第28話 天の神さまの言う通り

 俺も驚いた。


 考えるよりも先に、言葉が出ていた。


 そして、驚きはしたものの、その発言に後悔はないと感じている。


 この感情は、好きとか、そんなものではない――はずだ。


 ただ純粋に、ひたすら純粋に、神宮を助けたいと思っただけだ。


 何故か――それは、わからない。


 おそらくだが、関わっていく中で、嫌いだったはずのあいつに、少しずつ心を許していたということだろう。


 いやしかし、理由などどうでもいい――この感情一つで、いい。


「好きと解釈してもらっても、別に構いません――神宮がこの学校に戻れるのであれば、それ以外のことは求めません。だから――」


 続きを言いかけて、強烈な違和感を覚えた。


 ……神宮は、嘆願書を出した。


 俺を真似して『神さまに会いたい』だなんて書き留めて。


 それなら、神宮は身動きができる状態にあるわけだ。


「まさかとは思いますが、監禁なんてしてないですよね?」


「はい? あたしはね、非人道的なことを嫌悪しているの。命が奪われようと、監禁なんてしないわ。ま、神さまだから、命はないけれど」


「でもっ! それなら、『俺の前から姿を消した理由』がわかりません」


「んー、なんにせよ、それが解消されたから、『神さまに会いたい』と書かれた嘆願書が提出されていたんじゃないの」


「それもそうですね……って、自然な感じで一緒に考えてくれている風ですが、神さまは全て知っているんですよね」


「ま、神さまだからねえ――本当は『戸出くんの前から姿を消した理由』が解消されていないことも、ぜーんぶ知ってるわ」


 理由まではわからないが――もちろんのこと、神さまから下された罰が深く関係しているのだろう。


 ……待てよ、わかったぞ、神さまの言う通りかもしれない!


 俺に対し、現在の神さま擬きに対し、会いに来るのではなく――会いたいという旨の嘆願書を出してきた。


 単に俺の真似をした、と考えられなくもないが、罪を償っているという状況であれば――なんらかの事情を抱えていて、俺に会うことができないからこそ、神さまに願う形で『神さまに会いたい』といった嘆願書を出したとも考えられる。


 いや、『考えられる』だとか、そんな程度ではない、希望的観測ではない。


 むしろ妥当であり、至って自然な思考だ。


 可能性で言えば、これが一番高い。


 だが、それがわかっただけでは、なんの意味もない。


 俺はやはり、神宮を見つけ出さなければならない。


 考えろ、考えろ、脳をフル回転させろ。


 ……そうだ、俺なら願いを叶えることができる――神さま擬きの力で、神宮を見つけ出せばいいんだ。


 おあつらえ向きの協力者なら、丁度その話をしたところだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る