027.良い事の後には?!

 無事に朝食を終えた僕たちは、村の傍にある森にやって来た。

 今朝、顔を洗った小川を超えたところにある。



 今は占い師さんとサクラ師匠が居ないから、6人で来ている。


 占い師さんこと女神様は、川で別れてから見かけていない。

 もしかしたら、どこかで美味しいスイーツでも食べているのかも。


 それと一番強い師匠は、倒壊した家屋の撤去に駆り出されている。

 何だかんだと、村人に頼りにされているみたい。


 そして残りのメンバーで、狩りをするために森までやって来たのだった。


 昨夜は、お祭りみたいに盛大な宴会を開いたというのに、この村は食糧難に陥っている。

 特に家畜の被害は甚大で、オークに食べられたか、柵を壊されてそのまま逃げてしまったらしい。


 ということで、僕たちは村の人から教わった、比較的安全な狩場へとやって来た。


 「この辺は危険な魔物が出ないらしいから、二人一組になって別れましょう」


 マリア王女の指示で、くじ引きによるチーム分けが行われる。


 「あ~~なんで、またルキ様とセレネが一緒なのよ~~」


 何と幸運な事に、僕はセレーネーさんと一緒になる事が出来た。


 (うん、今日は良い日なのかもしれない)


 これもラッキースケベのおかげかな?


 「まぁ、残念。私はアメリアちゃんとか~~」


 という事で、マリア王女はアメリアさんと。

 残りのメーティスちゃんと、メルさんがペアとなった。


 本当にこのメンバーで大丈夫なのかな~?


 僕は鎧を着ていないけれど、一応ロングソードを持っている。

 それにセレーネーさんはプリーストだから、回復魔法が使える。

 自分で言うのも恥ずかしいけれど、中々いいコンビだと思う。


 マリア王女様は応援は出来るけれど、戦えるかは知らない。

 調合師のアメリアさんは、何故か投擲が使えるから一応は戦える。


 メーティスちゃんは、僕よりも魔法が上手で。

 冒険者ギルドの受付をしているメルさんは、ん~~どうなのだろう?

 彼女は鑑定阻害のアイテムを首から下げているから、ステータスが不明なんだよね。


 取り敢えず、各チームごとに戦える人が居るのは確かみたい。


 そしてそれぞれのチームに分かれて狩りが始まった。


 あまり離れると危ないということで、だいたい50mぐらい離れてから、森の奥に向かって歩く。

 回復魔法が使える美月さんが居る僕たちのチームが真ん中だ。


 「ルキ君。よろしくお願いします」

 「僕の方こそ……セレネさん、よろしくお願いします」


 改めて美月さんに頭を下げられると、なんだか緊張する。

 彼女は教会で沐浴をしているときに、ここにテレポートさせられてしまったから。

 今は武器と言える物を持っていない。


 そして僕もまだ、近接戦をスライムとしかしたことが無い!

 しかもダメージを与えられなかったし……


 レベルだけは上がったから、戦えると思うのだけれど、本当のところはどうなのだろう??


 あまりにも怖すぎるので、僕は鞘から抜いたロングソードを手に持って歩いてる。

 何しろ僕が使えるのは大魔法だけだから、どれも詠唱時間が長すぎて、前衛が居ないと使い物にならないんだよね。


 後ろから聞こえて来る、枯れ葉を踏む足音も、心なしか不安そうだ。


 「あっ、そうだ。え~とセレネさんはこれを使ってください」


 僕は余っている短剣を美月さんに渡した。

 ドルトン先生から貰った、豪華な短剣だ。


 「ごめんなさい。プリーストは刃が付いている武器は使えないの……」


 つまり無職だった時の僕と同じように、彼女は剣を装備する事が出来ないらしい。

 という事で、前衛で戦えるのは僕だけという事が確定してしまった。


 (はぁ~、大丈夫かな……)


 この森は起伏が乏しくて、とても歩きやすいのだけれど、木々が生茂っていてあまり見通しが良くない。


 「あっ、何かいる……」


 僕の千里眼に不思議な生物が映った。

 身長は僕と同じぐらいか、少し大きいぐらいで、頭の部分が茶色で胴体が白っぽい。


 僕はあまり食べたことが無いけれど、キノコの王様、松茸にそっくりだ。


 人間大のマツタケが、何をするでも無しにクネクネと蠢いうごめいている。

 傘が小さいせいで、なんだかちょっと別の物を想像してしまう。


 巨大松茸の手前にある茂みの所で一旦止まる。

 しゃがんで隠れているから、自然と二人の距離が……


 (はぁう……近い……)


 魔物かもしれない生き物が傍に居るというのに、僕は顔を真っ赤にしている。

 だって彼女のキラキラとした大きな瞳が、10センチも無い所にあるんだよ?

 心臓がドキドキして止まらない。


 「無理をしないでね。ルキ君……」

 「う、うん。た、多分……、キノコだから大丈夫だと思います……。こ、ここに居てください」


 僕は何故か敬語を使うと、剣を持ったまま茂みを飛び越えた。


 「あっ、ちょっとま……」


 美月さんじゃなくて、セレーネーさんが止める声が聞こえた気がするけれど。

 レベルが上がった僕の身体はとても軽くて、素早かった。

 あっと言う間に松茸の目の前まで来る。


 ビック・ラフ・マッシュルーム LV3


 フルフルフル


 突然の事に驚いたマツタケが、ブルブルと震えている。

 もしかして怯えているのかな?


