第43話 具現化した闇と決別しなければならない

 ご自慢のポニーテールが風に靡いた。


「私は、『過去と決別する』という願いを叶えるために、神さま擬きとなって奔走してきた――でも、終わりの見えない業務に耐えられなくなって、神さま擬きを辞め、神さまに直談判をしに行ったの。『叶えなくてもいいから、試練でもいいから、早く決別させてほしい。それが無理なら、新しい神さま擬きの戸出一二三くんに、無理に願いを叶えてもらうつもりです』とお願いをして――」


「お願いをされたから、試練を出してあげたんだよねえ――ただの試練じゃない、こんな闇がただで済むはずがないからねえ。あたしが出した試練は――具現化する闇と向き合うことだった。心の奥底に引きこもった闇を追い払うには、具現化した闇と決別しなければ意味がないはずだからねえ」


 補足として、神さまがそう付け足した。


 ……どういうことだ?


「俺は、闇を具現化せずとも、心の闇と決別することができましたよ?」


 問うと、神さまは顎に手を当て、唸り始めた。


「いやはや、鋭い着眼点だねえ。戸出くんは闇を具現化せずとも打ち勝てた――それは、きっと神宮ちゃんよりも心が荒んでいなかったからだと思うけれど……何故かはわからないんだよねえ」


 神さまでも知り得ない境地か――俺と神宮は、なにが違ったんだろうか……。


 俺も一緒に唸っていると、神宮が話を締め括るように、


「試練の途中、苦しくて、『神さまに会いたい』と嘆願書を出したことで、戸出くんやお友達を巻き込むような事態になって、本当に申し訳なく思っています」


 と言い、頭を下げてきた。


 具現化する闇と向き合うこと――俺は、余計なことをしてしまったのかもしれない。


「内なる闇に、勝てたのか?」


「……多分ね」


 自信がなさそうな神宮。


「とんでもない――あれで向き合ったなんて、ちゃんちゃらおかしいんだよねえ。どう見ても、戸出くんが救い出しただけだからねえ」


 呆れ顔の神さま。


 やはり――俺は、邪魔をしてしまったみたいだ。


「神宮……謝るのは俺の方だった。お前が向き合おうと、勇気を出したのに、結果的に引き止めるようなことをしてしまった」


 俺の謝罪に、神宮は首を横に振った。


「ううん、もういいの。きっと私は、恵まれている方だ――少しずつだけれど戸出くんと出会って、そう思うようになった。だから、大したことのない過去なんて、我慢するべきだったと反省してる。……一つわかった――戸出くんの話を聞いて涙した理由は、少しだけ自分と重ねたからだと思う」


 俺は両親が亡くなり、神宮は両親に捨てられた。


 二つの出来事は同じではない、異なるものだ。


 しかし、解せない。

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