第2話 二日前



今日はママに起こされる前に目が覚めた。今日の夢は誰かにずっと見られている感じの夢だった。だから怖くていつもより早く目が覚めたのかもしれない。


ベッドから身体を起こそうとすると僕の身体がベトベトしているのが分かる。そう言えば昨日は昼寝をしてそのまま朝まで寝ちゃったんだ。


…早く寝すぎたから早く起きたのかな?と今日早く起きた理由がすぐにふたつも出てきちゃった。


それはそうとお風呂に入らないまま学校に行くと花恋ちゃんに嫌われちゃうかもしれない。だから僕はベトベトする身体をベッドからすぐに起こしてお風呂に入り、頭と身体を洗ってすぐに出た。


お風呂から出るともうママがテーブルの上にパンと牛乳を用意していた。いつもと変わらない時間でいつもと変わらないメニューだ。


いつも通りご飯を食べていつも通り僕は学校に走って向かった。


(今日こそ明るい花恋ちゃん見れるかなぁ〜)


机に用具をしまって席に着いた。隣の席にはまだ誰も来ていないみたいだ。


僕は今日もいないんだなぁと思って今日は友達の方にいった。


「おはよ〜」

「よー、聖司!今日遊ぼうや!」

今日隼也しゅんやくんの家で遊んでもいいんだってー!」


隼也と蓮翔れんとと他の3人は先生の机の周りに集まって今日は家でゲームして遊ぼ!っていう話で、なんのゲームをして遊ぶかで盛り上がっていた。


「いいね!あそぼあそぼ!」


僕も少し家に帰ろうかとも思ったが、昨日遊べなかったぶん今日は遊ぼうと思った。



「今日も花恋ちゃん来ないらしいよ」


ゲームのはなしで盛り上がっていると近くにいた女の子たちがそんな話をしているのが聞こえた。


それを耳にした僕は心の中でため息をついて落ち込んだ。

(今日も花恋ちゃんいないのかぁ…)


先生が教室に入ってきてみんな席に座っていった。先生が出席簿を読んでいき花恋ちゃんの名前を呼んだ時に返事が無かった。それを聞いて今日もいないのかぁ…と改めて実感した。


昨日と同じで今日も憂鬱な五時間の授業を受けた。算数と国語が嫌いな僕にとって今日の算数と国語の連続授業は目を回した。

終わった今でも気分が悪い。


『キーンコーンカーンコーン…』


帰りのチャイムがなると教室はまたガヤガヤと騒ぎ始めた。それと同じようにセミも『ミーンミーン』と鳴いている。

今日も学校で花恋ちゃんに会えない僕もセミと一緒に泣きたいよ…。


机に手をついて重い腰をあげると朝喋っていた友達が僕の席の周りに集まってきた。


「早く俺の家行こうぜ!!」


今にも走り出しそうな勢いで隼也が足踏みをしている。


「うん!行こ!」そう言ってまだ騒がしい教室を六人で走って出ていった。


廊下を走ってる最中に名前の知らない先生が「廊下を走るな!!」と怒り気味で言ってきたのを無視して六人で笑いながら走った。やっぱり友達と遊ぶのは楽しい!


外は日に日に暑さを増している。もう聞きなれたセミの音は無視できても太陽の暑さは日陰に入らないと無視できない。眩しい光で僕たちを頭上から攻撃してくる。


「暑いねぇ〜」


「早く家行ってアイス食べようぜ」


「僕かき氷がいいなぁ」


みんな手で垂れてくる汗を拭いながらニコニコと話している。空を見上げると眩しくて直視できない太陽と雲ひとつない水色の大空が一面に広がっていた。


その大空を見上げながら歩いていると「何してんだよ聖司ー」と隼也が笑いながら言ってきてそれでまたみんなが笑う。


僕たちの住んでいる所はビルとかがある東京や大阪みたいな大きい場所じゃない。けどママはいつも「他の所にはないところがここにはいっっぱいあるんだよ」って笑顔で僕に聞かせてくれる。


田んぼ道を通ると麦わら帽子を被ったおじちゃんとおばちゃん達がいる。いつも通り「ただいまー」って言うと笑顔で「おかえりぃ」と優しく返してくれる。僕はそれが何気に好きだ。


大人になってもおじちゃん達は挨拶返してくれるのかなって考えたりもする。



みんなで喋りながら歩いているとあっという間に隼也に家に着いた。


「お邪魔しまーす」いっせいに言うと奥の部屋の方から「いらっしゃーい」と隼也のママの声がした。僕たちは靴を脱いで綺麗に揃え、リビングの方へと向かった。


「ゲームで遊ぶ前に手洗ってねぇー」


隼也ママが柔らかい口調でそう言うと洗面所とキッチンの洗い場で3人に別れて洗った。


みんな一瞬で洗い終えて大きなテレビの前につくとゲームのスイッチを隼也が入れてコントローラーを持った。


「あっ、ずるい!僕が最初だよ!」

「最初はおれ!次かしたるからまってて」


六人いるから四人が上限のゲームだと二人余る。それで喧嘩になるのはよくある事だった。


喧嘩になるとだいたい隼也ママが「ゲームは仲良くやるんやよぉ〜」と優しく言ってくれるんだけど収まらない時もあった。


隼也の家で遊んでからは時間が経つのが早かった。隼也ママがお菓子をテーブルに持ってきてくれてみんなで必死に食べたり、ゲームで盛り上がったり部屋の中で隠れんぼなんかもした。


「ってもうこんな時間かよ?!」と蓮翔が


僕は蓮翔の見ている方を見るといつの間にか時計の針が真っ直ぐになっていた。


蓮翔が「やべっ!母ちゃんに家入れてもらえんくなるっっ!!」って焦って帰っていくと「僕もだ!」「俺もやべぇ!」ってぞろぞろと帰っていき僕も荷物をかき集めて「お邪魔しまたー!」と大きな声で言いながら走って帰った。


みんなと別れてから走るのをやめて僕はゆっくり歩きながら帰った。あたりはまだ太陽が登っていて明るい。帰りにいたおじちゃん達の姿はもう見えず、田んぼと田んぼに挟まれている道を一人で歩いていて帰った。



「ただいまー」


家に着きリビングに行くとママがキッチンでご飯を作っていた。


「あら、おかえりなさい。今日は遊んできたの?」


「うん!今日は隼也の家で遊んでたよ」


「良かったわねぇ。ちゃんとお邪魔しました、言ってきた?」


「言ってきたよー」


ママは作り終えた晩御飯をテーブルの上に運んできた。


「手洗いうがいしてきなー」


「わかったー」



今日は帰ってくるのが早かったママといつもより早い夕飯を二人で食べた。

食べ終わるとママと一緒に食器を洗い、「お風呂入ってきなー」って言われたから朝よりもゆっくりと入った。


お風呂の窓を少し開けるとセミの声が聞こえてくる。雨の時と同じ少しジメッたい匂いが鼻の中に入っていく。お風呂から出ていく湯気はもくもくと空に飛んで行った。


お風呂を出たあとはテレビを見たり漫画を見たりしてダラダラとリビングで過ごした。


いつもの寝る時間になって歯を磨きに行くと新しい歯ブラシが洗面所に置いてあった。


「聖司歯ブラシどこにやったん?ママ見つけれんかったから新しい歯ブラシ置いといたでね?」


洗面所を去り際にママはそういった。



階段を登って部屋に行くと少し自分の部屋が臭かった。

(多分窓をずっと閉めててジメジメしていたせいだ)僕はそう思って窓を虫が入らないように少しだけ開けてベットに入った。

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