020.えっ、僕って英雄?!

 行方不明になっていた同級生の少女が、なんと異世界で司祭プリーストに成っていた。

 しかもそんな彼女が使った範囲回復魔法を、ルキフェルが真似したところ。

 仲間の応援エールの効果もあり、範囲と威力が向上し村人全員を治療したのだった。


 「おお~~これは奇跡じゃ~~~」

 「そうよ。きっと勇者様に違いないわ!!」

 「いや、きっと神様が降臨なされたのだ!」

 「これで村が救われるぞーーー!!」

 「キャ~~なんて凛々しいお姿なの~~♡♡♡」


 ルキフェルは村人の人気者となり、人々が押し寄せて来る。。


 (うわぁ~~~どうしよう……)


 こんなに大勢の人と話した事がないよ……僕。


 「えっ、ちょっと待ってください。僕はただの魔、じゃなくて……子供ですから~」


 魔法戦士と言おうとしたのだけれど、それはそれで目立ちそうだからやめておいた。

 なにしろ魔法戦士に成れるのは、1万人に1人らしいからね。


 しかたなく急いで逃げることにしたのだけれど、今、僕は広場の真ん中に居る。


 無理だった。


 だって360度、全方位から人が押し寄せて来るんだよ?

 空を飛べない限り逃げられないよ……


 …………


 という事で謎の握手会が終わり、ようやく僕は村人から解放された。

 しかもいつの間にか夜になっているし。


 そういえば、僕には精霊魔法のフライがあったね……。


 みんな僕の事をチヤホヤするけれど、美月さんの方が凄いと思うんだよね。

 だって、彼女が居なかったら瀕死の人は助からなかったし、僕はサンクチュアリの魔法を覚えられなかったのだから。


 それにしても、僕はちょっとやり過ぎちゃったみたい。

 リウマチが治ったお婆さんとか、ニキビが治った女の子まで居たし。

 中には、生まれた時から見えなかった目が見えるようになったと言われたよ。

 流石にそれは無いと思うのだけれど~~

 魔法って、どこまで万能なんだろうね?


 「はぁ~あっ、なんだか私ってバカみたい……」


 一番苦労したアメリアさんが拗ねている。

 というか、列の一番後ろに並んで、僕が解放されるのを待っていたみたい。


 「そんなことないですよ。アメリアさんが応急処置をしてくれなかったら、とても間に合いませんでしたから」

 「そ、そうかな……。そんなに褒めたいなら、頭を撫でさせてあげてもいわよ?」


 顔を真っ赤にしたアメリアさんが頭を差し出してきた。


 「はい。イイコ、イイコ」


 僕は彼女の頭を撫でながら、別の事を考えている。


 そう、確かにアメリアさんの応急処置が無ければ、命が助からなかった人は多い。

 それほどまでにオークの襲撃は恐ろしい物だった。


 それでも美月さんが居なかったら、本当に大勢の人が死ぬところだったわけで…………

 本当に異世界は怖い所だと思う。


 あれ?なんで彼女がここに居たのだろう?

 僕達のパーティーメンバーでもないし、どうもこの村に居たわけでもなさそうなんだよね。


 だって現れた時に、水浴びをしていたんだよ?

 しかも村がオークの群れに襲撃されたあとで……

 それに広場なのに、濡れて透けてしまうような服を着て水浴びをするかな??


 (…………えっ、ま、まさか!!)


 まさか、またあれの仕業ですか?!


 前にもマンティコアのブレスで溶かされそうになった時に。

 前触れもなく、僕の後ろで女神様がシャワーを浴びてたんだよね~~

 しかも裸で……


 今回も美月さんは、スケスケの状態で水浴びをしていたわけで……


 でも、今回だけはラッキースケベに感謝するしかない!

 だってあんなに探していた美月さんに会えたのだから。

 実は凄いスキルなのかな?!


