009.魔法戦士X爆誕!?

 本来は勇者になるはずだったルキフェルを、代わりとして魔法戦士に転職させてみたものの、女神イーリスは悩んでいた。


 (勇者は神秘魔法ルーン・マジックだけじゃなくて、神聖魔法セイクリッド・マジックも使えるのよね~。しかも両方とも巨大ヒュージ・クラスまで覚えられるし……魔法戦士マジック・ファイター大神秘魔法ラージ・ルーン・マジックまでだから見劣りするのよね。これじゃ~どう見ても勇者の劣化版よ……鎧だって皮鎧だけだし……)


 「う~~ん、でもこれじゃ~魔王は倒せないわよね……仕方がないか~。本当はいけないんだけど、少し編集しちゃおうかな~」

 「えっ、えええ~~!!ちょっと待ってください。ま、魔王って、魔王って何のことですか!?」


 僕はお母さまと平和に暮らしたいだけなのに……

 魔王を倒すって、世界を救うってやつでしょ?

 ひ弱な僕には、とても無理だよ~~


 「あ~~こっちの事だから気にしない、気にしない。それよりもそうだわ!ここをこうして、こうやって、これでどうだ!」


 <技能スキル初級剣ビギナー・ソードから初級全武器ビギナー・ウエポン・マスタリーに変更されました>

 <技能スキル初級皮鎧ビギナー・レザー・アーマーから初級全鎧ビギナー・アーマー・マスタリーに変更されました>

 <技能スキル小神秘魔法スモール・ルーン・マジックから全魔法マジック・マスタリーに変更されました>

 <ブッブーー。魔法戦士マジック・ファイターでは、この技能スキルを取得できません>


 「なんか天の声さんが怒ってますけど?」

 「ああ~~気にしないで。声は運命の女神だけど自動音声だから。それならクラス名も変えてあげるわよ!これでどうだ!」


 <ブッブーー。新魔法戦士ニュー・マジック・ファイターには変更出来ません。魔法戦士の価値が下がるので却下します>


 「なんですとーーー!じゃ、これなら」


 <ブッブーー。魔法戦士2《マジック・ファイター・ツー》には変更出来ません。安直すぎます。次はスリーですか?>


 「はぁ、はぁ、じ、自動音声のくせに生意気な……」

 「それだったら魔法戦士Xはどうですか?」


 何たらXって、謎めいていて格好いいよね。


 <職業クラス魔法戦士マジック・ファイターから魔法戦士X《マジック・ファイター・エックス》に変更されました>


 「なぁーーー、それだって安直じゃなーーーい」

 <…………>


 「今度は無視かーーい!!!も~~怒ったわ。それならスキルは自由にさせてもらうからね」

 

 <技能スキル初級剣ビギナー・ソードから上級全武器アドバンスド・ウエポン・マスタリーに変更されました>

 <技能スキル初級皮鎧ビギナー・レザー・アーマーから上級全鎧アドバンスド・アーマー・マスタリーに変更されました>

 <技能スキル小神秘魔法スモール・ルーン・マジックから全大魔法ラージ・マジック・マスタリーに変更されました>


 (ふふふ、面倒だから初めっから上級と大魔法にしてあげたわ)


 何か、女神さまの鼻息が荒くなっている。

 どうやら暴走してしまったらしい。


 「うわ~大魔法だって凄いな~。でも僕アルビノだから本当に戦えるのかな~。目もあまり見えないし……剣が当たるのか心配だよ……」

 「えっ、あなた本当に目が悪いの?じゃ~もしかして私のビューーーティフルな裸を見てないというの!?」


 もしかして、女神様は裸を見て欲しかったのかな?

 普通は下着を見られただけで、文句を言ってくるのにね。

 それにしても、水着のビキニと下着って何が違うのだろう?


 「う~ん、ぼんやりとしか見えてないかな。今も女神さまの顔が良く見えていないし……」


 (それじゃ~裸を見たから責任を取ってって、迫れないじゃないのよ!!)


 「あははははは……そう、そうなんだ……でも任せて。お姉さんが直ぐに見えるようにしてあげるから。あら、お肌も弱いのね真っ赤じゃない」


 女神さまが僕の右手を持つと、舌を小さく出してペロリと舐めた。


 「えええ!」


 いきなり舐められて驚いている僕の体を、淡い光が包み込む。


 <特殊効果オプション女神の美肌デア・ビューティフル・スキンが付与されました>


 うわぁ、何だか身体が温かくなってきた。


 「あとちょっと、目を閉じてね」


 今度は女神さまの唇が、僕の目に近づいて来ている。


 (えっ、ええ~~キ、キ、キスされちゃうのかな~~)


 ギュッ


 「ふ~~~」


 温かくてほんのりと甘い香りがする風が、硬く閉じたまぶたに当たっている。


 <特殊効果オプション、女神のデア・アイリスが付与されました>


 「えっ、凄い…………」


 開いた僕の目に時間が止まって、灰色になっている世界が飛び込んで来た。

 木や草だけでなく、空高く飛んでいる小鳥の羽までがはっきりと見える。

 そして目の前に立っている女神さまの、キラキラと輝く髪の毛が、風が無いのに揺れているのもよく見えている。


 「ふふふ、どう?私の美貌は?」

 「は、はい……とっても輝いていて、その……神秘的で美しいです……。あっ、でもほっぺたに赤いニキビが……」


 「あははは、そんなところは見なくてもいいのよ~~、僕~~。あっ、あとオプションは時間が経つと消えるから、気をつけてね。それじゃー最後に取って置きのご褒美を上げるわね」


 また女神さまの綺麗な顔が近づいて来た。


 チュ


 (うわっ!)


