005.出会いは突然に!?

 という事で、僕は異世界に来て早々、赤毛の美少女と婚約してしまった。

 まだ、魔法も剣も使えないというのに……


 しかもこの世界では12歳で働くことが出来る。

 というかアメリアさんによると、殆どの庶民は12歳で働くらしい。

 学校に通えるのは裕福な家の子供だけだと。


 因みにベルトン先生は貴族の生まれらしく、20歳まで学校に通っていたそうだ。

 それも先生は中々のイケメンだと言うのに、いまだに独身だというのだから驚きだよね。


 きっと大勢の女性が先生の事を好きになったことだろう。


 アメリアさんも密かにというか、堂々と先生を狙っていたみたいだけれどね。

 それでも、僕とキスをしてしまったから仕方なく、婚約したという訳だ。

 そう考えると、なんだかんだ複雑な気分になる。

 しかも、まだ出会って数日しか経っていないし、お互いの事をまだ何も知らないわけで。

 これからの事を考えるとちょっと不安。


 話がそれちゃったけれど、そんなわけで僕は今、仕事を探しに街に出ている。

 これまではお母さまに頼りっきりだったけれど、これからは僕も働いて少しは楽をしてもらえたらと考えている。

 そして行く行くは僕が稼いだお金で、お母さまとアメリアさんの3人で暮らせたらな~何てね。


 今はサングラスがないから、ちょっと眩しいけれどフードを深く被れば何とか成りそうだ。

 そういえばベルトン先生が、持ち手があるオシャレなオペラグラスを貸してくれた。

 それを使えば、視力が低い僕でも遠くを見渡すことが出来る。


 さすがに貴族だけあって、演劇を見る時に使っていた物らしい。

 これがあれば日陰からだけど、街の様子を観察出来るんだ。

 お店の前に木の樽が置かれていたりして、本物の西部劇みたいで楽しい。


 そんな感じで寄り道をしながら、僕は先生に貰った地図を頼りに仕事の斡旋所に向かっていると。

 後ろの方から竜巻のような突風が襲い掛かって来た。


 「「「きゃ~~…………」」」


 買い物をしている母娘や、八百屋のお姉さんのスカートが次々とめくれていく。

 そして色とりどりにパンツが……


 「あっ」


 フードを押さえている僕の手から、地図が風に乗って飛んでいってしまった。


 それがヒラヒラとゆれて屋根よりも高く、空に向かって舞い上っていく。

 その時、大きな影が僕を追い越して行った。


 「えっ、何あれ……」


 街の上空をゆったりと通り過ぎる大きな青いトカゲが、高度を上げるために体よりも大きな翼を一振りした。

 コウモリのような翼に大気が巻き込まれて、渦を巻いて竜巻になる。


 竜巻に巻き込まれてしまった僕の地図が、目に見えない刃で切り刻まれ、紙吹雪となって空を舞う。


 「凄い……ブルードラゴンだ…………」


 明星あきらは風にはためくフードを押さえるのも忘れて、その勇壮な姿に見惚れている。

 竜巻の余波を受けた色とりどりの瓦が屋根から飛ばされ、商店街を行き交う人々の頭上を次々と襲う。


 「あっ、危ない」


 一枚の赤い瓦が、スカートを押さえている幼女に向って落ちていく。

 それに気が付いた明星が反射的に飛び出した。

 幼女に覆いかぶさった青いパーカーに、赤い瓦が当たろうとした、その瞬間。


 スパッァン!!


 銀色の光が線となり、瓦を粉砕した。


 「ふ~~、危ない所でした」


 藍色のワンピースを着た娘が、細い息を吐きながら細身のロングソードを腰の鞘に戻す。

 ノースリーブからは細い腕がスラリと伸び、とても一撃のもとに瓦を打ち砕いた剣士には見えない。

 丈の短いスカートが突風に翻弄され、ほっそりとした白い足と、そして赤い布をチラチラと覗かせている。


 「あ、ありがとうございます」

 「いえ、あなたこそ勇敢な行動で……キャッ、み、見ましたね……」


 僕の視線に気が付いた美少女剣士が、頬を真っ赤にして慌ててミニスカートを押さえた。

 ヒラヒラと動くスカートを見ると、反射的に視線が行ってしまうのは、男子だから仕方がないと僕は思うんだ。


 「あの~~……お兄ちゃん。ありがとう……」


 今度は僕の下から、恥ずかしそうにした小さな女の子が声が聞こえてきた。


 「え?あっ、大丈夫だった?怪我はない?」


 女の子を庇うために抱き着いてたのを忘れていた僕は、慌てて離れると誤魔化すように女の子の身体を確認した。


 「う、うん。どこも痛くないよ。でも……チコをお嫁さんにしてくれる?」

 「えっ、ちょっと待ってね…………」


 (何でそうなるのさ~~)


 「ハハハ、いいではないですか。命の恩人なんですから」


 僕を助けてくれた美少女剣士が、他人事のように爽やかに言い放った。

 やっぱり、この世界は少し変わっているようだ。


 「なら、あなたは私の命の恩人なのですから。僕と結婚してくれますか?」


 何となくムっとしたので、試しに言ってみた。

 勿論、本気ではない。

 そしたら澄ました顔が、あっという間に赤くなって。


 「ナッ!何をいきなり言うのですか…………出会ったばかりだと言うのに……」


 しかも照れ臭そうにして、モジモジしていてる。

 年上みたいだけれど案外と可愛い。


 「冗談ですよ。それよりも本当にありがとうございました。物凄い剣の腕をしているのですね」

 「まぁ……毎日、剣の稽古をしているからな。それよりもさっきの言葉は……」


 「サクラ~~。もう~~置いてかないでよ~~」


 ピンク色の髪をした女性が、手を振ってこちらに向っている。


 「えっ!母さま…………」


 まだ遠いからはっきりとは見えないけれど、間違いなくその人はお母さまだった。

 優しい声も身長も同じで、あれ?胸が揺れていないけれど……


 僕は急いでオペラグラスを使って、顔を確認した。

 もしも間違えていたら、それこそ大変な事になるからだ。


 「姫様……そんなに走っては、はしたないですよ……」


 隣で美少女剣士が何かつぶやいているけど、僕はそれどころでは無かった。

 結婚を申し込まれた女の子の事も忘れて、僕は思いっきり走り出した。


 ピンク色の髪をしていて、何故か羊みたいなぬいぐるみを抱えているけれど、その人は間違いなくお母さまだった。


 「母さま~~~~!!母さま、会いたかったよ~~!!」


 まだ5日しか経っていないけれど、異世界で一人になった僕は心細かった。

 周りの目も気にしないで、思いっきりお母さまの胸に飛び込んだ。


 風に飛ばされたままフードを被っていないから、周りの人に真っ白な髪の毛も見られてしまっている。


 ムギューーー


 (やった。やっと会えたよ……)


 「キャッ、な、何よこの子……アワワワワワ…………」

 「ぶ、無礼者!!姫様から離れぬか!!」

 「えっ……」


 気が付いた時には、僕は美少女剣士に襟の後ろを持たれて投げ飛ばされていた。

 まるで漫画のようにクルクルと回りながら、木の壁に背中から激突したところで、目の前が真っ暗になった。

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