006.運命の人?!

 目が覚めると、柔らかい太ももの上だった。


 「あれ?ここは?」


 明るい部屋のせいでよく見えないけれど、背中から伝わる感触から柔らかいベットの上だと判る。

 そして甘い香りにつられて上を見てみると、ピンク色の髪をしたお母さまが居た。


 「よかったわ。目が覚めたのね……」


 その優しい声も間違いなく、お母さまだった。

 膝枕をしてもらったのは、いつ以来の事だろう…………


 「母さま、お城から戻って来れたのですね。よかった……」

 「えっ!おっ、お城……な、なんの事かしら~アハハハハ…………、それに私はあなたの母親では無いわよ?……まだ二十歳はたちだから……」


 やはり、お母さまは嘘が下手だった。


 「えっ!?ハタチ??」


 また頭が混乱してきた。

 お母さんは本当に僕を、8歳の時に産んだのだろうか……


 「わぁっ、わぁ、あ、あんまり恥ずかしいから年齢の事は言わないでよね。それよりも君、私と結婚してみない?」

 「えっ、はい?!えぇええええ~~~また~~~……」


 僕は思わず大好きなお母さまと結婚出来ると知って返事をしかけたけれど、色々と話がおかしかった。


 そもそもお母さまは年齢を絶対に教えてくれないし、親子で結婚が出来るはずがない。

 いくら異世界でも、それはさすがに無いと思うんだ。

 いや、出来る事なら……イヤイヤ、良い子はそんなことを考えてはいけません。


 「なによ~。もう私の胸に顔を埋めたんだから。それぐらい責任を取っても罰は当たらないと思うのよ~?それに、もう~~運命の人と決めたんだから~~。きゃーーー恥ずかしいわ~~。私ったらどうしましょう~~」


 謎の女性がモコモコとした毛に覆われているぬいぐるみを胸に抱いて、ブンブン振り回している。


 「はぁ~……そういうものですか…………。それよりも本当に僕のお母さまでは無いのですよね?……あっ、もしかしてあなたがマリア王女様なのですか?」


 「えっ?な、何で知ってるのかな~~?!僕……」


 ようやく点と点が線で繋がって来た。


 僕はお城から逃げ出した本物の王女様を、お母さまと間違えて思いっきり抱き着いてしまったらしい。

 しかもオッ……いや、確かに大きくはなかったけれど、柔らかい……その胸に顔を…………

 という事で、また責任を取らないといけないらしい。


 はぁ~~胸の大きさが違うところで、気が付けばよかった……僕としたことが…………


 「姫様!お言いつけ通り、ポーションを買っ……な、何をしてるんだーーー貴様ーーーー!!」


 またあの美少女剣士が、鬼の形相ですっ飛んで来た。

 あまりの素早い動きに、途中から姿が消えている。

 しかも銀色の線が見えているんですけど……


 「止めなさい!サクラ。この方は私の運命の人です。無礼は許しませんよ」

 「えっ!姫様、今なんと……」


 一瞬にして氷みたいに固まった美少女剣士が、今にもひび割れて崩れ去りそうだ。


 「だ~か~ら!運命の……人なのよ。もう~恥ずかしいから、何度も言わせないでよね?」

 「き、きさ……もとい……ん?あの~姫様。こちらのお方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 「ん?え~~っと、何だったかしら?」

 「なっ、名前も知らない人とご婚約されるのですか!?」


 こうして僕に二人目の婚約者が出来てしまいましたとさ。

 おしまい。


 (はぁ~~……)


 かなり不味い気がするけれど、相手は本物の王女様らしいので、逆らえないところが辛い所です。

 などと、冷静に流そうとしたけれど無理だった。


 頭の中で、赤毛の少女が注射器をもって笑っているのが見えている。


 (嫌だーーー!アメリアさんに殺されるかもーーーー!?)


 という事で、僕は正直にこれまでに起こったことを、包み隠さず全て話した。

 別の世界から来たことも、お母さまが王女様と間違われて、お城に連れていかれた事も含めて全てだ。

 もちろん、アメリアさんという婚約者が既にいる事も伝えた。


 「まぁ~~そういう事だったのね。でも安心して。そのアメリアと言う子は側室にすればいいから」

 「へっ?マリア王女様……。今はそこが重要ではなくてですね……僕は母さまを連れ戻したいのですが……」


 「あ~~それなら簡単だわ。貴方が邪欲竜ファフニールを倒せばいいのよ~。そうすれば父さま、じゃなかった。王様から好きなだけ褒美を貰えるから、貴方は母を望めばいいのよ」


 (そうすれば、私は貴方と結婚できるしね。うふふ)


 実はこの国の王は娘のマリアを溺愛するあまり、彼女の結婚相手の条件として、邪欲竜ファフニールを倒す事と決めていたのだ。

 しかし勇者が存在しないこの時代において、それはあまりにもハードルが高すぎる条件だった。

 邪欲竜はドラゴンの頂点に君臨する邪龍の内の一体なのだから。


 そしてこの世界においての適齢期(15~20)を超えてしまうと焦った王女は城を抜け出して、自ら結婚相手を探していたのだった。


 「邪欲竜ってドラゴンですよね……それもかなり上位の…………」

 「大丈夫よ~。ほら、私達も手伝うし。ねぇ?サクラ。アキル様に剣を教えて差し上げて」

 「わ、私がですか…………し、しかも邪欲竜と戦うなんて無謀にもほどが……」


 凄腕の美少女剣士が顔を青ざめさせている。

 邪欲竜というネーミングからして、そうとう危険度MAXな相手なのだと思う。


 というかファフニールって、ボスクラスだよね?

 MMOだったらレイドボスとか?

 1パーティーでは絶対に倒せない部類の…………うん、僕には絶対無理。


 「あら~、私のお願いが訊けないのかしら?!」

 「い、いえ。謹んで拝命はいめいいたします」


 良く分からないうちに僕は、サクラさんから剣を習って、邪欲竜を倒すことになってしまった。

 あれ?今日は仕事を探す予定だったけれど、これでいいのかな?


 あっ、戦士も立派な職業だから、きっといいんだよ……ね!?

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