009.魔法戦士X爆誕!?
本来は勇者になるはずだったルキフェルを、代わりとして魔法戦士に転職させてみたものの、女神イーリスは悩んでいた。
(勇者は
「う~~ん、でもこれじゃ~魔王は倒せないわよね……仕方がないか~。本当はいけないんだけど、少し編集しちゃおうかな~」
「えっ、えええ~~!!ちょっと待ってください。ま、魔王って、魔王って何のことですか!?」
僕はお母さまと平和に暮らしたいだけなのに……
魔王を倒すって、世界を救うってやつでしょ?
ひ弱な僕には、とても無理だよ~~
「あ~~こっちの事だから気にしない、気にしない。それよりもそうだわ!ここをこうして、こうやって、これでどうだ!」
<
<
<
<ブッブーー。
「なんか天の声さんが怒ってますけど?」
「ああ~~気にしないで。声は運命の女神だけど自動音声だから。それならクラス名も変えてあげるわよ!これでどうだ!」
<ブッブーー。
「なんですとーーー!じゃ、これなら」
<ブッブーー。魔法戦士2《マジック・ファイター・ツー》には変更出来ません。安直すぎます。次は
「はぁ、はぁ、じ、自動音声のくせに生意気な……」
「それだったら魔法戦士Xはどうですか?」
何たらXって、謎めいていて格好いいよね。
<
「なぁーーー、それだって安直じゃなーーーい」
<…………>
「今度は無視かーーい!!!も~~怒ったわ。それならスキルは自由にさせてもらうからね」
<
<
<
(ふふふ、面倒だから初めっから上級と大魔法にしてあげたわ)
何か、女神さまの鼻息が荒くなっている。
どうやら暴走してしまったらしい。
「うわ~大魔法だって凄いな~。でも僕アルビノだから本当に戦えるのかな~。目もあまり見えないし……剣が当たるのか心配だよ……」
「えっ、あなた本当に目が悪いの?じゃ~もしかして私のビューーーティフルな裸を見てないというの!?」
もしかして、女神様は裸を見て欲しかったのかな?
普通は下着を見られただけで、文句を言ってくるのにね。
それにしても、水着のビキニと下着って何が違うのだろう?
「う~ん、ぼんやりとしか見えてないかな。今も女神さまの顔が良く見えていないし……」
(それじゃ~裸を見たから責任を取ってって、迫れないじゃないのよ!!)
「あははははは……そう、そうなんだ……でも任せて。お姉さんが直ぐに見えるようにしてあげるから。あら、お肌も弱いのね真っ赤じゃない」
女神さまが僕の右手を持つと、舌を小さく出してペロリと舐めた。
「えええ!」
いきなり舐められて驚いている僕の体を、淡い光が包み込む。
<
うわぁ、何だか身体が温かくなってきた。
「あとちょっと、目を閉じてね」
今度は女神さまの唇が、僕の目に近づいて来ている。
(えっ、ええ~~キ、キ、キスされちゃうのかな~~)
ギュッ
「ふ~~~」
温かくてほんのりと甘い香りがする風が、硬く閉じたまぶたに当たっている。
<
「えっ、凄い…………」
開いた僕の目に時間が止まって、灰色になっている世界が飛び込んで来た。
木や草だけでなく、空高く飛んでいる小鳥の羽までがはっきりと見える。
そして目の前に立っている女神さまの、キラキラと輝く髪の毛が、風が無いのに揺れているのもよく見えている。
「ふふふ、どう?私の美貌は?」
「は、はい……とっても輝いていて、その……神秘的で美しいです……。あっ、でもほっぺたに赤いニキビが……」
「あははは、そんなところは見なくてもいいのよ~~、僕~~。あっ、あとオプションは時間が経つと消えるから、気をつけてね。それじゃー最後に取って置きのご褒美を上げるわね」
また女神さまの綺麗な顔が近づいて来た。
チュ
(うわっ!)
