015.運命の出会い?!


 ということで、独りぼっちになった僕は、冒険者ギルドの中にあるレストランに来た。

 丸いテーブルの上には、食べ残しのお肉とか、お酒が散乱している。


 「さてと何処に座ろうかな」

 「そこの少年。ここに座りなされ」


 突然、後ろから女の人に声をかけられた。


 「えっ、居ましたっけ……」


 別に僕が変なことを言っているわけではない。

 僕がここに来た時には、本当に誰も居なかったんだ。


 それなのに今は、後のテーブルに魔法使いみたいなローブを着た女性が座っている。

 それも部屋の中だと言うのに、フードを深くかぶっているから顔が見えない。


 外出するときはフードだけじゃなくて、サングラスも掛けていた僕が言うのも変だけれど。

 大丈夫だろうかこの人……


 「ほれ。温かいうちに食べるがいい」


 あれ?今度はテーブルの上に、イチゴのパフェとパンケーキが乗っていた。

 良く判らないけれど、焼きたてのパンケーキの上には、アイスクリームみたいにホイップクリームが乗っていて、とても美味しそう。


 「あ、はい」


 僕はお腹が空いていたので、魔女さんの向かいにある椅子に座った。


 「それじゃ~いただくとするかの~~」


 彼女はお婆さんみたいな話し方をしているけれど、声が綺麗だからきっと若い女の人なのだと思う。


 「いただきます……」


 僕がパンケーキをフォークで切って、口に入れようとした時。


 「ん~~このイチゴ、甘酸っぱくてオイスィィ~~」


 パフェに乗ったイチゴとクリームを一緒に食べた魔女さんが、ほっぺたに手を当てて、クネクネとして踊っている。


 「はぁ~~。確かに美味しいですよね……」


 パンケーキも美味しかったけれど、今はそれどころではなかった。


 そう、この人は声だけでなくて、顔も綺麗なあの人だった。

 いや、人ではないのかな?


 でも嬉しそうにパフェを食べているし、僕もお腹が空いてるので、話は食べ終わってからすることにした。


 …………


 「う~~ん。美味しかった~~」

 「ご馳走様でした。とっても美味しかったです。ところで、こんなところで何をしているのですか?イーリス様」


 「えっ!?な、何の事かしら……。わ、私はただの旅の占い師よ。アハハハハァ……」

 「分りました。そういう事にしておきます。それで何か御用ですか?」


 「あっと、そうだったわね。ちょっと待っててね。今、準備するから」


 女神様が、わざわざローブの袖から大きな水晶玉を取り出した。

 そしてその上にかざした両手を怪しげに動かし始める。


 「おお、見える。見えるぞ~。ここより南南西に進んだところで、運命の出会いが待っておる」


 まるで小学校でやった学芸会を見ているようだ。


 「僕にそこに行けと言うのですね?分かりました。行ってきます。あっ、僕の分のお金はここに置いときますね」

 「えっ、ちょっと私、お金を持ってないのよ~~」


 僕は虹の女神イーリスを残して、冒険者ギルドを出た。

 彼女でも皿洗いぐらいはできるだろうし、現れた時みたいに消える事だって出来ると思うんだ。

 僕だってお金が無いのだから仕方がないよね?


 それにしても、この街は本当に人が多い。

 お昼時だからか、お肉を焼いたり、うどんみたいな食べ物を売っている屋台に人が群がっている。

 早く僕もお金を稼げるようになりたいな~


 他にも果物とか野菜だけでなく、アクセサリーとかお花を売っている露店までがある。


 (そうだ、冒険をしてお金が入ったら、お母さまにプレゼントを買おう!)


 でも、母の日っていつでしたっけ?


 方角が合ってるか分からないけれど、南南西と言うことだから。

 とりあえず僕は、太陽に向かって歩いている。


 (距離ぐらいは教えて欲しかったな~)


 とその時、前方20mぐらいのところで、何か揉めている人達が見えて来た。


 「よ~~お嬢ちゃん。良い杖持ってるね~。ちょっとオジサンに見せてくれないかな~~」

 「そうそう、俺たち杖に目がないんだよね~~。ほら見るだけだからさぁ~~」

 「だ、ダメでちゅ。こ、これはお師匠サマから、頂いたものでしゅから……」


 どう見ても怪しいオジサン達が、僕よりも小さな女の子を取り囲んでいる。

 しかも全員が腰から汚れた剣をぶら下げて。


 うん、これは助けてあげた方がいいよね?


