勧誘
「写真部に入りませんか!」
私は彼女が何を言っているのか分かったぐらいの距離でしばらく立ち止まった。話しかけるために近づいたわけじゃない。ましてや勧誘だ。人馴れしていない自分のことだ。安請け合いしてしまうかもしれない。
「幽霊部員でもいいんで!」
何故そんなに必死なのか。そもそも何で上級生じゃなくて一年生が勧誘してるんだろう。
「廃部の危機なんです!」
なるほど。
与えられた情報を基に瞬時に私はシミュレーションを行った。途中入部する場合はもうすでに形成されている人間関係に入り込むのが億劫だ。ちなみに部として学校から認められるための最低人数は3人という規定があるのは知っている。「幽霊部員でもいいから」という発言から恐らく部員不足による廃部を避けたいということだろう。
現状の写真部の人数は分からないが、来年度には3人に満たない見込みなのだろう。そうなると廃部になるので引き継ぐ一年生がいま勧誘をしているというわけだ。
となれば現状、写真部の一年生は勧誘している彼女1人かいてももう1人ということになる。ならば入部しても既存の人間関係を気にする必要はない。しかも入部するだけで感謝されるだろう。あわよくば友達になれるかもしれない。
この思考プロセス、0.1秒。脳が結論を出した。体も彼女の方へ赴く。
「すいません、入部希望なんですけど。」
「本当ですか!」
2棟3階の写真室前が放課後の待ち合わせの場所になった。授業後、しばらく待っていたら彼女が来た。
「いやー来てくれてありがとう。」
彼女が慣れた手つきで鍵を開けた。そこは教室の1/4ほどの空間があり、その中にも個室がある。壁には写真が貼られ、教室の奥には両腕で持つほどの大きさの額縁に入った水鳥の写真がある。教員用の机があり、椅子が4つある。机の上には本立てがあり、写真集がたくさん並べられている。
「ここが部室。」
「いかにも写真部って感じですね。」
「まあ、そうだしね。これが暗室。」
個室を指さす。
「暗室って。」
「Dark Room.フィルムを現像したり焼き付けたりする場所。」
彼女はもう一つの鍵で個室を開ける。見慣れない機器が並ぶ。
「まあ、自分もどうやってやるのか分からないけど。」
「あの、写真部って何やる部ですか。」
「何って、写真を撮る部活。」
「何か大会とか、ノルマとかあるのかなあって。あと活動時間とか。部費とか。」
「うーん、特に無いかな。先輩とかはコンペに出してたらしいけど。自分はそこまでかな。部費とかはない。」
「あー一応文化祭で映写機使って写真上映会やるからそれ用の写真はみんなで撮ったな。」
とりあえずうなずく。
「特になんか頑張らなくてもいいってことですか。」
「というか、タメでいいよ。同じ一年なんだし。あ、わたし大島。大島綾乃。あーちゃんでいいよ。」
突然の自己紹介だ。そういえばお互いに初対面だった。
「あ、自分、住田、住田理子。理系の理に子供ね。文系選択だけど。」
大島さん、じゃないあーちゃんがクスッと笑う。「あ、、、、りこちって呼ぶね」
「あ、いいあだ名。」
なんか友達って感じだ。こういうのを求めていた気がする。急すぎて気持ちが追いついてない。くすぐったい。
「活動時間は昼と放課後。昼は物理室で食べてる。顧問が物理の茂山先生なの。わかる?あのなんか中年のおじさん先生。」
「あ、そうなんだ。」
「いつも外で食べてるの、裏で有名なんだよ、りこち。」
「え、、、、マジ?」
「寒いのによくやるよ〜」
「いやカイロないと死んでる。」私はセーター裏のカイロを見せた。
「これからは物理室に来なよ。少なくとも寒くはないからさ。」
願ってもない提案だ。
「え、いいの?」
「めっちゃニヤつくじゃん。いいに決まってる。入部でいい?」
「うん」
おもわず二つ返事で返した。思わず口から訂正が入る
「あ、、、、いや、なんでもない、入部、入部する。急に聞かれたからびっくりしちゃった。」
「あ、ごめん、それでカメラなんだけど」
「あ!」
「え?」
「あ、自分カメラ持ってないんだった!」
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