今度はオデコにキスをされてしまった。
<
「あああーーー!!!何をなさっているんですかーーーーー!!!イーリス様!!!!」
突然、空に浮かんでいる雲から、小さなキューピットがすっ飛んで来た。
「あら。チョビじゃない。どうしたの血相を変えて」
「どうしたのじゃないですよ!!!こんなクソガキに、キ、キスをして!!!どうして僕にはしてくれないんですかーーー!!」
キューピットが向きになって、唾を吐きながら喚いている。
「あんたみたいなチンチクリンにするわけが無いじゃない」
「酷い、それは余りに酷い仕打ち……これも全てこのくそガキのせいなのです!!」
小さな羽根をパタパタと羽ばたかせているキューピットが、少年に向けて小さな弓を向けた。
「うわぁ~、何で僕のせいになるの~」
スパン!
狙いが逸れた鉛色の矢が、ルキフェルの足元にある地面に刺さる。
「きゃ~私のルキ君に何てことするの~!!罰としてアナタにはルキ君のお母さまの護衛を命じます」
「そんな~殺生な~~」
あっという間に退場処分となったキューピットが両手を握りしめて懇願している。
「私の言う事を聞かないと、人間に戻れないわよ?」
この世界のキューピットや、小さなエンジェル達は、天へ昇った人間の魂が形作った者である。
そして神によって一定の功績が認められた者のみが、再び人間へと生まれ変わる事が出来るのであった。
「はぁ~~、はいはい。行けばいいんですよね。行けば……まったく、何で僕がこんなクソガキの……」
ブツブツと言いながら、のんびりと飛び去るキューピットに女神の雷が落ちる。
「いいから……早く行きなさい!!」
「はひぃーーー!!」
可愛らしいお尻から煙を立ち昇らせるキューピットが、矢よりも早く空の彼方へと飛んでいった。
一見、いい加減そうに見える虹の女神イーリスだが、キューピットに少年の母の護衛を命じたのには意味がある。
女神の使命、それは勇者が魔王を倒すまで、その行いを見守り、必要と有れば影から手助けをすること。
と言っても勇者である
本来であれば勇者である母が魔王を倒さなければならないわけで、そこは目をつぶるとしても、最低でも魔王が討伐されるまでは、勇者に生きていてもらう必要があると女神は考えたのだ。
「ふ~~、アハハハハハ、ごめんなさいね。あの子、いたずらっ子で困ってるのよ~~♪」
「そ、そうみたいですね……」
鬼の形相から女神の微笑みに早変わりしたイーリスに、少年がドン引きしている。
「あらやだ~~、もう、こんな時間。ルキ君。早くお仲間を移動してあげないと、強酸性の猛毒ブレスを頭から被って溶けてしまうわよ?」
「えええ~~それは早く言ってくださいよ~~」
女神ののんびりとした口調とは裏腹に、その内容は壮絶な物だった。
ルキフェルと名前が変わった少年が、マネキン人形のようになった王女へと駆け寄る。
「うふふ、素直で可愛い子。あっそうだ。このままじゃ、魔法が使えないから、一つだけプレゼントしてあげるわね。チュ」
麗しき女神が放った投げキッスが、少年の胸の中へと吸い込まれる。
<
必死の思いで王女を担いで避難させたルキフェルが、今度は小柄な美少女剣士をお姫様抱っこする。
<
「えぇえぇ~~いま~~」
少女の身体をギリギリで抱える事が出来ていたというのに、王女が掛けたバフ効果が切れて、体から力が抜けてしまった。
非力な少年が美少女剣士を落としてしまいそうになる。
「じゃ、またね~~ルキ君~♪頑張ってね~~」
<
虹の女神イーリスの姿が消えると同時に、世界に色が戻った。
「うわぁあ~~」
今度は、少年の腕に力が入りすぎてしまい、少女を空高く放り投げてしまった。
「キャ~~~~」
茫然と空を見上げているルキフェルが、紫色の煙に包み込まれてしまう。
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