013.告白!?


 僕が廊下を歩いていると、お母さまにそっくりな女性が前からやって来た。

 僕の事を嬉しそうに見ている。

 今にも抱き着いてきそうな感じ。


 「あら、アキ君~!もう具合は大丈夫なのかな?」

 「あっ、マリア王女様。はい!先生の話だと、レベルに合わない魔法を使ったせいで、MPが枯渇?したらしいです」


 そう、僕のレベルはまだ1のままだった。

 まだモンスターを倒したことが無いから、当たり前といえば当たりまえなのだけれど、ちょっぴり悲しい。


 女神様に掛けて貰った女神の応援デア・エールの効果で、一時的にMPがアップしていたみたいだけれど

 いきなり大魔法を使うには無理があったみたい。

 あと女神の応援の効果は、寝ている間に切れていた。


 それにあのマンティコアの死骸は無かったらしいから、逃げられてしまったみたい。

 残念………


 倒すことが出来ていたら、LVが上がっていたのかな~~


 「そう、よかったわ。本当にありがとうね、アキ君。貴方は私の命の恩人よ!」


 (あっ、やっぱり……)


 ムギューーーー


 勿論、お母さまにそっくりな女性に褒められ抱き締めて貰って、嬉しいのだけれど。

 相手が婚約者だと思うと、急に恥ずかしくなってきた。

 心臓がバクバクして、いまにも破裂してしまいそうだ。


 「それにしても流石、私のアキ君!鎧が良く似合ってるわよ~。あとはマントを羽織ったら、もう騎士にしか見えないわね」


 あっさりと僕を開放した王女様が、今度は鎧を褒めてくれた。

 それはそれで嬉しかった。

 何しろこれは、僕の初めての鎧なのだから。


 勿論、ハグしてもらった事の方が嬉しいけれどね……


 「そうなんですか?あっ、でも今はお金がないから……。あーーー、王女様、もしかして鎧のサイズを直して貰うのにも、お金ってかかりますか?」


 そしてマントを買おうかと考えてたところで、僕は重要な事に気が付いてしまった。

 だって、ズボンの裾を上げるのにも、お金は掛かるよね?


 「んーーー、どうなんだろう?私、お金を持った事が無いから~~」

 「はぁ~そうなのですか……」


 流石は王女様だった。

 もしかしたら、自分でお買い物をしたことが無いのかもしれない。

 よく聞くよね。

 切符の買い方を知らないお嬢様の話とか。

 でも今は、カードをかざすだけなんだけどね。


 「アキル殿、武器屋に行くのなら、私も同行させてください!お金なら私が持っていますので……」


 部屋から出て来た師匠が、ドアノブに捕まりながら辛そうにして立っている。


 「おや~?サクラ。いつからアキ君に敬語を使うようになったのかしら?はは~ん、もしかしてアナタも?」


 うわ~~、お姫様の目つきが怖くなっちゃったよ。

 どうしよう……


 「いえ、これは……その……そう、命の恩人に対して敬意を表してですね……」


 「ふ~~ん、怪しいわね……まぁいいわ。なら早く支度してね」

 「はっ!直ぐに……イテテテテ……」


 うわ~~、かなり痛そうだけれど、本当に大丈夫なのかな……


 「怪我人が出かけられる訳がないでしょ!まったく……」


 えっ、今度はアメリアさんまでがやってきた……しかも何で手にメスを持ってるの~~??

 うん、やっぱりアメリアさんが一番怖いのかも……


 「いえ、これくらいの怪我は大したことは有りませんから。それよりも、早くアキル殿が戦えるように成ることが、今は大切なのです」

 「ふ~~ん、そうなんだ……。ならいいわ。アキラ様の為なら協力して上げるわよ。ほら、これを飲みなさい」


 アメリアさんが胸のポケットから、緑色の液体が入った試験管を取り出した。

 というか、師匠の方が年上なのに、敬語を使わなくてもいいのかな?


