第31話 プライベートアイにだってなれる

「神宮が関与しているってのは、あくまで噂の域を出ないがな」


「それでもいいさ。伝え聞く情報は玉石混交だからね」


「協力を求めた俺が言うのも変だが、ただの石ころかもしれないぞ?」


「でも、宝石の可能性もある。だからこそ、些細な情報でも無下にはできないよ。それに、ただの石ころが混ざってるからこそ、宝石が映えるからね、そっちの方が僕としても面白いんだよ」


 こいつの冒険心というか、なんというか……好きなことに拘りを持って楽しもうとするマインドだけは、存外嫌いではない。


 嫌いになれないやつだからこそ、真壁に協力を求め、同行してもらっているわけだが――それでも、こと細かに教えるつもりはない。


 今日のことは、昨夜電話口で「神さまについて、重要そうな手がかりを得た。どうやら、三留高校二年生の神宮紡という女生徒が関わっているらしい。明日の土曜日、神宮紡のことについて調査したいと思うんだが、協力してくれないか?」と核心は避けつつ、お願いをしたのだ。


 また、電話口で『事前調査』と仰々しく銘打って、あることを追加で頼んでおいた――昨日の今日だから、期待はしていないが。


「昨夜頼んだことは、流石にまだ終わっていないよな?」


「おっと、愚問だね。僕を誰だと心得ているんだい?」


「唐変木」


「……方向性は違ってもいいから、せめて褒め言葉にしてほしかったよ」


「天邪鬼なもんでね」


 究極のお茶目ポイントを見せつけたつもりだったが、真壁は俺のことを心配そうに見つめ、ため息を吐いた、吐きやがった。


「話を戻すけれど、僕にとっては、あの程度の依頼なら朝飯前さ」


 そう自慢げに言って、メモ帳を紋所のように提示してきた。


 息を呑んだ。


 見開き二ページを惜しげもなく使い、赤色のボールペンでとある住所が記されているの

だが……ありえない、ハッタリだ。


 頼んでから十数時間しか経過していないんだぞ……人間の調査能力を超越してやがる。


「……神宮の住所で、間違いはないのか?」


「愚問だね。愚問中の愚問だね」


「なんだか憎たらしいな……」


「そこ怒るとこ? カルシウム摂取しなよ……というか、それよりなにより、まずは感謝の言葉でしょ」


 珍しく正論だな。


「流石は変質者、助かった」


「恩を仇で返すとはこのことだね……」


 俺が真壁にお願いした『事前調査』とは――神宮の住所を入手してほしい、というものだった。


 いやはや、まさか一晩で手に入れてしまうなんて……明智光秀でさえ仰天するレベルの一夜の追い込みだ。


 なにはともあれ、神宮の住所が判明したのであれば、話は早い。


「ありがとう、真壁」


 感謝に、目を丸くする真壁。


 何故だ。


「どうした、豆が鳩鉄砲を食らったような顔をして。別段おかしなことを言ったつもりはないが」


「鳩鉄砲って……沢山の糞をひっかけられそうだね。それに、十分おかしなことを言っていたと思うけれど、自覚がないとはね」


 これ以上、無駄話をしている暇はないのだが、訂正しなければならない。

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