025.朝からシャワー??

 「フッフン♪フ~フ~~ン♪はぁ~~やっぱり二日酔いには、シャワーよね~~♪あとは、しじみ汁があればな~~~」


 あの聞きなれた綺麗な声がする方を、僕が見てみると……


 灰色の世界の中で、キラキラと輝く髪をした女性が、黒色をした丈の長いローブを脱いでいるところだった。

 そして彼女の頭上に小さな虹と雲が現れ、


 シャーーーーーー


 <創造魔法クリエーション・マジックを習得しました>


 「えっええええ!!!クリエーション・マジック???」


 そう、また女神イーリスが小川の上でシャワーを浴びているのだけれど。

 それを偶然見てしまった僕は、どうやら神様が使う魔法を覚えてしまったらしい。


 でも人間が神様の魔法を覚えていいのかな?


 「キャッ、またルキ君ね~~、もう本当にラッキースケベなんだから~~、エッチ♪もう仕方がないから一緒に浴びる?」

 「えっーーー!いえいえ。僕にはそんな……無理ですから……」


 僕は急いで後ろを向くと、彫像みたいに固まっているセレーネーさんと目が合った。

 普段は恥ずかしくてあまり顔を見たことが無かったけれど、こうしてみると女神様に負けないくらい綺麗な顔をしている。


 という事で、心を落ち着ける。


 (ポーカー・フェイス、ポーカー・フェイス……)


 「も~初心なんだから~~。あっ、そう言えば創造魔法も覚えちゃったみたいね?」

 「は、はい……魔法を見ると直ぐ覚えてしまうので……。ところで人間が創造魔法を使ってもいいのでしょうか?」


 「ん~~人間が使ったって聞いたことないけど、大丈夫じゃないかな~♪ほら、創造魔法って何でも出来るんだけど、オドだけを使うから、すんごーーーくMPを消費するのよ~」

 「はぁ~オドですか……」


 コホン

 女神イーリスの説明ではいい加減すぎて、分からないであろうから、代わりに私が説明しよう!


 (だから、貴方は誰?)


 人間が使う神秘魔法ルーン・マジックは、体内に流れる魔法力オドを使って魔法陣を描き、大気中などに散らばっている魔素マナをコントロールして、大規模な現象を発現させるものである。

 その為豊富な知識を頭に詰め込み、詠唱や魔法陣の描画を習得する事が必要。


 一方の創造魔法クリエーション・マジックは、体内に流れる魔法力オドを放出し、イメージした現象をダイレクトに発現させるものなのだ。


 その為、魔法力オドの消費量は、神秘魔法ルーン・マジくの比ではない。

 その代わりに、イメージしたままを具現化することが可能となる。


 しかも、しかもーーー!!神秘魔法ルーン・マジックのように魔法陣や詠唱を覚える必要がいっさいない。

 もちろん、詠唱時間キャスト・タイムも存在しない。


 更に極めることが出来れば、大地どころか世界をも創造する事が可能となる。

 無尽蔵に魔法力オドを持っている神ならではの魔法と言えよう。


 因みに魔法力オドの量はMPマジック・ポイントによって表される。

 つまり、人間であるルキフェルが覚えたとしても、MP以上の事は出来ないというわけだ。


 さらに補足すると、神と一緒に暮らしていた太古の人間族は、創造魔法を使っていたのだが。

 余りにも効果が小さいために、試行錯誤の上に神秘魔法ルーン・マジックを編み出したのだった。

 神秘魔法ルーン・マジックは、主神オーディンが人間に授けたとも言われているが、真偽のほどは定かでなはない。


 (ふ~ん。そういう事なんだ~。今回は詳しいね)


 「では、あまり意味が無いってことですね」

 「ふふ~ん。それがそうでもないんだな~」


 「えっ、本当ですか!?」

 「そうなのよ。お勧めがあるのよね~~。でも、どうしようかな~、私と婚約して……」


 <必殺技を習得しますか?>

 「あっ、こら、私の出番を奪わないの!」

 「そういえば、必殺技を覚える事が出来るのでしたね……忘れてました。テヘ」


 僕は小さく舌を出して、軽く頭を叩いた。


 「あ~~ん、ルキ君可愛いい~~♪」

 「必殺技と言えば、剣から火が出て一発で敵を倒せるようなやつですか?」

 <魔法剣ですね。魔法戦士が覚える一般的な必殺技です>


 「あらら、一般的って言われると、ちょっと寂しいかも」

 <魔操法マジック・メソッドはいかがですか?>

 「あーー私が言おうとしてたのに……も~~」


 説明しよう!