 (ごめんね。松茸君)


 傘の部分から黄色い粉が出て来たけれど、僕は気にせずに”古代の量産型ロングソード”で思いっきり切りつけた。


 グサッ


 包丁でキノコを切った時のような感触が伝わって来る。

 あっという間に松茸君のHPゲージが減りゼロに成った。


 「ふふふ……駄目よ。ルキ君……。それと戦っては……くぅ~……あ~~はぁっはっはっはっ~~」

 「えっ!ええええ!!!」


 セレーネさんがお腹を抱えて、苦しそうに大声で笑っている。

 涙を流しているのに、楽しそうに笑っている。


 <特殊効果オプション女神の美肌デア・ビューティフル・スキンの効果で、笑い粉のレジストに成功しました>


 (えっ、そういう事なの……)


 10分後、ようやくセレーネーさんの笑いが収まった。


 「ごめんなさい。セレーネーさん……」

 「もう、もう大丈夫ですから…………はぁ、はぁ、笑いすぎて明日は筋肉痛になりそうです……」


 因みに巨大キノコを倒した後には、パチンコ玉ぐらいの魔石と、沢山のマツタケが落ちていた。


 「ところでこのキノコは食べられるのですか?」

 「はぁ、はぁ、はい。とても美味しいですよ。それにしてもルキ君には笑い粉が効かないんですね」


 「う、うん。女神様がくれた日焼け止めの効果が、防いでくれたみたいです」

 「そうなんですね。思わず駆け付けてしまいましたが、次からは遠くから見ていますね……」


 普通、巨大キノコを倒すときには、弓とかの遠距離攻撃を使って安全に倒すらしい。

 でも今は弓も無いし、僕の魔法じゃオーバーキルして、跡形も無く吹き飛んでしまう可能性が高かった。


 ここは巨大キノコの生息域らしく、次々と姿を現した。

 勿論、計画通りに僕一人で切り倒して行く。

 ちょっとはカッコいい所を、彼女に見せる事が出来たかも知れない。


 そして巨大キノコの群れを倒したところで、事件が起きた。


 「わぁ~~~」

 「きゃーーーーー」


 セレーネさんと仲良く大量の松茸を拾っている時に、足元の地面に穴が開いてしまったのだ。


 もしかしてまた転移するのかな~~と思ったけれど、今度はただの大きな穴だった。

 地下に空間が広がっている。


 (美月さんを助けないと!)


 僕たちが落ちて出来た穴から差し込む光を頼りに、僕は空中で美月さんの手を掴んで必死に抱き寄せた。

 そして僕が下になって、そのまま落下する。


 ドサッ

 グサッ


 背中に強い衝撃が来たのと同時に、太ももに焼けるような激痛が走った。


 「ぐぁ!!!い、痛い…………だ、大丈夫?美月さん……」


 僕の上にはまだ美月さんが横たわっている。

 あまりの激痛に、新しい名前で呼ぶ余裕がない。


 どんどんと痛みが広がって行く。


 「うぅ……はぁっ…………」


 目を覚ました美月さんが、僕の脚を見て息を飲んでいる。


 「良かった。無事みたいで……」

 「は、はい。でもこれでは…………少し我慢してください」


 ビキビキビキーーーーー


 何を思ったのか、美月さんがローブの裾をナイフを使って切り裂いている。

 持ち上がった裾から、真っ白な太ももが……


 そして彼女は、帯状になった布で、僕の脚の付け根を縛り始めた。


 (えっ、もしかして……)


 僕は痛すぎる傷口から目をそらしていたのだかれど、恐る恐る自分の太ももを見てみた。

 な、な、なんと、槍が太ももを貫通していた。


 どうやら僕達が落ちた大きな穴は、巨大な生物を狩るための落とし穴だったみたい。


 天井に開いた穴から差し込む光に照らされて、何本もの槍が地面に埋まっているのが見える。

 僕は運悪くその一本に当たってしまったみたい。


 というか、これが胸に刺さっていたら、死んでいたよね?


 HPゲージが1/3ぐらい減っていて、今も出血のせいかジワジワと減り続けている。


 ギュ


 「うぁ!……痛い……」

 「ごめんなさい。でも、こうしないと出血多量で死んでしまいますから……」


 流石に彼女は、司祭プリーストだった。


 「ありがとう。美月さん……でも回復魔法は使えないのですか?」

 「ええ、このままヒールを使うと、槍が抜けなくなってしまうので……」


 回復魔法は万能では無かった。

 槍が残ったまま傷口を塞いでしまうと、傷口と槍が癒着してしまい、さらに抜けにくくなってしまうと言うのだ。


 槍の柄の部分は木製なのだけれど、地面に深くまで埋まっていて、このままでは抜けそうにもなかった。

 しかも槍の穂先には返しまでが付いている……


 辺りを見渡しても、地下室のように空間が広がっているだけで、階段どころか出口は無い。

 それに天井まではかなりの距離があるし、とてもではないけれど登る事は出来そうもなかった。


 (もしかして女神様が言っていた”危険な目”って、これの事なの!?)

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