第3話 一日前 午前

今日もママに起こしてもらう前に目が覚めた。昨日と同じように目覚めが良くてベットにずっといたいっていう気持ちがない。


決して重くもない身体をゆっくりと起こしていくと徐々に頭の中が回転していく。


(ああ、今日はあれがいるんだっけ…?)


昨日持ってこいと先生に言われた物がどこにあったか考えクローゼットの中にあった事を思い出した。


少し歩いてクローゼットを開ける。二段式になってる少し大きめのクローゼットだ。その二段目の場所から物を探し出して取った。


僕はそれを取り終えるとクローゼットを閉めて部屋を出た。



朝の時間はいつものように過ぎていった。

ママに『おはよう』と言ってパンを口に頬張る。ゴクリとパンを飲み込んだ後、滑らかな牛乳でパサパサで乾いた口を湿らせた。


洗面所にいって顔を洗い、歯を磨いてから用意されてた服を着る。


(今日こそは…学校で、花恋ちゃんに…会えるかな…!!)


『行ってきまーす』とママに言って家を出る。セミがミンミンと鳴く中、太陽は雲一つうつさないで僕たちみんなを見守り続ける。

そんな太陽から逃げるように僕は田んぼ道を走っていった。



僕たちが通う学校は3階に行くために職員室の前を通る。いつも静かな不気味な場所で僕はこの前を通るのが好きじゃなかった。


――しかし今日は違った。いつも静かなこの職員室は僕たちのクラスのようにザワザワしている。


僕は妙に恐くなって3階までダッシュでかけ登っていった。



息を切らして教室に入るといつもの空間が僕を待っていた。


「おいおいどうした聖司!めっちゃ息切らしてんじゃん!!」


「…い、いや体力トレーニングでもしようかななんて思ってよ」


「だははっ!ったくストイックなやつだぜ畜生!」と僕の肩を叩きながら声を出して笑っている。


やっぱりいつも通りだ。そう思いながら僕は席に向かった。ランドセルからお道具箱に荷物を移してる途中でいつもより少し早く先生が入ってきた。


…先生の顔がいつもより、暗い。きっとそう見えたのは僕だけじゃないはずだ。

みんな静かに席につき先生の方をみる。


隣を見ても花恋ちゃんはいない。僕はそれを見てからもう一度先生を見る。

そして今日の職員室の事を思い出して良くない事が学校で起こったんじゃないかと思った。


「…みんなに聞いて欲しいことがある。一昨日から学校に来ていない夕凪花恋ちゃんが三日前の夜から家に帰ってきていないようだ」


そう先生が言うと教室は時間が止まったかのような数秒の沈黙の後ザワザワと喋り始めた。


いつものような明るいザワザワではない。

――恐怖で染まりきった声がザワついた。


「誘拐事件ってやつ…??」「え、やばくない?!やばいでしょ…えっ…」「三日前からって…」「ニュースではなんもやってなっかたよ…?」


クラス中は混乱に包まれた。

「こんな田舎で誘拐なんて起きない」

「ここは安全なんだ」

「…きっと家出とか」と言う子達も。


「みんな落ち着いて聞いてくれ。いや、これで落ち着けってのは無理だよな…。俺も正直焦っている」


さっきのザワつきを無くした教室は先生の声だけがながれる。


「この四日間で花恋ちゃんを見たよ、花恋ちゃんらしき子を見たよって子は俺や他の先生に伝えてくれ」


先生の顔は怖さを増していた。

みんなも先生と同じような顔に変わっていき泣いてる女の子もいる。


「――早く出てきて欲しいな、花恋ちゃん」


先生が今日は三時間目まで学校に残り先生が見守りながら帰る一斉下校になると一時間目ぐらいの時間の時に報告してくれた。



あっという間に学校は終わりみんなは校庭に出ていく。校庭に出てもどの学年の誰一人として言葉を発していない。ただただお葬式の時に見るような顔が学校からいっぱい出てくる。


みんなの表情を映し出すかのように空は朝とは違い、黒い雲で覆われている。太陽は僕たちみんなを見守ることもせず暗い雲に身を隠していた。



家に帰るまで先生たちは僕たちについてきた。誰も一言も喋らず帰り道を歩いていた。

田んぼで作業をしているおじいちゃん達も僕たちの異様な空気を見て、あいさつはしてこなかった。


「さようなら聖司君」


「さようなら先生」そう言って僕はランドセルから鍵を取りだしドアを開けた。




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