3章.オーク討伐

017.オークの群れ討伐!?

 僕達、”運命の導き”パーティーは、オークの群れに襲われた村に向かっている。


 この世界では乗合馬車でも、男女が別の馬車に乗るのが普通らしい。

 だから僕は客車ではなく、メルさんと一緒に御者台に座っている。

 だって、僕以外は全員が女性なんだよ?


 四頭立ての馬車はとても早く、メルさんの短いスカートが風に乗ってヒラヒラと揺れるものだから。

 僕は視線が下に行かないようにするのに苦労している。


 <技能、忍耐を習得しました>


 うん、頑張ってみるものだね。

 スキルのおかげで少しだけ楽になった。


 今は目が良く見えるから、後ろに流れていく景色を楽しむ事だって出来る。


 <技能、千里眼クレヤボヤンスを取得しました>


 どうやら、簡単にスキルを覚えることが出来る世界みたいです。

 それに日焼けの心配も無いから、顔を撫でて行く風が、とっ~~ても気持ちいい。


 <技術、精霊魔法スピリット・マジックを取得しました>


 ええええ、風を気持ちいいと思っただけで、精霊魔法を覚えてしまった……

 やはり、僕はチートなのかもしれません。

 だって新しい魔法だよ?!


 でも、神秘魔法ルーン・マジックと何が違うのだろう?


 <精霊界の力エレメントを使った魔法です。他にも精霊との意思の疎通そつうが可能になります>


 ふ~ん、そうなんだ。

 早く精霊に会えるといいね!


 その時、千里眼を取得した僕の目に、オークに襲われている村の様子が映し出された。


 「まずい!急がないと……村の人たちが……」


 豚の顔をした2mを超えるオークの群れが、棍棒やなたを手に村人達を襲っている。

 逃げ惑う村人の表情から、緊急度の高さが分かる。


 「ルキ君。見えるのね?状況を教えて!」


 一番前に座っていた王女様が聞いてきた。


 「見えるだけでも10体以上のオークが村人を襲っています。手には武器を持っていて、それに怪我人も大勢います……」

 「分ったわ。メーテちゃんはアース・ウォールを使えて?」

 「はい。あまり使ったことはありませけど、覚えていましゅ」


 「ならいいわ。サクラがオークを一か所に集めるとして……イレーナは何か出来ないの?」

 「そうですわね~。一番多くオークを集めるルートでも占いましょうか?後はラッキカラーでどうかしら?」


 このパーティーのリーダだけあり、王女様がテキパキと指示を出している。

 僕だったら、とてもではないけれど、こうはいかなかったと思う。


 「それでいいわ。メルちゃん、馬車を村から100mぐらいの所に停めて」

 「分りました。皆さん、ご武運を」


 <上級応援ハイ・エールの効果が発動しました。全ステータスが30%上昇します>


 受付嬢をしているメルさんのエールは凄かった。

 王女様のエールよりも、3倍も効果が高い。


 「あの~僕は何をすれば……?」

 「ルキ君はもちろん、大魔法をぶっ放してちょうだい」


 「分りました。あっ、でもタイミングが……」


 僕の魔法の威力は高いけれど、詠唱に時間が掛かってしまう。

 だから、いきなり言われても間に合わないと思うんだ。


 「お兄ちゃん。タイミングを合わせるのは簡単でしゅ。あらかじめ魔法陣を描いておいて、発動のきっかけとなる魔力を、タイミングを見計らって流せばいいのでしゅよ」

 「ありがとう。メーティスちゃん」


 大賢者の弟子メーティスちゃんが、とても大切なことを教えてくれた。

 でも、僕は魔力を流し込む方法を知らないのだけれど、きっと何とかなるよね?


