第7話 その日
「……」
言葉が出ない。
何故言葉が出ないかは分からない。
驚き?いや違う。
怖い?いや違う。
悲しみ?いや違う。
一体これはなんだろう――。
目の前にいるこの女の子の目には光がない。
希望もない人間のような顔をしているこの女の子は何を考えてるんだろう。
「見てて思うんだよ、お前も私と同じだって。なんか見てて怖いんだよなお前。学校での振る舞いも1人の時のお前も全部だ」
「わかんないな」そう笑って答える。「僕は君とも違うし誰とも違う。俺は俺だ」
後ろを向いた。岡野からの視線を逸らすように、喋りかけられないように。
「…そっか」
それ以降、岡野も自分から喋りかけてくることはなくなった。ただ二人とも探す仕草は見せなかった。
それから一時間以上立ったその時、俺が座りながら奥の方に目を向けていると黒い犬と大人らしき大きい人達がいるのを見つけた。
「なぁ岡野…」
「私も見た」
食いつき気味に上から岡野が言った。色々な場所に散らばって大人たちが最初の俺たちのように土を掘り返したりしている。
「…警察だな」
岡野はそう言って木の上からスっと飛び降りて来た。クシャっと落ち葉が潰され悲鳴をあげているかのような音を鳴らし宙に舞った。
俺と岡野は警察に気づかれる前に山をそっと降りた。そしてみんなで最初に集まっていた場所に戻った。
周りには古い民家。もう整備のされていない田んぼが生暖かく緩い風に当てられていた。
永遠と続くかのように思えたどんよりとした雲は、俺たちの頭上からすっかりと消えた。徐々に傾き初めている太陽がこの町を明るく照らしていた。
鈴虫の音色を耳に入れながら、
セミの音色を肌で感じながら、
俺らは皆が戻ってくるのを待っている。
何分たったのだろう。日陰でみんなが戻ってくるのを待っていると暗い山の中から人影が2つ見えた。
俺は目を細めてどっちだろうと見つめていた。しかし、明らかに思っていた大きさの人間ではなく一回り二回り以上大きい人間が目にうつった。
隣で眠りこけている岡野を揺さぶって「おい、おい、警察が降りてきたぞ」と耳元で言うと薄く目を開けてジトーっと二人の警察を見つめた。
「あいつらはまだなの」
あいつらとは隼也達のこと。
確かに今警察が降りてきた場所は隼也と委員長が登っていった場所…。
もしかしたらアイツらは他のところで隠れているのかもしれない。
「おい、なんかこっち来たぞ」
岡野が目を向けている警察の方を見ると明らかに俺たち目掛けて歩いてくる二人の警察がいた。
「君たちは何をしているのかな?さっきも同じような子供たちがいてね。その子たちの友達?」
俺は口を開かずただ首を上下に動かして頷いた。
「それじゃあ着いてきてくれるかな?君たちの友達も待ってるんだけど…」
俺たちは重いおしりを上げて少しついた土を手でパッパっとはらって警察の後をゆっくりとついて行った。
ついて行った先に見えたのは4人の子供と警察らしき人物。子供たちは土で汚れた服を着ていたり、手に絆創膏をつけたりしている。
「連れてきました」
俺たちを連れてきた警察の1人が言った。
隼也達と喋っていた警察の服とは少し違うおじさんが俺たちの方を向いて「おう」と言いこっちに近づいてきた。
そのおじさんは少し身を屈めて俺たちに目線を合わせた。
「君たちも偉いな、友達のためにここまでできるのはすげぇ〜ことだぞ?」
とニヤリと笑って二人の頭をポンポンと優しく撫でた。
「んでちょっと聞きてぇんだけどよ、今行方不明の、君たちも探していた夕凪花恋ちゃんのことなんだけど――」
そう切り出して花恋ちゃんのことについて詳しく聞かれた。俺と岡野はいつもどーしてたとか花恋ちゃんとはいつから知り合ったとか聞いて意味があるのかと思う事をいくつも聞かれた。
最後にありがとう、とおじさんは言い質問は終了した。少し僕たちから距離を置いてパトカーの止まっている方で警察の人とおじさんはコソコソと話をしている。
その様子を不思議に思い見ていると、いつの間にか話は終わったようでおじさんだけが僕たちの方に戻ってくる。
「君たちも花恋ちゃんの探す事の許可が出た。ただし日が落ちるまで、いいか?」
隼也に向けて言っているんだと目を見て分かった。多分隼也が見つかった時に話をしてみたんだろう。
近くにある山はこれ以上入って来るなと言っているように大きく威圧を出してくる。
太陽が出てきて日差しが強くなる。
肌がジンジンと焼けていくような暑さ。
追い打ちをかけてくるように熱い熱風。
早く山に入って日影に入りたいと思わせる。
――神様は俺に何をしろと言ってるんだろう。
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