024.朝からデート!?

 ルキフェルです。


 朝起きるとカーバンクルの卵が…………孵ってないかった。

 残念です。


 ルキフェルです……、ルキフェルです……、ルキフェ…………


 『す~~ぴぃ~~、す~~ぴぃ~~』


 それどころか、まだ眠っているみたい。


 もう朝日も昇っているし、青空が広がっていて、今日もいい天気だ。


 「ふぁ~~あっ、おはようございます。メルさん」

 「お、おはよう。ルキフェル君~~」


 「すみません。途中で起きて代わろうと思っていたのですけど……、起きれませんでした」

 「平気平気。良く寝れたかな?……ジュルジュル」


 本当にメルさんは慣れているみたいで、目がパッチリと……あれ?半分しか開いていなし涎が垂れている。

 うん、寝ぐせまで作って、ぐっすりと眠っていたのかもしれない……


 「はい。この卵。とっても温かくて……あっ、このままだと働けないかも……」


 今日の僕は、瓦礫の撤去を手伝うつもりでいる。

 LVが上がったから、きっと少しは役に立つと思うんだよね。


 「あ~ちょっと待っててね。え~っと、あ、これこれ。はい、あげる」

 「ありがとうございます!」


 メルさんが麻で出来たナップザックをくれた。

 これなら卵を毛布に包んで入れておける。


 「ふっふっ、ふふふん~。名前を何にしようかな~♪」

 「おはようございます。アキ……じゃなかった。え~とルキフ……君」


 僕がカーバンクルの卵を毛布で包んでいると、美月さんが起きて来た。

 長い髪の毛が、絡まっている彼女の姿を見て、ちょっぴりだけれど、ドキっとする。

 少しローブがズレていて、白い肩が見えているし……


 「お、おはよう。美月さんじゃなくて、セレーネーさん。そんなに僕の名前って言いにくいですか?」

 「ううん、違うの……実はルキフェルって……英語読みするとルシファーなんです……」


 「へ~~あ~~、あの、堕天使ルシファーなんですね~~。恰好いいですよね~」


 僕がやっていたゲームにも出て来た、強くてカッコいいキャラクターと同じ名前だ。

 レア過ぎてガチャから出て来なかったけれど……


 「……あの~怒らないで聞いてくださいね……。キリスト教だとルシファーは……サタンって呼ばれていて……」

 「そんな!まさかルキ殿が、あの悪の大魔王であるはずがない!!」


 どこかで顔を洗って来たらしい師匠が、血相を変えて飛んで来た。

 何時もの事だけれど、師匠の耳はとても良いみたい。

 今にも剣を抜きそうで、ちょっと怖いけれど。


 それでも、僕はサタンと言われてもピンと来なかった。

 確かに大魔王サタンって言う悪者の名前をよく聞くことが有る。

 でも何をしたのか知らないし、そもそも物語の中での話しだよね?


 もっと良く知らないけれど、堕天使だって元々は天使だったわけで。

 落ちるにしても、理由が有ったのだと思うんだよね~。

 どっちも天使なんだから。


 でも、師匠の反応をからすると、この世界には本物のサタンがいるみたい。

 しかもかなりヤバイ奴らしい……。


 ”世界をこの手で滅ぼしてやる~~!!”とか言うのかな~?


 「そうなんだ。分った。もしも僕が悪い事をしたら、セレーネーさんが怒ってよ」

 「ううん……。アキラ君が良い子だって知ってるのに、私ったら…………私もルキ君と呼んでもいいですか?」


 「もちろん!じゃ~僕もセレネさんって呼ぼうかな~?」

 「うん。いいよ。よろしくね、ルキ君」


 僕は美月さんと握手した。

 今日も一杯良い事がありそうだ。


 「あらあら、随分と朝から見せつけてくれるわね……。それなら、私のことはアリアでいいですわよ。ルキ様♪」


 今度は、顔だけでなく、髪の毛も洗ったアメリアさんがやって来た。

 濡れた赤い髪が朝日を浴びてキラキラと輝いている。

 しかもスカートが腰のところで結ばれていて、細い足の付け根が……


 目のやりどころに困る。


 「え~っとアリアさん……おはよう」


 アメリアさんの方が言いやすいのだけれどな~~……。

 というかマリアさんと紛らわしいよね?


 何気なくアメリアさんに戻そ~っと。

 あっ、他に良いニックネームが思いつくと良いかも~。


 そうだ、僕も顔を洗ってこよっと。


 「皆さん。どこで顔を洗って来たのですか?」

 「あっ、私も洗いたいです……」


 美月さんも、絡まった髪の毛が気になるみたい。

 女の子だものね。


 「村はずれに小川が流れているから、そこで洗うといい。井戸は行列が出来ていたからな」

 「ありがとうございます、師匠。セレネさん、一緒に行こう」

 「はい!」


 僕はさりげなく美月さんの手を掴んで、歩き出した。

 胸がドキドキしているけれど、顔に出さないようにして。


 <技能スキル真顔ポーカー・フェイスを取得しました>


 あっ、またしても覚えてしまった……

 しかもポーカー・フェイスって……


 (何に使うのだろう?)


 「まったくルキ様ったら……セレネばかり……」


 ほっぺたを膨らませたアメリアさんも可愛いけれど。


 僕は憧れの人と、朝から二人っきりになれる事を喜んでいる。

 だって、2年以上も探していたのに、会えなかったんだよ?


 見ているだけで、幸せな気分になれる人に……


 「ふふふ、青春よね~~。私も早く連れ去って欲しいわ~~」


 どうやら、マリア王女も起きていたみたい。

 ぬいぐるみを抱きしめて身悶えている。


 あとサクラ師匠は……、あまり気にしていないみたい。

 剣を鞘から抜いて、陽光に煌めく刃を眺めている。


 あっ、もしかしたら僕と早く修行をしたいのかもしれない……


 という事で、僕は彼女との二人っきりの時間を楽しむことにした。


 改めて見ると、壊れてしまった民家が多くあるのだけれど。

 すれ違う人が明るく挨拶してくれて、僕に元気をくれる。


 「すっかり人気者ですね。ルキ君」

 「う、うん。なんだか恥ずかしいけれどね……」


 そして横を歩く少女の笑顔が、僕に勇気をくれる。


 そのまま朝の散歩をゆっくりと楽しもうとしたのだけれど……


 村はずれにある小川が直ぐに見つかってしまった。

 草原の中をカーブしながら流れている。


 何となくだけれど、僕には水の匂いと言うか、冷たい流れを感じる事が出来る?ようになっていたみたい。


 それにまた声が、聞こえて来た。


 『くすくすくす、綺麗な女の子だ~~』

 『こっちの子も可愛いわよ~~』


 『本当~、こっちの女の子も可愛いね~~』

 『私と契約してくれないかな~~』


 (いや、僕は女の子では……)

 

 それに契約とか言っているけれど、婚約とは違うよね?


 姿は見えないけれど、透き通った小川の中には、水の精霊が居るみたい。

 人間とはまるで違う、水のように透き通った声が聞こえて来る。


 「ここみたいだね、セレネさん。水がとっても綺麗だよ~」

 「…………」


 (あれ?)


 美月さん、じゃなくてセレネさんから返事がない。

 それどころか、僕が握っている彼女の手が動かなくなっていた。


 細くって柔らかかった手が、氷の彫像みたいに固まている……

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