第3話 一日前 正午

「ただいまー」


誰もいない家からは何も返ってこない。返ってくるのは今日の教室みたいな沈黙だけだ。


最初に洗面所に行き、手を洗ってからうがいをする。前にある鏡が少し汚れていたから僕は布巾をちょっと濡らして拭いた。


リビングに行ってもそこにあるのは”無”の空間だけだ。外からはポツポツと雨が降り始め、今のみんなの悲しい気持ちをそらは表しているのかもしれないな…。


冷凍庫から冷凍食品を取り出してレンジで温める。太陽がオレンジの中に降りて僕が食べようとしているカニコロ(カニクリームコロッケ)を温めて溶かしていく。

音を出しながら回るカニコロをじっと眺めながら少しの時間を待った。


カニコロに白米をつけてテレビの前にあるテーブルに持っていった。ママがいる時はテレビをつけながら見ちゃいけないけど今日はいいんだ。なんたってママがいないから!


僕はちょっとウキウキしながらテレビをつけた。


テレビをつけてもつまらない番組しかやってなかった。どのチャンネルをつけてもママより少し上のおばちゃん達が見そうな番組だ。


リモコンをテレビに向けながら何回もチャンネルを変えていった。「なんもないなぁ〜」と考えながら見ていると、ふと僕の指がぴたりと固まった。


『――あの誘拐事件から20年が経ちました』


ニュースキャスターの女の人が真剣な表情で話していた。


動いていた箸が止まり僕の目はテレビに吸い込まれるように釘付けになった。


テレビの中には誘拐された女の子と犯人像の怖い男の人。


身長170cm前後

痩せ気味の体型

茶色いカーディガンに黒スボン


テレビにはそう書いてある。


「――――――――」

「―――――――――――――」

「――――――」

「―――――――――――――――」

「――――――――――」


テレビは淡々と喋り続け僕の耳に入り込んでは抜けていく、それの繰り返しだった。


それから30分くらいたったかな。僕はぼーっとテレビを見ながら箸を動かしてお昼ご飯を食べ終わった。


お皿を重ねてから赤いボタンを『ポチッ』と押すと目の前は暗くなり、またこの箱の中は無言に包まれる。


「花恋ちゃんの話は出てないんだなぁ」


洗い場に片付けて僕は2階の自室に向かって足を進めた。


扉を開けると雨の匂いがむわんと鼻に入り込んで僕が今嗅ぐ匂いが全て変えられた。


匂いの元を目と鼻で探ると止まったのは窓。黒くなったどんよりとした雲がギザギザの網戸を通して見えた。


「あぁ、窓閉めてなかったんだっけ」


そう思いながら僕はベッドにヒョイッとダイブして僕は瞼の裏を見るように閉じた。


「――花恋ちゃん…出てきて欲しいなぁ」





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