 今度はオデコにキスをされてしまった。


 <固有技能ユニーク・スキル、女神の寵愛デア・フェイバリットを獲得しました>


 「あああーーー!!!何をなさっているんですかーーーーー!!!イーリス様!!!!」


 突然、空に浮かんでいる雲から、小さなキューピットがすっ飛んで来た。


 「あら。チョビじゃない。どうしたの血相を変えて」

 「どうしたのじゃないですよ!!!こんなクソガキに、キ、キスをして!!!どうして僕にはしてくれないんですかーーー!!」


 キューピットが向きになって、唾を吐きながら喚いている。


 「あんたみたいなチンチクリンにするわけが無いじゃない」

 「酷い、それは余りに酷い仕打ち……これも全てこのくそガキのせいなのです!!」


 小さな羽根をパタパタと羽ばたかせているキューピットが、少年に向けて小さな弓を向けた。


 「うわぁ~、何で僕のせいになるの~」


 スパン!


 狙いが逸れた鉛色の矢が、ルキフェルの足元にある地面に刺さる。


 「きゃ~私のルキ君に何てことするの~!!罰としてアナタにはルキ君のお母さまの護衛を命じます」

 「そんな~殺生な~~」


 あっという間に退場処分となったキューピットが両手を握りしめて懇願している。


 「私の言う事を聞かないと、人間に戻れないわよ?」


 この世界のキューピットや、小さなエンジェル達は、天へ昇った人間の魂が形作った者である。

 そして神によって一定の功績が認められた者のみが、再び人間へと生まれ変わる事が出来るのであった。


 「はぁ~~、はいはい。行けばいいんですよね。行けば……まったく、何で僕がこんなクソガキの……」


 ブツブツと言いながら、のんびりと飛び去るキューピットに女神の雷が落ちる。


 「いいから……早く行きなさい!!」

 「はひぃーーー!!」


 可愛らしいお尻から煙を立ち昇らせるキューピットが、矢よりも早く空の彼方へと飛んでいった。


 一見、いい加減そうに見える虹の女神イーリスだが、キューピットに少年の母の護衛を命じたのには意味がある。


 女神の使命、それは勇者が魔王を倒すまで、その行いを見守り、必要と有れば影から手助けをすること。

 と言っても勇者である真理子マリアには、その能力も意思も無い訳で、代わりにというか本来、勇者になるはずだった明星ルキフェルに新たな力を与えたわけだが。


 本来であれば勇者である母が魔王を倒さなければならないわけで、そこは目をつぶるとしても、最低でも魔王が討伐されるまでは、勇者に生きていてもらう必要があると女神は考えたのだ。


 「ふ~~、アハハハハハ、ごめんなさいね。あの子、いたずらっ子で困ってるのよ~~♪」

 「そ、そうみたいですね……」


 鬼の形相から女神の微笑みに早変わりしたイーリスに、少年がドン引きしている。


 「あらやだ~~、もう、こんな時間。ルキ君。早くお仲間を移動してあげないと、強酸性の猛毒ブレスを頭から被って溶けてしまうわよ?」

 「えええ~~それは早く言ってくださいよ~~」


 女神ののんびりとした口調とは裏腹に、その内容は壮絶な物だった。

 ルキフェルと名前が変わった少年が、マネキン人形のようになった王女へと駆け寄る。


 「うふふ、素直で可愛い子。あっそうだ。このままじゃ、魔法が使えないから、一つだけプレゼントしてあげるわね。チュ」


 麗しき女神が放った投げキッスが、少年の胸の中へと吸い込まれる。


 <神秘魔法ルーン・マジック大落雷ラージ・サンダーを取得しました。>


 必死の思いで王女を担いで避難させたルキフェルが、今度は小柄な美少女剣士をお姫様抱っこする。


 <応援エールの効果が消えました>


 「えぇえぇ~~いま~~」


 少女の身体をギリギリで抱える事が出来ていたというのに、王女が掛けたバフ効果が切れて、体から力が抜けてしまった。


 非力な少年が美少女剣士を落としてしまいそうになる。


 「じゃ、またね~~ルキ君~♪頑張ってね~~」


 <女神の応援デア・エールの効果が発動しました>


 虹の女神イーリスの姿が消えると同時に、世界に色が戻った。


 「うわぁあ~~」


 今度は、少年の腕に力が入りすぎてしまい、少女を空高く放り投げてしまった。


 「キャ~~~~」


 茫然と空を見上げているルキフェルが、紫色の煙に包み込まれてしまう。

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