026.お外でシャワー?!

 イーリス様が僕に特殊効果オプションを掛けた後、不吉な予言を残して姿を隠してしまった。

 おかげで日焼けもしないし、目が良く見えるのだけれど、少し不安。


 「ルキ君?どうしたの?」


 世界に時間が戻り、美月さんが僕に話しかけて来た。


 「えっ、あ、ううん。ちょっと綺麗な妖精さんが見えたから。それよりもセレネさん。シャワーを浴びてみませんか?」


 「えっ、でもここでは……」

 「大丈夫。ちょっとついてきて」


 僕は川沿いにある大きな岩の裏側に、セレネさんを連れて来た。

 そこで目を閉じて、イメージをする。


 間違っても、女神様がローブを抜いていたところを想像してはいけない……

 邪念を振り払ってから、呪文を心の中で唱える。


 (創造魔法クリエーション・マジック シャワールーム!)


 僕が命名した魔法が発動した。


 「凄い……ルキ君が造ったのですか?」


 突如、目の前に暗幕に囲まれた小さな空間が出現した。

 丁度、試着室ぐらいの大きさ。


 しかもその上には、小さな雲が浮かんでいる。


 「うん。中に入って、邪口を捻る動作をすればお湯が出てくるはずだから。じゃ~僕は岩の向うで見張っているね」


 万が一、途中で魔法が消えてもいいようにと、大きな岩と川に挟まれた空間に作ってみた。


 お湯が出るかちっぴり心配だけれど、女神さまの真似をしたから、きっと多分大丈夫。

 それに体育館で映画を見た時に、先生が閉めていた黒いカーテンで囲ったから、光で中が透けてしまう事もないはず。


 シャーーーー


 しばらくすると、岩の裏側からシャワーの音が聞こえて来た。

 どうやら、成功したみたい。


 (ふ~~よかった……)


 あと魔操法も成功したみたいだ。

 今回は右手に移した精神力だけを使っているから、精神力のゲージが減っていない。


 (あっ、今度はシャンプーも作ってみようかな~)


 そして彼女を待っている間に、女神様から貰ったエールの効果が消えてしまった。


 と言っても、元からあった分のMPは使ってないから、MPゲージは満タンのままだけどね。

 しかも手に移しておいた分も、少しだけれど残っている。


 この辺はイージーモードだから助かる。


 そしてもう一度、MPを10%だけ右手に移動する。

 こうすることで精神力が鍛えられるんだって。


 <精神力が1上がりました>


 言ってるそばから、ステータスが上がった。

 どうやらやり方は間違っていなかったみたいだ。


 それに、エールの効果で増えたMPを使っても、精神力がUPするみたいだし、何かとお得かもしれない。

 どうせなら体力も同じ方法で増やせないかな~


 「お待たせ……ありがとうございます。こっちの世界に来てかから、初めてシャワーを浴びる事が出来ました」


 少し恥ずかしそうにした美月さん、いや、セレーネーさんがお辞儀をしている。

 ドライヤーが無いから、髪の毛は濡れたままだけれど……


 あっ、バスタオルが無かったね……

 彼女は手拭いを使って、長い髪を乾かしている。


 「うん。よかった。まだあるかな?」


 僕が大きな岩を回り込んだところで、黒いカーテンが光の粒となって消えてしまった。

 だいたい15分から20分ぐらいしか持たないみたい。


 (残念……)


 僕も浴びたかったのだけれど、まぁ、男の子だからいいよね。

 という事で、僕は川の水で顔を洗った。


 「ひゃぁ~~冷たい……」


 澄んだ川の水は、とっても冷たかった。

 もしかして雪解け水とかかな?


 でも、良い事をした後だから、とっても気持がちいい。


 「ふふふ、ルキ君たら……」


 今度はセレーネーさんから手を繋いでくれた。

 ちょっとドキドキする。


 そんな時、僕の心を読んだのか、少し強い風が後ろから通り抜けて行った。

 濡れた黒髪と、質素なローブの裾が風にはためく……


 みんなの所に戻ると騒動が起こっていた。


 「あちゃ~~これは食べれないわね……」

 「き、貴重な食料が……」

 「し、仕方がないじゃない……御粥しか作ったことがないのよ……」


 メルさんとサクラ師匠が、大きな鍋の中を覗き込んでいる。

 どうやらアメリアさんが失敗したみたい。


 診療所で僕を看病してくれた時に、料理を運んでくれたのがアメリアさんだったから。

 僕は、てっきり料理も作ってるものアメリアさんだと思っていたけれど、どうやら違ったみたい。


 あれ?ということはあの美味しい料理は、ドルトン先生が作ってくれたのかな?

