第40話 下から目線で謝ればいいというものではない

 声の主を確認しようと、周囲を見回すが、俺と神宮の他に姿はない。


 困惑に困惑を重ねていると――目の前に巨大な光が現れた。


 光は壊れるように分散していき、これまた見え覚えのあるやつが出現した。


 神さまの元締めである、巫女姿をした法螺吹きお姉さんだ――奇妙かつ呑気なことに、宙にふわふわと浮いていた。


 噂をすれば――というやつか。


 しっかし、よくも俺の前に来れたもんだな。


「なにしに来たんですか」


 つっけんどんに言うと、神さまは困り顔を作った。


「おお、怒ってるねえ」


「当たり前じゃないですか! 罰の件は、是非とも謝罪を求めたい!」


「謝ってあげるから」


「上から目線で言うことじゃない!」


 そうツッコむと、神さまは俯いて、沈黙した。


 謝罪や反省をすれば、収まるレベルの怒りではないが、やらないよりましだ。


 俺も成長したんだ――心を落ち着かせ、もう一度謝罪を促すのが筋だろう。


「反省してるんですか?」


 神さまは俯きながら、こくっと頷いた。


「はあ……。じゃあ、顔を上げて、ちゃんと謝ってください。あ、上から目線は駄目ですからね?」


 優しさで釘を刺してあげると――神さまは顔を上げて、くるっと半回転をした。


 俺は、眼前で行われた動作に、目を見開いた。


 いきなり神さまが逆さになったのだ。


 神さまは、逆さのままで、


「戸出くん、ごめん」


 と一言。


「……は?」


「リアクション薄いねえ……オーダーに応えて、下から目線で謝ったというのに」


 ぷっちーん。


「神宮、このコスプレ馬鹿を殴ってもいいか?」


 苦笑する神宮。


「駄目だよ。私の恩師も同然の方なんだから」


「もはや忌むべき対象だろ」


「青いねえ」


 逆さの馬鹿が、意味不明なことを言って、会話に入ってきた。


「青くはないでしょう」


「デートを邪魔されたくらいで、激昂するなんて、青いとしか言いようが――」


「デートじゃありません!」


 どこまで揶揄ったら気が済むんだ、この悪魔は。


「いや、デートです。私と戸出くんは、言うなれば『つがい』です」


 神宮がおもむろにそう言った。


 うん、ツッコまずにはいられない。


「神宮さん? 紡ちゃん? これデートじゃないよね? なんで話をややこしくするの? それに、俺たち『つがい』じゃないよね? なんでカブトムシのオスとメスみたいな表現をするの? カップルじゃないけれど、カップルと言った方がわかりやすいよね?」


「…………おっ、面白いから!」


 神宮さんこと紡ちゃんは、堪えていたものを吐き出すかのように、遠慮なく笑い始めた。

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