012.棚から金属鎧!?


 「お母さま~~!!…………」


 僕は霧の中を遠ざかるお母さまに向って、両手を思いっきり伸ばした。


 「あれ?ここはもしかしてベルトン先生の診療所かな?」


 色々な薬草が混ざった臭いに覚えがある。


「キュ!」


 僕の声に驚いたフェレットのビアンコが、ベットから飛び降りて部屋から出て行った。


 どうやら、僕は嫌な夢を見ていたみたい。

 沢山寝たからか頭がスッキリしているし、視界も晴れていて、どこまでもクリアだ。


 「アキル殿、ようやく意識が戻りましたか。良かった……」

 「サ、サクラ師匠!?どうしたんですか?その怪我は!!」


 隣りにあるベットに、左腕と胸に包帯が巻かれた美少女剣士が横になっている。

 包帯の長さが足りなかったのか、膨らみが少しだけ見えていたりする。


 「まさか君があそこまでの威力の魔法を使えるとは思いませんでした。まだまだ私も未熟ですね」


 少年が放った大落雷ラージ・サンダーは、女神の応援デア・エールの効果で、威力が三倍に跳ね上がっていた。

 半径30mにもおよぶ地面が円状に焦げるだけでなく、クレーターのように大きく抉れてしまっている。

 そして攻撃範囲内にいたサクラは、雷の直撃を免れたものの、大怪我を負ってしまったのだった。


 「いえ、僕こそ初めて魔法を使ったとはいえ、師匠を巻き込んでしまって……」

 「まさか本当に初めて使ったと言うのか?!冗談じゃない……いきなり大魔法を、しかもあの威力で放つなんて不可能だ……。いや、そもそも最初にマンティコアのブレスから救ってくれたのは、アキル殿だったな……本当に君は何者なんだ?」


 師匠がいつになく真剣な表情で聞いて来る。

 どうやら、僕が思っていた通り、大魔法を使えることは凄いことらしい。


 「実はですね師匠、驚かないで聞いてくださいね……」


 明星ルキフェルは、マンティコアのブレス攻撃を受ける直前に、女神に出会い魔法戦士に成った事を話した。

 流石にエックスの部分までは話さなかったが……


 「えぇえぇ~異世界人だけでなくって、今度は魔法戦士ですか~!?それよりも今、特殊効果で目がよく見えるといいましたよね??ね??」

 「はい!皆さんはこんなに綺麗に、はっきりと見える世界で、生きていたのですね!!」


 僕はこれまで、ぼんやりとした世界の中で生活を送って来た。

 それだというのに、今は素晴らしい世界が広がっている。

 僕の事を見つめている師匠の澄んだ瞳と、まつ毛だってよく見える。


 「じゃ、じゃあ……今も良く見えているのですよね?!」

 「はい!はっきり、くっきりと良く見えてますよ!」


 僕は嬉しかった。

 これで普通の人と同じに成れたと。


 「キ、キャーー見ないでくださーーーーーい!!」


 (あれ?またやっちゃったのかな?)


 顔を真っ赤にした師匠が、布団の中に潜ってしまった……

 包帯が巻かれている胸を見られたからかな??

 お母さまよりも小さいし、僕は何とも思っていないのだけれど。


 「お、目が覚めたようだね?アキル君。また婚約者が増えたのかな?」

 「えっ、それはないかと……。あっ、それよりも、また助けて貰ったみたいで、ありがとうございます。先生」


 僕は部屋に入って来たベルトン先生にお礼を言った。

 先生に助けてもらったのは、これで二度目になる。


 「元気そうで良かった。君は怪我をしてないようだし、早速で悪いけど話を聞かせて貰ってもいいかな?」

 「はい」


 僕は先生に連れられて、立派な机がある部屋にやって来た。

 どうやら先生の執務室のようだ。


 とても綺麗に整頓された部屋の隅には、ピカピカに磨かれた鎧や剣が飾ってある。


 普段は、のほほんとしている先生と、今日はなんだか雰囲気が違う気もする。


 「街の外に大きな穴が空いているけど、あれは君がやったと言うのは本当なのかな?」

 「えっ、そんなに大きな穴なのですか?僕、魔法を使った後のことをよく覚えていなくて……」


 「はぁ~なるほどね。初めてなのに大魔法を発動して、MPマジック・ポイント切れを起こして意識を失った……と言うところかな。全てを話してくれるね?」

 「はい……」


 僕はもう一度、マンティコアが出て来て、死にそうになったところで、女神様に出会った事を話した。


 「凄いじゃないか。魔法戦士は1万人に1人が成れるかどうかのレアクラスだよ。あ~でも魔法戦士じゃ~金属鎧を着る事はできないか~~。君が戦士か勇者だったら、そこのフルプレートアーマーをプレゼントしようと思ってたんだけどね」

 「えっ、いいのですか?もしかしたら着る事が出来るかもしれません!」


 僕は願ってもない幸運に喜んだ。

 そう、先生にも恥ずかしいから内緒にしたのだけれど、僕がなったのは魔法戦士Xだ。

 女神様から貰ったスキルに、全鎧アーマー・マスタリーというのがある。

 初めに魔法戦士に成った時には、先生が言う通り、初級皮鎧ビギナー・レザー・アーマーだったのだけれど、女神様が編集してくれたのだ。

 ちょっと狡い気もするけれど、折角だからいいよね?