 ん~~、本当に謎が多い人だ。


 因みにお鍋の中は、ぐつぐつと煮立ったお湯の中に、柔らかくなったお米?とお肉と野菜が浮かんでいるだけだった。

 この世界のお米は、やたらと粒が大きいんだよね。

 茶色い線が入っているし…//・


 どうやらアメリアさんは、御粥と同じようにタップリとした水の中に、お野菜とお肉をただ入れたみたい。

 火は通っているから、言うほど食べられないわけではないけれど、調味料が何も入ってないから、確かに美味しくなさそう。


 「カレーのルーでも有ればいいのですが……」

 「それだよ!美月さん!」


 お米が混ざっているのは気になるけれど、調味料が少ない今なら役に立つかも。


 今回はよ~~くっ、イメージしてから魔法を発動した。

 そうすれば長持ちするかな~~と思って。


 (創造魔法 リンゴと蜂蜜のカレーのルー!(甘口))


 うわぁ、残りのMPが10%になっちゃったよ……

 ストック分もあったはずなのに……


 僕の手の上には、黄色パッケージの箱が乗っている。

 大きさは通常サイズの2倍にしてみた。


 15分後には、消えてしまうかもしれないけれど……


 「アキラ君それは……」

 「うん。たまにはいいよね?」


 そして僕が出したカレーのルーを使って、美月さんがカレーを作ってくれた。

 ちょっとルーが足りなかったけれど、香りは最高だった。


 あとルーが大きすぎて、溶かすのが大変だったみたい。


 ご飯も入っちゃっているから、スープカレーみたいになっているけれどね。


 「まぁ~美味しそうな匂い……ルキ君。凄いじゃない~~」


 少し離れたところで髪を梳かしていたマリア王女様が、鼻をヒクヒクさせながらやって来た。


 「確かにこれは美味しそうです……でもこの色は……。異国の料理でしょうか?ゴクリ」

 「わ、私の下ごしらえのおかげよね?」


 セレーネーさんこと美月さんがかき混ぜているお鍋を、覗き込んでいる二人もカレーのいい匂いに、涎を我慢しているみたい。

 という事で、色々な野菜とお肉がとお米が入ったスープカレーの完成~~。


 「いただきま~す」


 みんなの視線を受けて、僕が最初に一口食べてみた。

 やっぱり水っぽいけれど、お母さまが作ってくれたカレーの味がする。

 本当に創造魔法は万能だった。


 僕は感想を伝えるのも忘れて、苦手だった野菜もモリモリと食べた。


 本当にカレーは凄いと思うんだよね。

 どんな野菜を入れても美味しくなるのだから。


 「あぁ~~口の中に広がる不思議な香りが病みつきになるわ~~」

 「た、確かに口の中がヒリヒリとするが、これは美味い!」

 「こ、これはお店を出せば間違いなく儲かりますよ~~」

 「本当に……本当に美味しわ。さすがルキ様。それにセレネさんも案外やるわね……」


 こっちの世界でも、カレーは大好評だった。


 「ひぃや~~~辛いでシュ~……」


 お子様なメーテスちゃんには、甘口でもまだ早かったみたい。


 「あっ、牛乳を入れれば大丈夫ですよ」


 と言事で、美月さんの機転で無事に全員が朝ご飯を食べる事が出来たのだった。


 因みにミルクは村人が差し入れてくれた、牛豚から取れた物。


 牛みたいに角を生やしているのに、豚みたいに柔らかそうなお肉を付けている動物。

 ミルクだけじゃなくて、きっとお肉も美味しいんだと思う。


 (あっ、もしかしてこれが牛豚のお肉?)


 丁度今、奥歯で噛んでいる角切りのお肉は、柔らかいのに油が乗っていて濃厚な味がする。


 「ふ~ご馳走様。美味しかったです。美月さん、じゃなくてセレネさん」

 「はい。私も久しぶりにカレーを……」


 あっ、美月さんが泣き出してしまった。


 (そうだよね……)


 2年以上もこちらの世界で暮らしていたのだもの。

 この世界の料理は、美味しい物も沢山あるけれど、やっぱり生まれ育た国の料理が一番だよね。


 「あら?セレネちゃん。大丈夫?辛かったらお姉さんに甘えても良いのよ」

 「はい。色々と思い出してしまって……」


 マリア王女が美月さんを抱きしめてくれた。

 こういう時に、気の利いた言葉が出ないところが、僕はまだまだなのだと思う、今日この頃です。

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