第41話 条件破りが故の手助け

 カオス、カオスだ。


 逆さの馬鹿と、笑う馬鹿。


 俺は、不本意に広げてしまった風呂敷を畳むべく、わざとらしく咳払いをした。


「事件の関係者が集ったことですし、話を聞かせてもらいましょうか」


「事件って……大袈裟ねえ」


「お姉さん、お言葉ですが、あれは事件と呼ぶべき代物です。幾ら神さまが明言せずとも、俺はこの目で見たんです――あの非人道的な罰を!」


「語弊のある言い方は控えてほしいねえ――前にも言ったけれど、非人道的ではないわ。もしそうだとしても、神宮ちゃんの自己責任ね」


「自己責任って……確かに神宮は条件を破ったかもしれませんが、一回くらいは見逃してくれても良かったんじゃないですか?」


「イッツ神さまジョーク! もちろん条件を破ったことは駄目だけれど、それが理由で罰を下したわけじゃないんだよねえ。だから、前に言ったことは……イッツ神さまジョーク!」


 この人……普通そんな嘘を吐くか?


「言ったでしょ? 神さまは、戸出くんのことを揶揄ってるって」


 神宮は、したり顔でそう言った。


 これは、またもや怒りが込み上げてきたぞ。


「じゃあ、どうして罰を下したんですか!」


「おお、怒ってるねえ!」


「喜ばないでください」


「ま、神宮ちゃんの申し出があったから、特別措置を講じたってとこだねえ」


「申し出?」


「本来の約束であれば、『神さま自身の願いを叶えようとする行為』はタブーだけれど――神さま擬きとして働いてもらう期限というか、目標値のようなものを設定していなかったあたしも悪いからねえ。しかしながら、途中離脱であることには違いないから、真っ向から願いを叶えてあげるわけではなく、特殊な形で手助けするということになったんだよねえ」


「だったら、それを最初から言ってくださいよ」


「明言してしまったらつまらないからねえ」


 面白いか否かで、大切なことを歪曲して伝えないでほしいものだ――おかげで振り回されたからな……。


「やっぱり居場所くらいは教えてもらいたかったです」


「あたしも把握してなかったからねえ――もちろん神さまなんだから、把握しようと思えばできるけれど、それをするのは緊急事態の場合のみ。それにしても、一発で見つけちゃうとはねえ――流石は彼氏、以心伝心だねえ」


「違いますから!」


「つがいです」


 また神宮が『つがい』をアピールしてきた――虫っぽく言うな。


 話の脱線祭りだ――神さまを恨んでいる頃の俺なら、確実に手が出ていたぞ……俺が改心したことに、是非とも感謝してほしいものだ。


「特別措置の内容は――内なる闇に、打ち勝つというものだったの」


 そう言った神宮は、先ほど見せた笑顔から、真剣な表情に変わっていた。


 そして――呟くように話し始めた。

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