022.ルキ 卵を産む!?
僕たちがみんなの所に戻ると、王女様と謎の占い師、そして師匠までが酔い潰れていた。
王女様のスカートがめくれて柔らかそうな太ももが見えているし、占い師さんの胸元から……ポロリと…………
(いやいや、そこは見てはいけない)
そう、僕は忍耐のスキルを持っているはず……
あと、一番年下のメーティスちゃんも眠っている。
小動物みたいに二人の間で丸くなっていて、とても可愛らしい。
両足を抱えているから、チラっと白い物が見えているけど気にしない。
「おや?ルキフェル君って積極的なのね~。私もデートに誘ってくれないかな~~」
焚火を燃やしているメルさんが、ニヤニヤとして僕達を見ている。
そう、僕の隣には憧れの人が立っている。
「も~~、お知り合いみたいですから、今日だけは許しますけど……。これからは二人っきりにしませんからね!」
あ~アメリアさんが、また怒っているよ……
「そ、そうなんだよね。実は彼女も……」
(あれ?言ってもいいのかな?)
困った僕は美月さんを見た。
もしも、現実世界から転移してきた事を秘密にしているのだったら、言わない方がいいと思って。
「大丈夫ですよ。私も異世界人です。アキラ……、いえ、ルキフェ……君とは、同じ学校に通っていたんです」
「じゃ、じゃ~恋人じゃ無いのよね?」
「はい。お友達です。い…………」
「ふふ、ならいいわ。ルキ様は私の横で寝てくださいね。こ、こ、婚約者なのですから……」
ん?美月さんが何か言ったみたいだけれど、声が小さくて聞こえなかったよ。
でも、そうだよね。
たまたま同じクラスに居ただけで、殆ど話したことが無いわけだし……
「では、みなさん。おやすみなさい。あ、私のことはセレネと呼んでもらえると嬉しいです」
そう、彼女のこの世界での名前は、セレーネーだった。
どいう意味を持つ言葉なのか知らないけれど、とても綺麗な名前だと思う。
アメリアさんだけでなく、美月さんも用意されていた毛布にくるまると、当たりまえのように地面で眠ってしまった。
本当に彼女はこの世界で、独りぼっちで生きて来たのだな~~と思った。
「ルキフェル君も疲れたでしょ?見張りは私がするから、ゆっくりと眠ってね」
メルさんに言われて気が付いたのだけれど、ここは村の中とはいえ安全なわけではなかった。
今、僕たちが寝ているのは、広場の中心だ。
他にも家が壊れてしまった人達が、家族や知り合いと集まって、焚火を囲むようにして眠っている。
いつまた魔物に襲われるかも分からないし、泥棒が居ないとも限らない。
「えっ、でもメルさんだって疲れていますよね?ギルドの仕事だけでなく馬車も操縦していましたし。交代しましょうか?」
「あ~~大丈夫、大丈夫。私こういうのには慣れてるから。新米君は眠ってくれたまえ!」
何故か胸を叩いているけれど、本当に大丈夫なのかな?
僕と歳が同じぐらいに見えるけれど……
<鑑定に失敗しました>
「えっ?」
「あ~~、ルキフェル君。もしかして私の事、鑑定しようとしたでしょ?」
「いえ、別に意識したわけじゃなくてですね、自然と~あの~~……ごめんなさい……」
そう、僕は意識して鑑定したわけではなくて、無意識のうちに鑑定が働いてしまったのだ。
それでも鑑定してしまった事には変わりがないので、僕は素直に謝った。
自動って便利だけれど、こういう時には不便だよね。
「も~~エッチなんだから~~」
「えっ、ええーーーー!!」
なんでステータスを見る事がエッチな事になるのーーー。
「あはは、冗談よ。でも正直で宜しい~。実はね~、鑑定阻害のアイテムが有るのよ」
メルさんが胸元から、ネックレスを取り出した。
小さな黒い宝石が付いている。
「そ、そうなのですね。でもなぜそのような物を?」
きっとそれは魔法のアイテムなのだと思う。
何故、高価な物をわざわざ身に着けているのか、僕は不思議に思ったんだ。
ステータスを見られることが恥ずかしいのかもしれないけれど、大金を払うまででは無い気がする。
それに鑑定スキルを使える人が多いとも思えない。
だったら、そのお金で良い武器を買うなり、防具を揃える方がお得だと思うんだよね。
僕たちは冒険者なのだから。
「あははは、それはね~……ん~~。あっ、でも意外とみんな付けているのよ?例えば勇者になんかなった日には、他の国から勧誘されるだけじゃなくて、誘拐される事だってあるからね~」
「えええーー!どうしてですか!?」
「それは戦力に成るからよ。それに魔王を倒した国は繁栄するって昔から言われているの。まぁ、私は迷信だと思ってるけどね~」
「そうなんですね~……国から狙われるなんて怖すぎます……」
「まぁ、勇者なんかに成れるわけが無いんだけどね。でも冒険者って命を狙われることが結構あるのよ?」
「えっ、そうなのですか!?」
「ほら、今日みたいに突然、ドバーーーっと大金が転がり込んでくることが、たまーーーーにだけど有るのよ。そうすると悪い人が群がって来てね……スパっと」
「スパっと……」
メルさんが首を親指で切る仕草をした。
「そう。だから強さとか弱点を知られて対策されないように、鑑定を阻害するってわけ」
「ねるほど~~。勉強になります。でも、それって高いですよね?」
そう、これが有れば、僕が魔法戦士Xだということを隠せると思ったんだ。
だって、恥ずかしすぎるよね?Xって……自分で言っておいてなんだけれど……
(あの時は、格好いいと思ったんだよ!)