 「あっ、ルキフェルお兄ちゃん。私の事は、あの~その~メーテでいいでしゅから……」

 「うん、分かった。メーテちゃん。僕もルキでいから。あと色々と魔法の事を教えてね!」


 「うん。ルキ……お兄ちゃん……きゃ~恥ずかしいでしゅ~……」


 という事で、僕は大賢者の弟子の弟子になった。

 馬車の中では、占い師になった女神さまが、みんなの腕にラッキカラーの布を結んでいる。


 「はい。ルキ君の今日のラッキーカラーは、金と銀よ!」

 「えっ、何で僕だけ2種類も……」


 「いいの、いいの」


 洋服の上から左腕に銀色の布、右腕に金色の布が結ばれてしまった。

 ちょっと派手すぎて、恥ずかしい……

 因みに、現実世界から着てきた洋服は、マンティコアの溶解ブレスで溶けてしまったので。

 今はこの世界の洋服を着ている。

 町の人たちが来ている普通の物だ。


 「着きました!」


 ヒヒーーーン


 遂に村の近くまでやって来た。

 火事も起きているのか、煙を上げている家が見える。


 僕の剣の師匠は先行するために、一足先に馬車から飛び降りると。

 そのまま物凄いスピードで疾走して、たった一人で村の中に飛び込んでしまった。

 今頃は、占いの結果に従って、オーク達をかき集めるているところだろう。


 僕が馬車を降りると、隣に来たメーテちゃんが、先に魔法を唱え始めてくれた。


 「$#&%#”$%&…………」


 きっと僕にコツを教えようと、してくれているのだと思う。

 僕もメーテちゃんの真似をして、ラージ・サンダーの詠唱を開始する。


 (ラージ・サンダー!)


 と言っても、僕は呪文も魔法陣の形も知らないわけで。

 ただ、心の中で叫ぶだけだ。


 今回もメーテちゃんが描いている魔法陣は黄色だった。

 どうやら中級の魔法は黄色らしい。

 そして当たり前だけれど、メーテちゃんの魔法陣の方が先に完成する。


 <神秘魔法、アース・ウォールを習得しました>


 うん、僕は意外とずるいのかもしれない……

 お母さまがズルはいけませんって、言っていたのに……


 (あれ?もう半分まで完成している……)


 僕の赤い魔法陣は早くも2段目までが完成していて、最後の一番大きい魔法陣も半分までが描き終えている。

 完成まで、あと15秒もない。


 「ルキお兄ちゃん。深呼吸して力を抜いてね」

 「う、うん。分かった……す~~~はぁ~~~ゲフォゲフォ」


 どうやら僕は緊張していたみたい。

 ちょっとむせてしまったけれど、それでも気分が落ち着いたと思う。


 そして魔法陣が完成しても、ラージ・サンダーが勝手に発動することは無かった。


 (ふ~~よかった。あとは本番だけだ……)


 「来たわよ。あら……随分と数が多いわね。メーテちゃん、ギリギリまで引き付けたいから、サクラが通り過ぎてから発動してちょうだい」

 「はい。マリア様」


 体の小さな師匠のすぐ後ろを、30匹以上のオークが土煙を上げながら走っている。

 緑色の巨体を揺らして、苦しそうに汗をかいているよ。


 「ちょっとこれは多すぎませんか……王女様……」

 「ルキ君の魔法なら大丈夫よ。今回はアース・ウオールで爆風を防げるから、思いっきりかましてちょうだい!」


 凄い……、そこまで考えていたのか~~

 僕は出来る限り遠くに、魔法を放とうと考えていたのだけれど、どうやらその必要はないみたい。


 「行きましゅ。アース・ウォール」


 師匠との距離が5mを切ったところで、メーテちゃんが魔法を発動した。

 師匠が駆け抜けた直後の地面がせり上がり、あっという間に壁が完成する。


 「ルキ君!」

 「は、はい!ラージ・サンダー!!」


 僕は気合を入れて思いっきり叫んだ。


 ピカピカピカ

 バリバリバリーー!!

 ドゴゴゴーーーーーーーン!!!


