第46話 二人の差は......

 俺は、ゴミ山を登っていく。


 走るようにして登っていく。


 だが、ゴミ山が俺を、神宮に近付けまいと思っているかのように、触れた廃棄物がどんどん崩れていく。


 足場が少なくなり、辿り着くのが困難な状態だ。


 このままでは――神宮は戻って来れなくなる。


「こっちにこい! 俺は、お前のためなら死んでもいい! でも、お前には死んでほしくない! だから! こっちにこい!」


「…………モウ……ダメミタイ……」


「神宮っ!」


「ギャァアアアッァアクァアァアアッウウウウゥゥゥゥウグギギギギガァァアアッ!」


 心の闇が――神宮を包み込んでしまった。


 エックスは、肩で息をした。


 まるで自分も生き物だと主張するように、何度も肩で息をした。


 そして、不気味に周囲を見回した。


 目線は――こちらに向けられた。


 エックスは、俺を目がけて飛び込んできた。


 すんでのところで、回避。


 ゆっくりと後ずさりし、距離を取っていく。


 判断が遅れた――あとコンマ一秒遅れたら、死んでいるところだった。


 ただ、安心したのも束の間、残念なことに、エックスに攻撃の手を休める様子はない。


 俺の体一つで、俺を守ることはできない。


 横目で倒壊したゴミ山を捉える。


 あれを使うことができれば。


 全速力で走る。


「オゥゥウウウォオオアアァッ!」


 尋常ではない。


 エックスは、人を超越するスピードで追随してきた。


 神宮の闇は晴れない。


 これは、悲しいことだ、悲しすぎることだ。


 無理矢理に救い出すということは――神宮は一生、闇と向き合うことはできなくなるということだ。


 やると決めたのに、神さまにお願いをしたのに、神宮の体が壊れてしまいそうなのに――それが、できない。


 代わりたい、そうすれば、神宮は救われるのに。


 でも、そんなことは不可能だ。


 だから――心を解放するしかない、決別するしかない。


 できなければ――神宮がどうなるか、俺がどうなるか、わからない。


 わからないけれど――目先のことじゃない、もっと先の、ずっと先の、想像を超えた先の未来で選択を後悔しないためにやる。


 やはり――心を解放させる方法は一つしかない。


 二人の差を考える――それだけだ。


 俺にはあって、神宮にはないもの。


「グギャギャアアウ!」


 思考を遮るように、エックスは叫んだ。


 攻撃が来ると察知し、俺は電子レンジを持ち上げた。


 予想通りエックスは地を力強く蹴り、殴りかかってきた。


 エックスを鼻先まで引き寄せ、俺はカウンターとして、電子レンジを投げつけた。


 カウンターが見事にクリーンヒットし、エックスは狼狽えた。


「お前は――なにを求めているんだ!」


「ギャルルウゥウッ!」


「……お前を捨てた両親との再会か?」


「…………」


「心を――聞かせてくれ」


「ウウウウウウウウウウウウウァアアアアアアアァアアッ!」


 苦悶に満ちた叫びは、守山全体に響き渡った。

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