 早速、僕は先生に手伝って貰って、ピカピカの鎧を身に付けてみた。


 「ははは、君もやっぱり男の子なんだな。ただ装備出来たとしても、この重量物を身に付けて戦闘をするには厳しい訓練を受けないと……って、おい、嘘だろ……」


 先生が言う通り、この全身金属鎧フルプレートアーマーはとっても重いのだけれど、着てみると普通に動く事が出来た。

 走る事は勿論、ジャンプだって出来る。

 でんぐり返しだって、きっと出来るよ。


 「騎士に成ったとしても、中金属鎧ミドル・プレート・アーマーのスキルを習得するまでは、走る事が出来ないと言うのに……」

 「あっ、僕……上級全鎧アドバンスド・アーマー・マスタリーだからかな……。あっ、ベルトン先生って騎士だったんですね。それに副業が医師だなんて凄いです」


 お医者さんの先生が鎧の事に詳しいから、不思議に思って先生の顔を見ていたら、ステータスが表示されたんだ。

 そこには僕と同じように、職業クラスだけでなく、能力値アビリティ技能スキルまでが書かれている。


 「えっ、まさか君は鑑定まで使えるのかい?」

 「鑑定?ん~~鑑定スキルは有りませんけれど……あっ、女神の瞳デア・アイリスの影響かも知れません……」


 「私のステータスを見たんだ、君のステータスも包み隠さず話してもらおうか?」


 うわ、先生のメガネが光ったよ!


 なんだか恥ずかしいけれど、僕は名前がルキフェルに変わった事も、魔法戦士Xの事も全部読み上げた。

 そして今、気が付いたのだけれど、僕のユニーク・スキルは、女神の寵愛デア・フェイバリットだけじゃなくて、ラッキースケベも持っていた。

 どうりで、色々な事が周りで起こるわけだ。


 因みに先生のユニーク・スキルは女難ウーマン・トラブルだった。

 僕もそうだけれど、ユニークスキルって良い事ばかりじゃないんだね。


 「なるほど。それで肌や髪の色だけではなくて、瞳の色まで変わっていたんだね」

 「えっ?!そうなんですか!!」


 先生に教えて貰って気が付いたけれど、確かに僕の手の色が変わっていた。

 白いのは変わらないのだけれど、前は血管が透けて見えていたのに、今は人形みたいに白くて、しかも部屋の明かりを反射して少しだけ光っている。


 そして鏡を覗き込んでみると、知らない人と目が合った。

 髪の毛は肌と同じようにキラキラと輝いていて、白に近い金色をしている。

 そして瞳なんだけど……青空と同じ色をしていた。


 ここで、少しだけ捕捉しよう。

 アルビノだった少年の肌と髪の色は女神の美肌効果で、肌はパール・ホワイト、髪は品のあるプラチナ・ブロンドになっている。

 そして血の色をしていた瞳は、女神の瞳の効果で、アクアマリンのように澄んだ青色となった。

 その宝石のような透き通った瞳は、光の加減でエメラルドグリーンやシルバーにも見える。

 ざっと容姿はこんなところです。


 そんなこんなで、僕と先生の間には秘密が無くなった。

 年は離れているけれど、なんだか親友になったみたい。


 因みにベルトン先生は貴族の長男だったのだけれど、ユニーク・スキルの女難ウーマン・トラブルのせいで結婚が出来なくて、弟に家督を譲ったそうです。


 「そんなわけで王から頂いた剣だけは、あげることが出来ないけど、もう要らないから鎧はあげるよ。あっ、家紋が付いてるから悪さはしないでくれよ?」

 「はい!ありがとうございます。でもこれ高いですよね?」


 「ああ、オークの一撃すら防ぐ逸品だからね。あっ、これもあげよう。護身用ぐらいにはなるだろう」


 先生が豪華な飾りが付いた短剣までくれた。


 「何から何まで……お金がない僕に……」


 さすがに貴族だけあって、先生は気前が良いみたい。

 特に短剣の柄に付いてる赤い宝石が、とっーーーても高そうに見える。

 しかも鞘から抜いてみると、物凄く鋭い刃が出てきた。

 どうやら儀礼用では無くて、本当に戦う事が出来るようだ。


 「そうそう、鎧が大きいみたいだから、ここの武器屋でサイズを直してもらうといい」

 「確かに……そうですね」


 鎧を着るのは始めてだから気が付かなかったけれど、大人が着てたのだから大きいのは当たり前だよね。

 固定用のベルトに穴を追加すれば、なんとか行けそうだけれど、どうなのだろう?

 先生から武器屋の地図を貰ったから、行ってみれば分かるかな。


「あっ、あと私のユニーク・スキルの事は内緒にするように。それに他人のステータスを見ても口に出してはいけないよ。プライバシーの侵害になるからね」

 「分かりました!では早速、武器屋さんに行ってみます!!」


 ルキフェルは鎧を着たまま、部屋から飛び出した。


 その様子を、ベルトンが眩しそうに眺めている。

 自分たちにも同じような時期があったなと。


 (ヤレヤレ、本当に規格外の少年だな。金属鎧を着て大魔法とか……小隊よりも強いんじゃないか?しかも全魔法って事は神秘魔法以外も扱えると言うことだよな……。もしかしたらファフニールを倒すのも夢じゃないかも知れないか……。あっ、そうすると我が家の名があがってしまうのかな?まぁ~、その時はその時か……)


 そして彼はため息を吐くと、机に向き直るのだった。

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