しかも全魔法とか、全武器とかって、絶対にチート過ぎるでしょ……
と、いう事を今日勉強しました。
「それがそうでもないのよ。だいたい
「あははは、そうですね……王女様も居ますしね……」
マリア王女様の
それこそ真っ先に誘拐されそうな人だよね?
「そういうこと。あと人前で王女様と呼ぶのは止めた方がいいかな~」
「あっ、そうでした……」
(うっわぁ~~僕って
思いっきり村長さんの前で、王女様って呼んでしまったような気がする……
今度から師匠と同じように姫様って呼ぼ~っと。
王女様も姫様も英語にするとプリンセスで同じ意味だけれど、この国では王女様って呼ぶのが普通なんだって。
「それに特定の人だけが付けていると、反って怪しくなるから、全員で付けるのがお勧めヨ?どうする?」
うわぁ~メルさんの目が、お店の人みたいになっているよ。
「あ、そういうのはサクラ師匠に聞いてからにします」
「はぁ~~残念。5人分も売れると思ったんだけどな~」
「ははは……じゃー僕も寝ますね。おやすみなさい。メルさん」
「うん。おやすみ。ルキフェル君。駄目よ?アメリアさんに抱き付いたりしたら」
「そっ、そ、そんなことしませんから、僕……」
本当にメルさんは、良く判らない子だった。
ドジっ子かと思えば、意外としっかりとしているし。
でも、悪い人じゃない事は確かだと思う。
今日は、僕の人生の中で一番長い日だった。
初めて武器を買って、冒険者になって、そしてオークの群れと戦っと思ったら、今度は巨大な金銀オークと戦って……
そして……、そして、ずっと探していた美月さんに出会えた。
情報を求めるビラ配りは、1年間しか出来なかったけれど。
僕は道を歩いているときも、よく見えない目で彼女の事を探していたんだ。
まさか異世界にいるだなんて、考えたことも無かったけれど……
悪い人に誘拐されていなくて本当によかった……
僕は、本当に疲れているのだけれど。
少し離れているところで、美月さんが寝ていると思うと、なかなか寝付けなかった。
今も自分の鼓動が早くなっているのが分かる。
『暗いよ~……寂しいよ~……』
目をつぶって羊を数えていたら、小さな声が聞こえて来た。
(えっ?美月さん?)