 「こ、これは回復ポーションではないか!」

 「そうよ。私がアキラ様の為に調合した物なのだから、じっくりと味わって飲むがいいわ」


 アメリアさんが自慢げに胸を反ると、ボタンが外れた。


 (あっ、ピンク色だ……)


 今は目が良く見えるから、白い肌とピンク色の布の境界線までがハッキリと見えている。


 師匠が試験管の蓋を開けると、中からブワッと音を立てて、緑色の煙りが出てきた。


 ゴクリ……


 何となく、マンティコアの溶解ブレスを思い出してしまう。


 「で、では有り難く頂くとしよう……」


 ゴクゴクゴクゴク


 師匠が腰に手を当てて、それを一気に飲み干した。


 「あ、味はどうかしら?」


 あれ?アメリアさんの様子が怪しいのだけれど……


 「プハァ~~ちょろ、しらがしびれるけど、おいひ~わ……」


 師匠の様子までがおかしいのだけれど~

 大丈夫かな~~?


 「ふ~~成功して良かったわ。初めて作ったのよ」

 「ゲフッ、ゲフッ、な、何れもろを飲ませれんですかーー!!」


 師匠は舌がもつれてしまって、上手く話せていない。


 「そんだけ元気なら、もう大丈夫ね。行かないのでしたら、私がご案内しますわ。さぁ、アキラ様、行きましょう」


 アメリアさんが腕を組んできたけれど、丁度、全員が集まっているから、ここで言ってしまおうと思う。


 「え~~と、皆さんに大切な発表が有ります」


 僕はみんなの視線が集まったところで、心を落ち着けようとして深呼吸をした。


 「な、何よ。15歳になるまで結婚は出来ないからね……」

 「ふふふ、ようやく大人の魅力に気が付いたのね~」

 「ま、まだ心の準備がががが……」


 「実は僕、名前がルキフェルに変わりました」

 「か、格好良いじゃない……アキラじゃなくて、ル、ルキフェル様……」

 「あぁ~何て凛々しいお名前なのかしら~。まさに王に、いえ、神に相応しいお名前ですわ~~」

 「嗚呼……ルキフェル殿……うん、なかなか強そうで良いではないか……早く私の事を奪って貰えないだろうか?」


 と、言うことで、僕達4人はベルトン先生のお勧めの武器屋にやってきた。

 小さなお店だけれど、中にはズラリと剣や鎧が並んで居る。


 「いらっしゃい」


 髭を生やした不機嫌そうなお爺さんが出迎えてくれた。

 僕よりも身長が高いから、ドワーフではないみたい。

 ちょっと期待してたのだけれど、残念。

 この世界にはエルフとかも居るのかな~?


 「あの~~鎧のサイズを調整してもらえますか?」

 「銀貨十枚だよ」

 「そ、それは高く有りませんか?銀貨五枚でも高すぎるくらいだ」


 お金を払う事になる師匠が、血相を変えて値段交渉を始めた。

 こういう時はお母さまが居てくれると助かるのだけれど……

 お母さまがお願いすると、大抵安くしてもらえるし、おまけまで付いてくるんだ~

 凄いよね。


 「ふん!これだから素人は困る。その鎧はベルトンのじゃろ?儂がオーダーメイドで作った特注品じゃ。本来なら断るところじゃわい」

 「くっ、言われてみれば確かに……。いや、済まなかった。その金額で頼もう」


 へ~このお爺さんは武具職人なんだね。


 「ねぇ、ルキ君~。せっかくだから、剣を買いましょうよ~。これなんかどうかしら?」


 マリア王女が金ピカの大きな剣に手を掛けている。

 確かに短剣だけじゃ心細いけれども、贅沢は良くないと思うんだ。


 「えっ、でもそこまでお金を出して貰うのは悪いから……」

 「ひ、姫様……何も考えずに一番高いのを選ぶのは止めてください」


 え~と値段は……金貨千枚……あははははは、お金を借りるにしても、一生返せない金額だよね~~?