 魔操法とは魔法力オドをコントロールするためのスキルである。


 ただし魔操法の習得には段階を踏むことが必要だ。

 第一段階目は、体内に流れる魔法力オドを制御することから始まる。

 体内を循環している魔法力オドを手足頭などに蓄えるのだ。

 それにより内在する魔力を一時的にだが、飛躍的に増大させることが可能となる。


 そして魔法力オドは使えば使うほど、精神力が鍛えられて最大MPも増えていく。

 しかも精神力は魔法の威力にも直結する。


 MPは1時間に10%づつ回復するので、常にMPが90%になる様に蓄えるのが、最も効率が良いとされる。

 そうすることで魔操法の上達にも繋がるのだ。


 「なるほどですね。それでは面白そうなので魔操法を覚えて見ます」

 <必殺技、魔操法1段を取得しました>

 「あら、1段とかけち臭いわね~」


 「まぁまぁ、女神様。僕は努力して強くなりたいと思っていたので、丁度いいです」

 「ふふふ、ルキ君のそういう真面目な所がいいのよね~~。何かプレゼントしたくなっちゃう~~」


 「あっ、そうだ早速、創造魔法を使ってみますね」

 「頑張ってね~ルキ君~~」


 <女神の応援デア・エールの効果が発動しました>


 うん、これなら出来るかもしれない。

 僕は女神様がシャワーを浴びている所を頭の中に思い浮かべて……


 いや、裸の女の人は思い浮かべていないよ?!本当だからね!


 そこを霧で塗りつぶしてみる。


 「うわっ、ルキ君……なかなかやるわね……」


 どうやら成功したみたい。

 ゆっくりと振り向くと、真っ白な霧で女神さまの裸が見えなくなっていた。


 「はぁ~成功してよかった」


 女神さまの応援の効果で、精神力が増えているから、思ったよりもMPが減っていない。

 それでも1/5ぐらいMPのバーが減っているけれどね。


 時間が止まっているはずなのに、森の向うから太陽が顔を出す。

 立ち込める霧を透過した陽光が、その美しいシルエットを浮かび上がらせ。


 シャーーーーー


 「ルン♪ルルン♪ルル~~ン♪」

 「あっ…………」


 うん、ちょっと失敗だったみたい。

 というか、僕のラッキースケベってどんだけ強力なのさ!

 だって、時間が止まっているのに太陽が動き出すんだよ?!


 でも、ここは言わないでおいてあげよう。

 僕はデリカシー?のある男にならないといけないからね。


 という事で、もう一度後ろを向いた。


 (あっ、美月さんもシャワーを浴びたいかな?)


 彼女は氷の彫像みたいに固まっているのだけれど、髪が寝ぐせで盛り上がっている。


 早速、僕は魔操法を使い、応援によって水増しされた分のMPを、急いで右手に移動すことにした。

 ズルかも知れないけれど、応援の効果が切れると創造魔法を使うだけのMPを確保できないかもしれないからね。


 節約?とも違うけれど、小さなことからコツコツとです。


 僕の体の中にあるオドは、胸のところで白い渦巻きを作って溜まっている。

 そこから細い線を伸ばして、手とか足にオドを運んで行くイメージ。

 まるで血管みたい。


 その渦巻からオドの塊を取って、細い糸にそって右手へと移動させる。

 なんとか移動は出来るけれど気を緩めると、すぐに戻ってしまう。


 (ん~~意外と難しいや……でも楽しいかも)


 諦めずにもう一度チャレンジする。


 今度は手の所まで来た白い塊を手で掴んでみた。

 まぁ、あくまでもイメージなのだけれど、何とか塊が止まってくれた。


 (よし出来た。あっ、MPゲージが減っているよ)


 どうやら上手く行ったみたい。

 同じ要領でエールの効果で増えた分だけ、右手に移動していった。


 「はぁ~さっぱりした。あら、ルキ君。どうしたの後ろを向いて」

 「あっ、いえ。やっぱり恥ずかしいので……」


 「ふふふ。本当に初心なんだから~。そうそう、一緒に旅をしてるけど、女神である私は、直接あなた達を助ける事が出来ないから注意してね」

 「そうなのですか……。少し残念です。あ~だから旅の占い師さんなのですね。確かに神様が人間界に干渉しすぎるのも、良くないかもしれないですね……」


 「そういう事。あら、そろそろ特殊効果が消えそうね。ほら、こっちを向いて……」


 僕は言われるがまま振り向いた。


 「あっ……」


 イーリスさまは、白いドレスを着ていた。

 でも女神さまが下を向いてたせいもあって、胸元が大きく開いたドレスから、谷間が見えてしまっている。


 「ふふふ、何か期待してたのかな~?でも、ちょとだけご褒美よ。それじゃ~手を出してね」


 そしてまた女神さまが、僕の手を舐めてから、目に息を吹きかけてくれた。


 <特殊効果オプション女神の美肌デア・ビューティフル・スキンが付与されました>

 <特殊効果オプション女神の瞳デア・アイリスが付与されました>


 「あ、ありがとうございます……」

 「ふふふ、今日はちょっと危険な目に遭いそうだけれど、頑張ってね。私の英雄さん」


 「えっ、それは……」

 「ルキ君?どうしたの?」


 いつの間にか時間が動き出していた。

 世界に色が戻っている。


 しかも女神さまの姿は何処にも無かった。

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