第34話 もう、逃げない、逃げたくない
俺が納得したことが伝わったのか、真壁は指をパチンと鳴らして続けた。
「それに、さっき言った二つ目もクリアしているからね、問題ないはずだよ」
確か二つ目は、情報の比較だったか。
幾ら嘘吐きではないとわかっていても、嘘を言う可能性が皆無というわけではない。
だからこそ、信用できる情報を、多方から入手して、比較することが重要になる……らしい。
「比較した結果は?」
「二十三人中、二十人が同じ住所を回答して、残りの三人は無回答だった」
「別の住所は出なかったのか」
「幸いなことにね。おかげで迷走せずに済んだよ」
いっそのこと迷走してくれれば良かった――入手した神宮の住所の正確性が担保されていなければ、あの場所に神宮邸が存在しなかったことにも頷けたが……どうやら、住所に間違いはないらしい。
そう考えると、益々怖い。
ヒューマンエラーはなかった。
ならば、神秘的な力が加わった――そう捉えることもできる。
もしや、あの神さまが、巫女のお姉さんが、神宮に下した罰は、家を消し去ることだったとか?
だとすると、家に不法侵入をして、神宮の居場所の手がかりを捜そうという禁じ手も意味をなさない。
だがしかし、単純に家を消し去っただけではないはずだ――それだけであれば、神宮が俺の前に姿を現さない理由がわからない。
どこにいるんだよ――神宮。
「僕も怖いさ」
俺の心中を察したのか、真壁が震えた声で、寄り添うような言葉をかけてくれた。
その心遣いに感謝して、俺は本音を言うことにした。
「心の内を言えば……この噂から、逃げ出したい」
噂から、逃げ出したい――言葉を濁したが、誤魔化したが、つまるところは、神宮を捜すことから、逃げ出したいと思っているのだ。
恐怖で、逃げ出したいと思ってしまったのだ。
「逃げ出したい……か。僕も逃げ出したいね、というか、いつもなら逃げ出しているさ」
いつもなら――含みのある言葉だ。
「今回は逃げ出さないのか?」
「うーん、そうだね。まあ、逃げ出さないかな」
「どうしてだ? 無理をして付き合わなくてもいいんだぞ」
「無理はしてないさ。神さまの噂は、僕も探求したいからね――それに、きみだって逃げないんだろう? 逃げたくないんだろう? 二人だから、僕は逃げないよ」
真壁の言う通りだ。
俺は、逃げない、逃げたくない。
神さまに会いたい――嘆願書を届けてくれた神宮を、俺は見つけ出したい。
危険なことに巻き込まれようとも、見つけ出したい。
逃げなかったことで後悔しようとも、見つけ出したい。
きっとここから逃げ出した時の後悔の方が、俺にとってずっと心に残り続けると思うから。
お母さんが亡くなった時、俺はなにもできなかった。
お父さんの願いを叶えてあげられなかった――お母さんを守れなかった。
だけど、今は違う。
関わっていたい、感謝を伝えたい、そう想える人を守れるだけの強さが備わっているはずだ。
だから、逃げない――いや、強さがなくとも、逃げたくない。
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