 僕も剣を持っているけれど、オジサン達の方がレベル5~8と高いから、ここは魔法で行くしかない。


 と言うことで早めに詠唱を始める。


 (ラージ・サンダー)


 詠唱と言っても、心の中で叫ぶだけだから、後ろで唱えればバレる事も無い。


 「なぁ~んだ。ただで貰ったのなら、俺たちにくれてもいいじゃね~か。なぁ~お前もそう思うだろ?」

 「兄貴の言う通りでさ~。だいたいガキが魔法の武器を持つなんざ百年早いんだよ」


 少女が両手で握っている木の杖は、その子の背よりも高くて、ねじれている先端には大きな水晶が付いている。

 しかも水晶が淡い光を放っていて、本当に魔法の武器みたい。


 「いや~~取らないで……」

 「うるせ~!さっさとよこさねーと痛い目を見るぞ!!ゴラーー」


 遂に一番レベルの高い男が、力ずくで杖を奪い取ろうとし始めた。


 「痛い目を見るのはどっちかな?試してみる?」


 僕はオジサン達の後ろに立っていて、ちょうど二段目の中ぐらいの魔法陣が出来上がったところで声をかけてみた。


 「うわぁ~……な、なんなんだ。このガキ……」

 「兄貴、やばいですせ!赤色って事は大魔法ですぜ……」


 僕に気が付いたオジサン達が、顔を真っ青にして後ずさり始めた。

 前回と同じように、青かった空があっという間に雨雲に覆われて行く。


 「10秒だけ待って上げるよ。10~9~8~」

 「わ、分かったから……早まるな……な?俺達は別に……」


 まだ30秒以上あるけれど、ちょっと早送り。


 「3~~2~~1~~」

 「に、逃げろ~~!!」

 「ギャア~~兄貴置いてかないで~~」


 鼻水を流しながら、大の大人達が逃げだした。

 どうやら一般人には、魔法は恐い物と思われているようだ。


 「ふ~~危なかった。あれ?これどうやって止めるのかな?」


 こう言うのを一難去ってまた一難って言うのかな?

 そう、僕は魔法の止め方を知らない。


 「え、お兄ちゃん、ラージ・サンダーが使えるのに解除の仕方を知らないのでしゅか?!」

 「うん。どうしよう……あっ、危ないか早く僕から離れて!!」


 また師匠みたいに、巻き添えになって欲しくない。


 「大丈夫でちゅよ。落ち着いてください。詠唱を止めれば……て……えっ?えっーーー!!!詠唱もしないで魔法が使えるのーー……??どうしてでしゅか~~」


 あっ、ダメだ。僕よりもこの子の方が慌てている。

 こうなったら僕がこの子から離れるしかない……って、えええーーー!!僕の足が動かないよーー!?


 これって詠唱中は移動不可とかいう仕様なのかな~?

 そうしたら、魔法戦士なのに剣で戦いながら、魔法を使うのなんて危険だよね?

 これじゃー敵の攻撃を避けれないよ……


 あ~~どうしよう、あと10秒もない……

 考えるんだ!僕!!

 魔法を使うときは手を前に出して、心の中で叫ぶ……そうだ!


 (魔法よ止まれ~~!!)


 ダメだーーー止まらない!!……ど、ど、どうしよう~~

 遂に僕もパニックに陥ってしまった。

 こうなってしまうと、頭の中が真っ白になって、何も思い浮かばなくなる。


 「えい」

 「えっ?」


 突然、女の子が魔法陣を描いている僕の手にしがみついて、下におろしちゃった……


 「うわっ、暴発したらどうするの~~!!」


 「ふ~~危なかったでしゅ」

 「えっ?あれ?消えた……」


 後少しで完成しようとしていた大きな魔法陣が、綺麗さっぱりと消えて無くなっている。

 はぁ~~なんだ……手を下にさげれば良かったのか……


 あっ、でも体中から力が抜けて……


 「ああ~、不味いかも……」


 そう、僕はいまだにレベルが1のままだ。

 どうやら、魔法を中断してもMPを消費するみたい。


 「あっ、大丈夫でしゅか?お兄ちゃん?!」


 その時、またアイツがやって来た。

 光り輝く青い鱗に覆われた大きなトカゲが。

 翼を折り畳んで、僕達に向かって急降下してくる。


 「あっ、危ない。逃げて……」


 せめてこの子だけでも助けないと……

 でも地面にへたり込んでいる僕の足には、もう力が入らない。


 「大丈夫でしゅ」

 「えっ、でも……」


 僕よりも小さな女の子が、大きな木の杖を構えて詠唱を始めた。


 「$#&%#”$%&…………」


 聞いた事もない言葉といっしょに、杖を使って空中に黄色い光の線で魔法陣を描いている。

 しかも両方とも、とんでもなく早い。


 それは間違い無く本物の魔法だった。


 僕の場合は心の中で叫ぶだけで、声を出して呪文を唱えていないし、杖で魔法陣も描いていない。

 無詠唱と言えば格好いいけれど、詠唱時間があるからチートとは言えないよね?


 そしてあっという間に本物の魔法が完成した。


 「トルネード!」


 <魔法、トルネードを習得しました>


 (あっ、チートだったみたい)


 まさか魔法を見ただけで、僕は魔法を覚えてしまうとは……

 物凄い竜巻が、大きいけど小型のブルー・ドラゴンを空の彼方へと吹き飛ばしてくれた。


 「うわぁ~、君、凄いんだね~~」

 「大魔法を使えるお兄ちゃんに言われたく無いでしゅ…………。それよりも見まちた?」


 (またやっちゃったみたい)


 でも、僕は嘘が好きではない。


 「可愛いパンダだね……」

 「きゃっ、恥ずかしすぎましゅ…………もうお嫁さんになれないでちゅ~~」


 恥ずかしいのなら、穿かなければいいのに……

 せめてズボンを穿いてくれれば……


 今も物凄い竜巻に煽られて、丈の短いローブの裾がヒラヒラとはためいている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る