 「ルキ君~。どうだった?英雄になった気分は?」


 今度はマリア王女様がやって来た。


 「あっ、母さ、じゃなかった。王女様。もう、僕が英雄な訳が無いじゃないですか……あっーーー!王女様ですか?僕が1人でオークの群れを倒したって話したのは!?」


 怪我が治った人達だけじゃなくて、途中から関係のない村人までが押し寄せて来たんだよね。

 小さな子供に、オークの群れを倒した大魔法を見せてくれってせがまれたり。

 この村に住まないかと、しつこく誘われたり。

 しまいには娘と結婚してくれと言ってくるオジサンまでが居たし。


 「あら、いいじゃない~。本当の事なんだから~」

 「いえ、あれは王女様の作戦と、師匠の頑張りがあったから出来たことですし。それにメーテちゃんがアース・ウオールを作ってくれなかったら、とてもじゃないですけど全部は倒せませんでしだから」


 「ふふふ、本当にルキ君は真面目よね~。お姉さんはそういうところも好きよ?チュ」

 「うわぁあああーー!!そ、そ、そういうわけでは……」


 王女様にホッペにキスされちゃったよ~~。

 それに腕を組んで胸を押し付けられると、変な気分に成るから止めて欲しい……

 なんだか、お母さまの事も思い出すし…………


 「あっ、どさくさに紛れて……この泥棒猫が!私が先に婚約したんですからね」

 「あら、順番よりも愛の大きさの方が大事よ?」

 「うわぁっ、二人供そんなに引っ張ったら洋服が破れちゃうから~~」


 そう言えば、今、僕が着ているのは普通の洋服だ。

 普通と言っても、この異世界での普通なのだけど。


 ズボンにはファスナーが付いてないし、ベルトの代わりに腰の所を紐で縛っている。

 サクラ師匠が買ってくれたらしいのだけれど、サイズがピッタリでとても動きやすい。

 ただ、ちょっと縫い目が緩いんだよね。


 ビキビキッ!!


 ほらね……しかも両方の肩が取れたし……

 僕は裁縫は出来ないよ?


 (はぁ~、あのパーカーが懐かしいな……)


 僕が現実世界で着ていた洋服は、マンティコアの溶解ブレスで溶けてしまった。

 あれ?もしかしてあの時、僕は裸のままドルトン先生の所まで運ばれたのかな?

 あの場には、マリア王女様とサクラ師匠しかいなかったわけで……


 という事は……


 (キャーー、は、は、恥ずかしすぎる……)


 僕が赤面しているのに気が付かないで、二人が話をしている。


 「うわぁ~ど、どうしましょう……」

 「あら?王女様は裁縫さいほうも出来ないのかしら?大人の女性だというのに」


 「わ、私だって習えば出来るわよ……きっと」

 「ふふふ、どうだか。じゃー私が左側を縫いますから、王女様は右側を縫ってくださいね」


 今度は競争が始まったみたい。

 僕は平和が好きなのだけれど~……


 「おやおや、ここにおられましたか勇者様」

 「えっええ!だから僕は勇者じゃないですから……」


 今度はこの村の村長さんがやって来たよ。

 僕は早く美月さんと話がしたいのに……


 「何を仰いますか。神秘魔法ルーン・マジックだけでなく、神聖魔法セイクリッド・マジックまで使えるのは、勇者様をおいて他にはおられません」

 「えっ、そうなのですか?魔法戦士は使えないのですか?」


 「はぁ~、ルキ殿。魔法戦士が使えるのは神秘魔法だけですから」


 疲れ果てた師匠が、トボトボと歩いてやって来た。

 どうやら、一人で瓦礫の撤去をしていたみたい。


 「そ、そうだったのですね。師匠……」


 (ごめんさい。師匠~~、一人で力仕事をさせちゃって。でもそれは先に教えて欲しかった)


 僕はてっきり魔法戦士は、習えば神聖魔法も覚える事が出来ると思っていた。

 でもよく考えたら、魔法戦士だと全魔法は覚えられないって、天の声さんが言ってたよね……


 僕はまたしても、やってしまったのかもしれない。

 しかも大勢の人の前で……どうしよう、魔法戦士Xの事は秘密にしておきたいのだけれど……


 「まぁまぁ、村長。ルキフェル君はまだ子供ですから、その辺にしてください」


 (王女様、ありがとう!!)


 「ふぉふぉ、そうですな。確かに大人が子共に頼りすぎるのも問題じゃな。でも今夜だけは皆の為に勇者として振舞ってもらえんかの~?」

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