021.美月さんと仲直り?!

 という事で、僕は広場で行われている宴会の真ん中に座っている。

 松明で照らされている広場には、大勢の村人が集まってお祭りみたいに騒いでる。


 僕と同じゴザには王女様だけじゃなくて、冒険者ギルドの受付をしているメルさんと、パーティーのメンバーも座っている。

 そして美月さんも少し離れたところで、メーテちゃんと食事をしている。

 どうやら二人は仲良しになったみたい。


 「まぁまぁ、ルキフェル様もお酒をどうぞ」

 「いや~。僕は子供ですから~~」


 「何を言ってるんですかーーー。勇者さまは別ですよーーー!」

 「あ、はははは、困ったな~~」


 次から次へと来る大人にお酒を進められて、僕は困り果てている。

 ご飯だって、ろくに食べる事が出来ていない。


 「まぁまぁ、この子に代わって私が飲みますから~~」

 「そうれすよ~~、うっひ~~。わたしらちが飲みますからね~~。うっひ~~」


 そして僕の両隣に座っている王女様と、占い師さんがデロンデロンに酔っぱらっている。

 家ではお母さまもお酒を飲まなかったから、酔っ払いを間近で見るのは初めてかも。


 しかもやたらと二人が僕に抱き着いて来るものだから、本当に恥ずかしい。

 だって、顔を左右からオッパイで挟まれたり、太ももに手を挟み込んだりするんだよ?


 それに美月さんに見られているし……


 あ~~まだ怒っているみたい……どうしよう。

 今も、僕に背中を見せてご飯を食べている。


 (はぁ~どうしよう……)


 僕がアメリアさんとマリア王女様の二人と婚約している事を知られてしまってから、まだ美月さんとは仲直りが出来ていない。


 「うっひぃ~~、ルキ殿。明日からは剣の特訓をしますよ~~」


 今度は酒瓶を持った師匠がやって来た。

 そういえば、サクラ師匠とも婚約している事になるのかな?

 うん、これは危険だ。


 「ちょ、ちょっと僕、トイレに行ってきま~~す……」

 「あ~~ルキ殿~。なら私もーーー」


 (いやいや、それは無理でしょ~師匠ーーーー!!!)


 僕はダッシュして人影の無いところまでやって来た。


 村にある多くの家が壊れてしまい、今日の僕たちは野宿をする事になっている。

 だからトイレも、そこら辺でするしかない。


 でも、ここには警察が居ないから捕まらないよね?


 という事で、スッキリした僕がトボトボと歩いていると、綺麗な少女が前からやって来た。

 艶やかな黒髪に、月明りが反射して輝いている。


 「美月さん……」

 「アキラ君って凄いんだね。大魔法まで使えて……私なんか中魔法を使えるようになるのに2年もかかったのに」


 どうやら、僕に会いに来てくれたみたい。


 「う、うん……色々とあったから……」

 「あっ、もしかしてこの世界に来てから、随分と経ってるの?仲間も大勢いるし」


 どうしよう。

 言わない方がいいのかな?

