が着地する。


 ドスン

 ムギュ


 「ぐぇ~……」


 なぜ同じところに……


 「きゃーーーお嫁さんいいけないでしゅーーー」


 どうやら、僕の顔に乗ったのはメーテちゃんだったみたい。

 婚約していないメルさんじゃなくて良かったとも思うけれど、何故かメルさんがアソコの上に跨っていて……


 ((イヤ~ン!))


 そういうことで、6人全員が仲良く落とし穴に落ちてしまった。


 天井が崩壊したことで分ったのだけれど。

 ここは半径8mぐらいの円形をしている大きな穴の中だった。

 しかも、壁の高さが5mはある。


 「これを登るのは難しそうね」


 王女様の言う通り、魔法で開けた大穴なのか、壁の部分に手掛かりとなりそうな出っ張りがない。


 「そうだ。僕がやってみます」


 僕には万能魔法の創造魔法クリエーション・マジックがある!

 頭の中にイメージを作って、そして魔法を発動する。


 (創造魔法 長いはしご!)


 ポン


 白い煙の中から木製の梯子が出て来た。

 ただ長さが……


 「ルキ様……それでは到底足りませんわ……」

 「う、うん。そうだね……」


 それは長さが1mにも満たない、2段分しかない梯子だった。

 しかも僕のMPゲージが、残り1となっている。


 槍で負った精神的ダメージと重なって、あっという間に暗闇に呑み込まれそうになる。


 『頑張って。寝ちゃ駄目』


 傍に落ちているリュックから声が聞こえた。


 (あっ、カーバンクル君)


 ここで寝てしまっては、カッコ悪すぎる!

 それに……


 「ガルウゥゥーーーー」


 覚えたての危険感知が働いていた。

 頭の中で、赤い光がチカチカと光っていたんだ。


 「うん、まずいかも……」

 「キャーーー狼よ…………」

 「しっ、大きな声を出さないで」


 叫び声を上げたアメリアさんの口を、メルさんが素早く押さえている。

 しかも落とし穴の淵に現れたのは大きな体をした狼で、一匹では無かった。


 黒い体をした狼が10匹、いや、20匹はいそうだ。

 涎を垂らして、こっちを見ている。


 僕たちは狼の群れに、完全に囲まれてしまっている。

 しかも逃げ道がない!


 (どうしよう。こんな時にMPがないなんて……)


 僕の最大の攻撃は、魔法だった。

 しかしそれもMPがあってのこと。


 「メーテちゃん。シールドは使える?」

 「はい。王女様」


 マリア王女様が何かを思いついたみたい。


 「いいわ。みんな、ルキ君に抱き付くのよ!」

 「えっ、ええええ!!!ちょっと~……」


 (なんでそうなるの~~)


 王女様の号令で、みんなが一斉に僕に抱き付いてきた。

 あっちも、こっちからも柔らかい胸が……


 ムギューーーーー


 「シールド!」

 「グオォーーーー!!!」


 メーテちゃんが素早くシールドの魔法を唱えるのと、大きな狼の群れが飛び掛かてくるのは同時だった。

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