第30話 貴重な休日は、RPGの村人とともに

 休日は、誰しも有意義に過ごしたいもの。


 有意義――それは、十人十色、千差万別。


 片やアウトドア、片やインドア。


 ここは、好みが分かれるところで、この選択が有意義に過ごせるかどうかの、重要なポイントになってくる。


 アウトドア派の人が、家でゴロゴロして過ごせば、勿体なかったと感じるだろう。


 インドア派の人が、外出して体を動かせば、苦痛だったと感じるだろう。


 無理をして、自分に合わない方を選ぶと、酷く後悔することもある。


 そして、俺は今、酷く後悔している。


 理由は明白で――休日にインドア派の俺が、アウトドアなことをしているからだ……と、それだけならいいのだが……。


「いやいや、きみが神さまの噂に興味を持つ日が来るなんてね。明日……違う、今日にでも嵐が来るかもしれない」


 開始三秒でウザい。


 俺は、大切な休日に、駅前で真壁と落ち合っていた。


 いやしかし、繰り返し言いたくなるウザさだ。


 最近では、世界中のあらゆるウザさ成分を集め、それを擬人化したら、真壁ができてしまったのではないかと推測しているくらいだ。


 だが、幾ら癇に障ったとしても、有意義でなくなったとしても、こいつを呼んだのは他の誰でもない俺だ。


 今日だけは、下手に出て然るべきだろう。


「休日に呼び出して悪かったな」


「全くだよ」


「今日はよろしく頼む」


「感謝しなよ」


「……真壁くん、もう少し言葉を選べないのかな?」


「選べないね」


 誇らしげに言うな。


「ま、この噂に関しては、僕も非常に興味深いと思っていたからね。内心ではワクワクしてるのさ。だからまあ、依頼料はタダで構わないよ」


 依頼料はタダで構わないよ――ナチュラルに言ったつもりだろうが、無視できないほどの強烈な異物感がある。


 その道のプロでもないのに、真壁を呼び出したら、料金が発生する……可能性があるらしい。


 決めた、本件が失敗したら、こいつとは縁を切ろう。


 絶縁をされかねない状況に追い詰められた男、真壁は、己に向けられた危険信号を微塵も察知していないらしい。


 その証拠ではないが、呑気に口笛を吹きつつ、ショルダーバッグから、いつものメモ帳を取り出しているところだった。


「まーた、その臭そうなメモ帳か。いい加減、買い替えた方がいいんじゃないか?」


 俺の慈悲満載の提案に、真壁はムッとした。


「失礼だね、毎日洗濯してるさ」


「……メモ帳じゃなくて、脳を買い替えた方がいいらしいな」


「失礼だね、毎日洗濯してるさ」


「駄目だこいつ……」


 RPGの村人のように、同じ台詞しか話せなくなってやがる。


 村人Aは、メモ帳を開いた。


「えっと、『神さまの噂に、三留高校二年生の神宮紡さんが、深く関与している』だったか……うん、何度見ても好奇心を擽られる情報だ」


 へえ、昨今の村人は、こんな台詞も用意されているんだなあ……感心だなあ……ああ、このノリもう飽きたな。

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