 物凄く太い稲光が壁の向う側に落ちた。

 アース・ウォールのおかげで爆風は来なかったけれど、地響きが凄い……


 (あっ、だめだ、また目の前が真っ暗に……)


 まだオークの討伐が終わっていないと言うのに、僕のMPは底を尽きてしまっている。

 それはそうだよね。

 僕のレベルはまだ1のままだ。

 しかも、今回は女神様のエールを受けていない。


 「よくやったわ~ルキ君!最高のタイミングよ~~」


 ムギュ~~~


 (ああ、王女様が抱擁してくれているのに………………)


 パラララッタラ~~

 <レベルが2に上がりました>

 パラララッタラ~~

 <レベルが3に上がりました>

 パラララッタラ~~

 <レベルが4に上がりました>


 …………


 何かファンファーレと一緒に、レベルアップを告げる、嬉しそうな天の声が聞こえている。

 本当にこの人は、自動音声なのかな?

 あっ、レベルアップしたからMPが全回復している!


 (ラッキ~~)


 これでまた戦える!

 でも、もう少しだけこのまま……

 お母さまを思い出す感触に包み込まれていたい。


 「なぁーーーどさくさに紛れてーーー!!何抱き付いてるのよ~~!!」


 どうやら、アメリアさんに見つかってしまったようです。


 「ふふふ、こういうのは早い者勝ちよ?」

 「いいから離れなさいよ。もう……」


 マリア王女様から僕の事を引きはがすと、今度はアメリアさんが僕の腕に抱き付いてきた。

 勿論、悪い気はしないのだけれど、もしもお母さまに見られたらと思うと複雑です。


 …………


 パラララッタラ~~

 <レベルが10に上がりました>

 <魔法の詠唱速度が10%早くなります>

 <必殺技を1つ習得できます。如何いかがしますか?>


 (えっ、いきなり言われてもな~。後でいいですか?)

 <承知しました>


 パラララッタラ~~

 <レベルが11に上がりました>


 (えええっ!まだ上がるの??)


 パラララッタラ~~

 <レベルが12に上がりました>

 パラララッタラ~~

 <レベルが13に上がりました>


 (…………)


 ふ~、ようやく終わったみたい。


 (あっ、すごい!)


 僕にしがみ付いているアメリアさんも、レベルが13まで上がっているよ。

 王女様も2レベル上がって17、メーテちゃんもレベル21になっているし!


 「あははは、私までレベルが上がっちゃいました~」


 (えっ、メルさんもですか~~)


 メルさんはパーティーに入っていないし、戦闘にも参加していないと思うのだけれど……

 傍に居るだけで経験値が入るのかな~?


 「ぜぇ~、ぜぇ~、ぜぇ~、そ、それは良かった……。でもなぜ私だけ……」


 という事で、命がけで走り回っていた師匠を除いて、全員がレベルアップを果たした。

 何故か女神様までレベルが上がっているけれど、そこは触れないでおこうと思う。

 嬉しそうに僕の事を見つめているけれどね……

 もしかして褒めて欲しいのかな?


 オークよりも高い土壁が砂になって消えると、丸焦げになったオーク達が現れた。

 煙と共に嫌な臭いが漂ってくる。


 「流石、ルキフェル殿。一撃でこれほどのオークを仕留めるとは……」


 油断なく剣を構えている、サクラ師匠がラージ・サンダーの威力に驚いている。

 確かに30匹を超えるオークが全部入るくらいに効果範囲が広いし。

 体長が2mもあるオークを一撃で倒すのだから、威力も高いと思う。


 フワッ、フワッ、フワッ


 次々とオークの大きな体が光の粒となって消えていく。


 「えっ、これって……」

 「おーーそうか。ルキフェル殿は見るのが初めてだったな。魔物は死ぬと浄化されて、マナとなって大気中に散らばって行くのだ」


 どうやら、魔物と動物は別物らしい。


 キラン


 「そうなのですね。あの光っているのは何ですか?」


 オークが倒れていた地面に、こぶし大の深い緑色をした宝石が転がっている。


 「あれは魔石だ。冒険者はこの魔石をギルドに売って生計を立てるのだ」

 「はい。これだけあれば金貨10枚はいきますね」


 冒険者ギルドの受付嬢をしているメルさんが、嬉しそうに魔石を拾い始めた。


 「あっ、僕も手伝いますね」


 ドスン、ドスン


 戦闘が終わり、のんびりとした空気が流れ始めた時。


 突如、焼け焦げた地面の向うから、重々しい地響きが伝わり。

 2体の巨人が姿を現した。

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