とても心細い体験をして来た美月さんの声かと、初めは思ったけれど。
声はもっと小さな子供のように高い声をしている。
僕は起き上がると、辺りを見渡した。
焚火をいじっているメルさんと目が合う。
「あら?おトイレ?」
「ううん、子供の声がしませんでしたか?とっても寂しそうな……」
「ん~~夢でも見たのかな?お姉さんが子守唄を歌おうか?」
えっ、メルさんって僕と同じぐらいの年だと思うのだけれど……
『暗いよ~……出たいよ~……』
また、聞こえた。
しかもメルさんの近くから聞こえて来る。
「ほら、聞こえましたよね?」
「えっ、私、耳は良い方だけど?!」
確かに僕たちの周りには、小さな子供はいない。
一番小さいメーティスちゃんでも、そこまで小さくないし、今も幸せそうに眠っている。
『独りぼっち……ヤダよ~~』
「あっ、この中からだ」
メルさんの近くまで行くと、彼女の腰に付けているポーチから声が聞こえてた。
そう、あの魔法のカバンからだ。
「えっ!?この中から??」
「う、うぅ~~ん。どうしたのルキ君?」
僕の大きな声で、マリア王女様を起こしてしまったみたい。
もう、酔っぱらっていないみたいだ。
「このメルさんのカバンの中から、子供の声が聞こえて来たんです」
「いやいや、この中には人間は入れませんよ?入ったら死んじゃうんじゃないかな~」
メルさんが全力で否定している。
そういえば、魔法のカバンには生き物を入れないって設定が多いよね。
「えっ、でも本当に…………」
「分ったわ。ルキ君がそこまで言うんですもの、きっと何かが有るのよ。メルちゃん。ちょっと中を見せて上げて」
「はぁ~、マリア様が言うのでしたら、いいですけど……」
どうやらメルさんは、パーティーの財産を勝手に見せる事を渋っているみたいだ。
確かに中身を盗まれたりしたら大変だよね。
僕はそんなことしないけれど。
メルさんがポーチの蓋を開けて、中を見せてくれた。
「凄い……手品みたいだ……」
小さなカバンの中には、真っ暗な空間が広がっているのだけれど。
ゴールドオークから取れた金銀財宝とか、魔石だけでなくて、大量の保存食とか2本の短剣までが、無重力の中を漂っているのが見える。
しかも全部が指で摘まめるぐらいに、小さくなっている。
『あっ、明かりだ……』
月明りを受けて、キランっと光った赤い宝石が見える。
僕はそれを摘まんで取り出してみた。
ポーチから出たそれが、元の大きさに戻る。
それは僕の掌よりも大きなルビーだった。
卵の形に綺麗にカットされていて、キラキラと輝いている。
確かゴールド・オークから取れた財宝の中にあった物の一つだ。
変わった形をした宝石だったから、よく覚えている。
『やっと出れた~……』
「やっぱりこれだ!」
声がするのと同時に、赤い宝石がぼんやりと光っている。
僕が大きな声を出したせいで、みんなが起きてしまう。
「ふわぁ~どうしたんですか?ルキ殿……まだ夜ですよ……。ムニャムニャ」
「も~ルキ様ったら~、今日だけ添い寝してあげます……ふぁ~おやすみなさい……」
「ふあぁ~~、あれ?ルキお兄ちゃん。それってカーバンクルの卵でしゅか?」
「アキラ君、卵を産んだの?」
サクラ師匠とアメリアさんは、また眠ってしまったけれど。
大賢者の弟子だけあって、メーティスちゃんはこれが何かを知っているみたい。
それに美月さんは……うん、寝ぼけているみたい。
彼女の見てはいけない姿を見てしまった気がする。
「えっ?!卵??」
僕は満月に向って赤い宝石を持ち上げて、中を透かしてみた。
赤ちゃんが見えるかな~と思ったのだけれど、赤く透き通った宝石の中でユラユラと炎が揺らめいているのが見える。
だからか知らないけれど、掌がとても温かい。
「はい。本でしか見たことしか有りましぇんけど、大きさと形が似ていましゅ」
「へ~凄いや……でも何で僕にだけ声が聞こえ…………ああーーー!もしかしてカーバンクルって精霊ですか?」
僕はカーバンクルが、どういう魔物か知らない。
「ん~~どうかな~?伝説の幻獣って聞いたことあるけど?」
冒険者ギルドの受付をしているメルさんでも、詳しくは知らないらしい。
でも僕が精霊魔法を覚えた時に、天の声さんが精霊との意思の疎通が出来るって言っていた。
という事は、カーバンクルも精霊の一種なのかも?
「でも、どうしましょうか?王女様、じゃなかった姫様」
卵だったら、このまま放置すると死んでしまうかもしれない。
でも、ちょっと怖い気もする。
「ん?ルキ君が育てればいいんじゃない?」
「ぼ、僕がですか!?でも魔物かもしれないのですよね?」
生まれた時は可愛いけれど、大きく成ったらパクって食べらるというのでは困る。
よく熊に襲われてしまう飼い主の話しとかがあるよね?
「だってルキ君にしか声が聞こえないし、綺麗だからきっと平気よ」
「冒険者ギルドとしても、リーダーが良いというのなら問題はないかな」
そう、このパーティーのリーダーはマリア王女だ。
そして僕たちが倒したゴールド・オークの財宝の所有権は、このパーティーにあるみたい。
「大丈夫かな~……声は可愛いけれど……」
「ふぁ~~あ、おやすみ、ルキ君」
「あっ、おやすみなさい。姫様。僕も寝ますね、メルさん」
「うん。本当にルキフェル君は面白いね。おやすみ」
僕はルビーの卵を洋服の中に入れると、そのまま毛布にくるまった。
温めて上げようと思ったのだけれど、僕の方が温まっているみたい。
『ふぁ~~暖かい~~……ムニャムニャ』
(お休み。カーバンクル君。あっ、それともチャンかな?)
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