第48話 傍にいてね。ずっと、だからね。

 総決算が終わり、全ての遺恨は消し去った。


 それだけではなく、俺と神宮は、付き合うこととなった。


 そして、神さま擬きは、二人で引き継ぐことになった。


 神さまのお姉さんには、「二人でやらせてほしい」と伝え、必要以上の冷やかしを受けたけれど、最後は了承してくれた。


「今度はお前が反省文か?」


「半分はきみのせいだ」


「いやいや、お前が全面的に悪い」


「もう感謝することを忘れてるんだね……」


 放課後、一人反省文に向かう真壁の元に、俺は訪ねていた。


 真壁は、機嫌が悪そうに、シャーペンの先でコツコツと机を鳴らしている。


 それもそのはず、反省文を書くことになったからだ。


 しかも、こいつにとっては理不尽な理由なのだ。


「いやしかし、まさか神宮さんの住所の聞き取りをしただけで、反省文を書かされることになるなんてね」


「正直、申し訳ない」


「手伝ってくれる――」


「正直、申し訳ない」


「見事な即答だよ、もういいよ……それで?」


 訝しそうにこちらを見る真壁。


「なんだ」


「なんだじゃないよ! 僕に用があるから来たんだろう?」


「ご明察」


「そんな大それた察しでもないだろう……」


「紡!」


 教室の扉の方を見て、女の子の名前を呼ぶと、神宮紡が現れ、「はいはーい!」と言いながら、こちらに駆け寄ってきた。


 動揺する真壁。


 なんとも面白い光景だ。


「親友のお前には紹介しておくけれど――」


「待って」


 真壁は、震える声で、言葉の続きを遮り、


「この嘘吐きめ!」


 と怒号を浴びせてきた。


 嘘吐き呼ばわりしてくるのは、俺が真壁と紡の家を捜索した時に「神宮は彼女じゃない」と言ったからだろう。


「あの時は彼女じゃなかったから、嘘ではない」


「そんなことはどうだっていいよ!」


「どうだっていいのかよ!」


 ため息を吐き、真壁は机に顔伏せた。


「あーあ。この僕がきみに先を越されるなんてね」


 先も後もないと思うが……。


「その節はご迷惑をおかけしました」


 俺が戸惑っていると、紡が頭を下げた。


 真壁は、屈託なく笑い、首を横に振った。


「別に僕はなにもしていないですよ。それより、戸出くんのどこに惹かれたんですか?」


 戸出くんって言うな。


「特にないかな」


 紡も答えるな! ……って、酷くない?


「おいおい、沢山あるだろ」


 問い詰めるが、紡は首を傾げるだけ。


 その様子を見た真壁は、俺を見てほくそ笑んだ。


「これは……破局が近いね」


「余計なお世話だ!」


「でもまあ――」


 紡のポニーテールが揺れた。


「王子様みたいなところが、好きかな」


 女神。


 俺には紡が女神に見えた。


「愛してるぞ、紡」


 言わずにはいられなかった。


「そういうのはやめて」


 愛を伝えるも、真顔の紡に一蹴されてしまった。


 一つ間があり、やがて教室に笑い声が響き渡った。


 物語は守山にて終わったけれど――どうやらまた、始まってくれたようだ。


 まさか――この三人で、笑える日が来るなんて。


 お母さん、お父さん――俺は今、幸せだよ。


 俺は――幸せ者だよ。


 きっとこの日常を守り続けるから、天国で見ていてくれよ。


 どんな苦難困難が訪れても、神さまの嘆願から始まったこの奇跡を――絶対に守り続けるよ。

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自称"神さま"の女の子と険悪になりまして ~紡の切なる願いとは~ 水本しおん @shion_mizumoto

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