 きっと……


 「ルキ様。ここのなら安いみたいよ?な、なんなら私がプレゼントしてもよろしくてよ?」


 アメリアさんが指差している樽には、剣や槍が無造作に入れられている。

 どれも薄汚れていて、中古品だと一目で分かる。


 「うわ、本当だ。銀貨五枚って書いてある」


 銀貨五枚が、現実世界のいくらになるのか知らないけれど、何となく大金では無い気がするよね。


 と、言っても僕は財布すら持っていないのだけれどね……

 それどころか僕は働けるのかも怪しかった。


 女神様のおかげで、今は目も見えるように成っているけれど、特殊効果には持続時間が有るらしい。

 いくら剣を装備出来るように成ったからと言って、当たらなければ意味がないものね。


 だから一番安いのでいいかな。


 「あっ、これはいくらですか?」


 一番下の棚の一番奥に埃を被った剣が横たわっている。

 長いこと誰も触っていないみたいで、蜘蛛の巣の下に隠れるようにして、ひっそりと置かれている。


 でも、僕には何となく、それが輝いているよう見えている。

 本当に光っているのではなくて、前に使っていた人がとても大切に使っていたのだろうな~って。

 今は分厚い埃をかぶっていて、鞘には沢山の傷があるけれど、ちゃんと修繕されている。


 「ほ~~、本当にそれでいいのか?」

 「うん。触ってみもいいですか?」


 お爺さんが髭を撫でながら、僕を見ている。


 「ふんっ、構わんよ」

 「ありがとうございます」

 「ねぇ、ルキ君……そんなに汚いのはよそうよ」

 「そうだぞ。ルキフェル殿。剣は戦士の魂だ。お金だけの問題ではないのだぞ。命のやり取りをしている時に折れでもしたら……」


 アメリアさんと師匠が心配してくれているけれど、僕は中古品が好きだ。

 みんなが言うほど悪い物ばかりじゃないんだよね。


 だって安くても売り物なのだから、ちゃんとお店の人が仕入れる時にチェックしてくれているんだよ。

 それに、ここのご主人は、僕が着ている鎧を一目見ただけで、先生の鎧だと分かっていた。

 きっと目利きも優れているのだと、僕は思うんだ。


 僕は剣に降り積もっている埃を払ってから、鞘から刀身を抜いてみた……


 見た目とは違い、音もなく鈍色に輝く刀身が姿を現して行く。

 しかも軽い!

 力の弱い僕にとっては、とっても助かる。


 「凄い……綺麗だ……」

 「なんて見事な刃をしてるんだ……曇りも無ければ、刃こぼれ一つしていないではないか……」


 僕が見事な剣に見とれていると、その上に字が浮かび上がってきた。


 ”古代の量産型ロングソード”


 へ~どうやら僕は、女神の瞳デア・アイリスの効果で、物品の鑑定も出来るみたいだ。

 それしても、古代ってどれぐらい古いのだろう?


 <約1000年前に、神々が世界の終焉ラグナロクに備えて量産した剣です>


 (ありがとう。天の声さん)


 天の声さんは自動音声らしいけれど、意外と親切みたい。

 これからもたまには話しかけてみよ~っと。


 「ふっん、好き放題言ってたくせに……掌を返しよって。それは儂が若い頃に使っていた剣じゃ。売り物じゃないから持って行くがいい。あと鎧も明日までには直してやろう」

 「ありがとうございます。あのお爺さんのお名前は?」


 「なぬ~爺だとーー!こう見えても儂はベルトンと同じ年じゃ!!まったく近頃の奴は……儂はバイトスじゃよ」

 「あ、すみません……。ありがとうございます。バイトスさん。僕はルキフェルです」


 何とバイトスさんは、ハーフ・ドワーフだった。

 職業クラスは鍛冶師で、副業サブクラス戦士ファイターだ。


 「ほぉ~随分と大層な名前じゃわい。カァーカッカッカッ」


 (ふ~~ん、ベルトンの奴め。随分と面白い餓鬼を連れて来よる。久しぶりに腕が鳴るの~~)

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