 でも、嘘はつきたくないし……


 「ううん、ごめんね。まだ一週間しか経っていないんだ……」

 「本当に~~?!凄いよアキラ君。私なんか教会に辿り着くまで、独りぼっちで大変だったのよ~」


 良かった~、怒ってないみたいだ。

 それに笑ってくれている。


 てっきり、僕は彼女が拗ねてしまうのではないかと心配していた。

 はっきり言って僕は、ずるいぐらいに色々と恵まれている。


 初めの頃はお母さまも居たし、その後もベルトン先生にアメリアさんと、親切な人に助けられてきた。


 これまで美月さんがして来た苦労を考えると、申し訳なく思うほどに……


 でも、よく考えたら美月さんは、他人をうらやんだりねたむ女の子じゃなかった。


 何時も周りの人に優しい笑みを振りまき、長所を見つけて褒めてくれる。

 しかもそれが人気を取るためではなくて、心からの言葉なんだ。


 僕は改めて美月さんの事を好きになった。

 だから、これまでに起きたことを、全部、隠さずに話した。


 「やだ~~、なにそれ~~ラッキースケベって…………、あっ、でも私が3年生の時に、廊下が濡れていて転んだところを見たでしょ~?」

 「いや、あの時は目があまり見えて無かったら……」


 僕はハッキリと覚えている。

 イチゴの絵を……

 でもそれは言わない方がいいと、この世界に来てから学びました。


 「それならいいの……。でも不思議よね。別の世界に来てまで出会えたなんて」

 「うん。本当に奇跡だと思う……。あっ、美月さんのお父さんとお母さんも元気そうだったよ」


 卒業式には、美月さんのご両親も参加していた。

 校長先生から特別に卒業証書が送られて、それを受け取ったお父さんは本当に嬉しそうにしていた。

 そして美月さんのお母さんだけじゃなく、僕のお母さままでが号泣していたのをよく覚えている。


 「本当~。教えてくれてありがとう……」


 僕は、このことを話そうか、ちょっと迷ったけれど、話してよかったと思う。

 だって、美月さんが泣きながら笑ってくれたから。


 きっと離れ離れになってしまったご両親の事を思い出して、寂しくて、悲しくて。

 でも元気でいる事が分かって嬉しのだと思う。


 僕だって、今、お母さまが何をしているのか、元気でいるのか、知りたいのだから。


 (はぁ~、本当にいつ会えるのかな……)


 「ねぇ、アキラ君。これからどうするの?」

 「はぁ~それがね、何故か僕は母さまを取り戻すために、ファフニールを倒さないといけないらしいんだ……」


 「え~~~、本当に???ファフニールって邪龍のことでしょ?、みんなから恐れられているわよ?確かドラゴンの中でも最上位種の一体だって神父様が仰っていたわ」


 目を丸くして驚いている美月さんは、とても可愛らしかった。

 それにいつもは、とても丁寧な言葉使いをしているのに、今は友達みたいに話してくれている。


 まさか、みんなが憧れていた女の子と、二人っきりで話せる日が来るなんて、とても信じられない。


 「でも師匠達も居るし、何とかなるかな~~なんてね?あっ、僕、冒険者になったんだよ!?」


 僕は喜んで大理石で出来ている冒険者証を見せた。


 「そっかー、なってしまったのね……。アキラ君も男の子なんだね」

 「う、うん……」


 美月さんから意外な反応が返って来た。

 喜んでもらえると思ったのだけれど……


 「冒険者って危険なんだよ?みんな大怪我をして帰って来るから。治すのも大変なんだからね?」

 「そ、そう……だよね……」


 美月さんの言葉には重みがあった。

 彼女は2年半もの間、この世界で司祭プリーストとして生きて来たんだ。


 しかも僕は、この短い間に2回も、マンティコアに殺されそうになっている。

 今日だって上手く行ったからよかったけれど。

 あんなに沢山のオークと剣で戦っていたら、今頃どうなっていたか分からない。


 いや、あの時、僕はレベル1だったし鎧も着ていないから、きっと瞬殺だよね……


 (こわ……)


 「だから、私が一緒に行ってあげる」

 「えっ!ええええ~~~!!本当に!?本当にいいの?やった~~ーーー!!」


 僕は大喜びして美月さんに抱き付いた。

 憧れていた女の子と一緒に冒険が出来る。

 こんなに嬉しい事は、他にはないんじゃないかな?


 「ア、アキラ君……」

 「あっ、ごめん……なさい……」


 そうだった。

 美月さんは、こういう事にはとても厳しいのだった。

 スカートめくりをした男子を、物凄い目で睨んでいるところを一度だけ見たことがある。

 普段は虫も殺さないほど優しいのだけれどね……


 僕は爆弾が爆発しないように、そ~~っと彼女から離れた。


 「ううん、これで、おあいこよ……」

 「う、うん」


 そう言えば再会した時には、彼女の方から僕に抱き付いて来ていた。

 あの時の香りを今も覚えている。


 今日はとても長い一日だったけれど、レベルも上がったし、とっーーーてもいい日だったと思う。

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